その祈りは、届くのか。

文字数 2,331文字

 そうして、処刑(しょけい)の日はあっという()(おとず)れる。

 ミリフィエールは、リタやヨダカとの話しあいを(もと)に、ずっと『とあること』へ取りくんできた。


 それは、今までも細々(ほそぼそ)と続けてきた『ヤミシドリ』に関わったひとびとへ(したた)める手紙に、それぞれの人物に()わせてある文言(もんごん)を、丁寧(ていねい)(つづ)ること。


 彼女(ミリフィエール)にとっては、あまりにも勇気(ゆうき)のいる行動(こうどう)

 リタがゲリラ開催(かいさい)することになっているコロッセオ――ホシミカミの運命の場所――で行なわれるコンサートの、当日に必要な広告配(こうこくくば)りのお願いだった。


 彼ら、彼女らはホシミカミが行なったことの被害者でもある。

 手伝いのためには、国を()える必要のある人物だって多い。

 ……(あつ)かましいのは承知(しょうち)の上だ。しかし、今のミリフィエールにとってはそれが唯一(ゆいいつ)と言えるほど、大切なよすが(・・・)である。ミリフィエールは心をこめて、これまで関わったひとびとへ一通一通(いっつういっつう)、ペンを走らせる日々を送りつづけた。



 そして、『バァン』こと爆弾(ばくだん)使用(しよう)した襲撃(しゅうげき)準備(じゅんび)(おこた)らない。

 だが、あくまで爆弾(ばくだん)から火薬(かやく)()いておく。それは見た目だけ精巧(せいこう)に作られた模造品(レプリカ)――。コロッセオ侵入時(しんにゅうじ)順次設置(じゅんじせっち)し、神々(かみがみ)動揺(どうよう)させるという、作戦のうちのひとつだ。普段は鳥籠(とりかご)を入れていたトランクに、彼女は現在(げんざい)めいいっぱい、そちらを()めこんでいる。



 待ちあわせ場所に指定させてもらった、コロッセオから少し(はな)れたところにある広場(ひろば)。ミリフィエールはそこでトランクを足許(あしもと)()き、()し目がちに、両手を(いの)(かたち)()む。

 (ちか)くの木陰(こかげ)には、そんな彼女を心配そうに見つめるヨダカと、名と姿(すがた)が知れわたっているために、周囲(しゅうい)に見つかることで(さわ)がれぬよう、気配(けはい)(ころ)したリタが陣取(じんど)っていた。


 ミリフィエールはぎゅ、と目をつぶる。

 広場に何人か人が増えはじめた気はするが、それが彼女(かのじょ)()(びと)らかはわからない。

 むずかしい願いに、(みな)(こた)えてくれるだろうか。

 もし。もしもだれひとり、(あらわ)れなくとも。

 ――それでも、やりとげねば。

……お姉ちゃん。ミリフィお姉ちゃん!
 ヨダカの声に、ミリフィエールが(はじ)かれたように顔を上げると。
ハッハッハァー!! ひどいぞ、みりりん! 何度も声をかけているのに!! キリエくん、私は今、この場にちゃんと生霊(いきりょう)ではなく立っているかね?! げに不安かな!!
待ってくださいよ〜、アキヒメ先生! こちらはただでさえ、山のように先生の新作小冊子(しんさくしょうさっし)(かか)えているんですから!!
ひえっ、ミリフィさんのお知り合いのかただか? 重そうな荷物(にもつ)だぁ、おら、力はあるだよ。いっぱい持ちます! ほら、リューズ先輩(せんぱい)手伝(てつだ)ってけろ!
ちょっと待て……っ、迷子(まいご)になりたいのか、お前! 勝手に走りだすなよ……!
ミリフィエールさーん、お久しぶり! 綺麗(キレイ)な国ねえ、来ちゃった♡
俺たちが来たからにはばっちり救ってやろうぜ、はた迷惑(めいわく)な神様だけどさぁ!
皆さん……!!

 それは、かつて『ヤミシドリ』に(とら)われた人物(じんぶつ)と、それにまつわるひとびとだった。

 もちろん全員(ぜんいん)が全員、ここに集まったわけではない。

 しかし、ここに(たし)かに、()けつけてくれた仲間たちがいる。


 ミリフィエールは感極(かんきわ)まり、涙をはらはらと()とした。

どどどど、どうした、みりりん!?

ほらっ、手紙で詳細(しょうさい)をうかがった私は、この(とお)新作(しんさく)を引っさげて(さん)じたぞぅ! コロッセオにひとを集めなければよいのだろう。浅慮(せんりょ)ではあるが、リタ(じょう)のコンサートと(とも)(くば)れば、もしかしたら少しは効果(こうか)が上がるかもと思ったので!!

!! そ、そのようなことまで…………う、うあぁあん……っ!
な、なぜ(さら)()く!?

 ひたすらに、ありがたかった。

 (かれ)らは口々(くちぐち)に、『ヤミシドリ』に一度(いちど)(こま)らされたものの、まわりまわってよいほうに(ころ)んだし、ミリフィエールたちには感謝(かんしゃ)しているのだと(わら)いかけ、(はげ)ます。


 ――(こた)えなければ。成功(せいこう)させなければならない。

 このあたたかく(やさ)しい、皆と一緒(いっしょ)に。


 ミリフィエールは(ほほ)(しずく)(ぬぐ)い、(りん)とした調子(ちょうし)()げた。

絶対(ぜったい)(すく)いだします、わたくしの(すべ)てを()けて。

どうぞお力添(ちからぞ)えのほど、よろしくお(ねが)いいたします!

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登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

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