芸術の都・ヴィオナ
文字数 1,590文字
大きなトランクを手にしたミリフィエールが汽車で降りたったのは、色とりどりの装飾に彩 られた劇場が建ち並ぶ、麗 しい都市であった。
ホシミカミの神殿と、自 らの住まいしか縁のなかったミリフィエールは、少し戸惑 いながらも、初めて訪れた街を興味深げに見回す。
華やかなデザインの看板、豪奢 な装いのひとびとを横目に、ミリフィエールは歩 を進める。意識を集中させると、どこかふらふらと足元のおぼつかない少女に、目が吸いよせられた。
美しい金の髪を持つその少女の目はうつろで、華奢 な手に、隠されるように握られていたのは――火!
急いで取りだした『夜の鳥かご』をかざし呪文を発すると、少女の心に巣くっていた『ヤミシドリ』が姿を現し、鳥かごの中に封じこめられる。
封印が終わるとミリフィエールは、そっと『夜の鳥かご』に口づけし、ささやいた。
そして、少女に向きなおり、手にしていた火を鎮 める。
『ヤミシドリ』から解放され、しばし茫然自失 としていた少女だが、不意に己 のしようとしていたことを思いだしたのか、身を震わせはじめた。
***
リタは、火を放ちかけてしまった劇場の壁を、申しわけなさそうになでながら、ぽつり、ぽつりと身の上を語りはじめた。
そう言うと、リタは姿勢を正し、高らかに歌いはじめた。
リタが歌いおえると、ミリフィエールは惜しみない拍手を送った。
ここ数週間で確信いたしました。『ヤミシドリ』は、心が急 いているかたや、深く苦しまれているかたに惹 かれる性質があるようなのです。苦悩を解消しない限り、『ヤミシドリ』は何度でも、リタ様に取り憑 いてしまうでしょう
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