文豪の決意

文字数 1,602文字

 とりあえず題材(だいざい)()めると()べ、作業に(はい)ったアキヒメを、ミリフィエールとヨダカは興味深(きょうみぶか)見守(みまも)った。

 そしてそれから一日ほどが()ち、その(かん)、ミリフィエールとヨダカはアキヒメ・クドウの神髄(しんずい)を見ることになる。

じゃあ、こんなものかな!
 ふたりの眼前(がんぜん)には今、見上げるほどの(うずたか)い紙の(たば)()みあげられている。
本当にこの(りょう)を、たった一日で書いたのか……
お茶をお()ちするたび、光の(はや)さで万年筆(まんねんひつ)(あやつ)っていらっしゃいましたものね……
ハッハッハァー! 正式(せいしき)に書くのはこの中から決める、というきっかけ――“草案(そうあん)”に過ぎないがね! みりりん、よだっち、選定(せんてい)手伝(てつだ)ってくれるかい!!?
 仁王立(におうだ)ちで言いはなつアキヒメに、ミリフィエールは()を引きしめる。
はっ、はい! 僭越(せんえつ)ながら精一杯(せいいっぱい)がんばりますっ
――ああ

 そこから怒濤(どとう)精査(せいさ)(はじ)まった。

 この国に()らすひとびとの心情(しんじょう)から生まれた草案(そうあん)たち。ときに(みな)で“おぅふ……”しながらも、その作業(さぎょう)確実(かくじつ)(すす)んでゆく。

 しかし、時間が()つにつれミリフィエールには、違和感(いわかん)のようなものが芽生(めば)えはじめた。ヨダカのほうをちらりと見遣(みや)るとやはり、釈然(しゃくぜん)としない顔をしている。


 しかし(さき)口火(くちび)()ったのは、ミリフィエールであった。

……あの、あっぴぃ。(すこ)しよろしいでしょうか?
んん、なにかね!? どれかよいネタが――
(いま)から失礼(しつれい)(もう)しあげること、お(ゆる)しください。……わたくし、あっぴぃ自身(じしん)のお(はなし)を書くべきかと思うのです

 アキヒメは、威勢(いせい)のよい笑顔(えがお)のまま停止(ていし)してしまった。

 そして少々後(しょうしょうのち)に、言葉(ことば)()らす。

――な、ぜ……?
わたくし、あっぴぃのお気持(きも)ち、(うかが)ったことがあります。それはとても(せつ)なくて、でもどこまでもやわらかな(おも)い――……(たし)かに『(こい)』だと思いました!
 アキヒメの顔が(こわ)ばって、()きそうに(ゆが)む。ふたりの会話(かいわ)から、なにかが繋がった(・・・・)らしいヨダカが、ぽつりとつぶやく。
なるほど、それで……
ヨダカ様?
私は、男性諸君(だんせいしょくん)のインタビューをしたことはふたりの知るところだが。

あっぴぃたちには()せていたものの、とあるひとのところにも足を(はこ)んだんだ。(かれ)は、“自分が担当(たんとう)している作家(さっか)さんのような、破天荒(はてんこう)(なか)繊細(せんさい)さのある女性(じょせい)恋物語(こいものがたり)興味(きょうみ)がある”――そう、言っていた

! それって……!

 ミリフィエールの脳裏(のうり)()かんだのは、少し(たよ)りない雰囲気(ふんいき)で、でも本当は(つよ)く、だれよりもアキヒメを(おもんぱか)っているひとりの男性編集者(だんせいへんしゅうしゃ)姿(すがた)――。

 アキヒメはぐっ、とくちびるを()む。

 そして、顔を()げたアキヒメは。

――少し、時間をもらうかもしれない。(いま)までで一番(いちばん)苦戦(くせん)しそうな題材(だいざい)だからね

 とても大人(おとな)びて、その(つよ)(ひとみ)には、(たし)かな(やさ)しいぬくもりが宿(やど)っていた。


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登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

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