月明かりの下で

文字数 1,191文字

 時は夜更(よふ)け。

 とても静かな書斎(しょさい)にはカンテラが(とも)り、アキヒメが万年筆(まんねんひつ)を走らせる音だけが(ひび)いている。

 ふと、(ひか)えめなノックの音が()り、ミリフィエールが飲みものを(たずさ)えてそっ、と顔をのぞかせた。
あっぴぃ、首尾(しゅび)はいかがですか?

ああ、みりりん! 上々(じょうじょう)だよ!!

たくさんのかたやふたりに協力(きょうりょく)していただいたからね

……わたくし、あっぴぃが本当にたくさんの取材(しゅざい)をしたり、わたくしたちを(ふく)め、多くのひとびとの意見を()かれること……すごく(おどろ)きました。作家さんって、もっと自分の中で(すべ)てが完結(かんけつ)されるものと思いこんでいたもので
 それに(たい)し、アキヒメは一瞬(いっしゅん)その手を止め、苦笑(くしょう)()かべた。
うーん、そういった思想(しそう)同胞(どうほう)も、もちろんいらっしゃるだろうが。私はたくさんの判断材料(はんだんざいりょう)を集めたい(がわ)の人間だったんだ。――ただ
ただ?
最終的(さいしゅうてき)に私の世界を決定(けってい)するのは私。多くの欠片(かけら)をひとつに(つな)ぎあわせ、(のぞ)結末(けつまつ)(つか)みとれるのは自分自身(じぶんじしん)しかいないんだ
!!
――なーんて、格好(かっこう)つけすぎてしまったかな、ハァーッハッハ……す……
す??
すぴょー、すぴょー……
いきなりすぎますあっぴぃ!!? お、お蒲団(ふとん)へお()れしなければ……っ!
 月明(つきあ)かりの(もと)、ミリフィエールはなんとかアキヒメを書斎(しょさい)にある蒲団(ふとん)()かせると、部屋(へや)を出た。
 (そと)待機(たいき)していたヨダカは、ミリフィエールへ声をかける。
ミリフィエール、あっぴぃは?
よく、お(やす)みになっておられます……ふふふ、あの(あい)らしい寝息(ねいき)はやはり、()やされます
あれはまぁ……そうだな

……ヨダカ様。わたくしは今回の(けん)で、『恋』についてたくさん思いを(めぐ)らせるようになりました。

本当に(かぞ)えきれないほどの有り(よう)があるのですね

私もだ。――きっとそれに『正解(せいかい)』などないのだろうな
『だれかを(おも)気持(きも)ち』に、『正解(せいかい)』はない……
……さぁ、我々(われわれ)ももう(やす)もうか
! はっ、はい!
 ミリフィエールは、うつむいて物思(ものおも)いにふけりかけたが、()(ひるがえ)したヨダカに(うなが)され、(あわ)てて(かれ)()った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色