時は夜更け。
とても静かな書斎にはカンテラが灯り、アキヒメが万年筆を走らせる音だけが響いている。
ふと、控えめなノックの音が鳴り、ミリフィエールが飲みものを携えてそっ、と顔をのぞかせた。
ああ、みりりん! 上々だよ!!
たくさんのかたやふたりに協力していただいたからね
……わたくし、あっぴぃが本当にたくさんの取材をしたり、わたくしたちを含め、多くのひとびとの意見を聴かれること……すごく驚きました。作家さんって、もっと自分の中で全てが完結されるものと思いこんでいたもので
それに対し、アキヒメは一瞬その手を止め、苦笑を浮かべた。
うーん、そういった思想の同胞も、もちろんいらっしゃるだろうが。私はたくさんの判断材料を集めたい側の人間だったんだ。――ただ
最終的に私の世界を決定するのは私。多くの欠片をひとつに繋ぎあわせ、望む結末を掴みとれるのは自分自身しかいないんだ
――なーんて、格好つけすぎてしまったかな、ハァーッハッハ……す……
いきなりすぎますあっぴぃ!!? お、お蒲団へお連れしなければ……っ!
月明かりの下、ミリフィエールはなんとかアキヒメを書斎にある蒲団へ寝かせると、部屋を出た。
外で待機していたヨダカは、ミリフィエールへ声をかける。
よく、お休みになっておられます……ふふふ、あの愛らしい寝息はやはり、癒やされます
……ヨダカ様。わたくしは今回の件で、『恋』についてたくさん思いを巡らせるようになりました。
本当に数えきれないほどの有り様があるのですね
私もだ。――きっとそれに『正解』などないのだろうな
『だれかを想う気持ち』に、『正解』はない……
ミリフィエールは、うつむいて物思いにふけりかけたが、身を翻したヨダカに促され、慌てて彼を追った。