そうして、処刑の日はあっという間に訪れる。
ミリフィエールは、リタやヨダカとの話しあいを元に、ずっと『とあること』へ取りくんできた。
それは、今までも細々と続けてきた『ヤミシドリ』に関わったひとびとへ認める手紙に、それぞれの人物に合わせてある文言を、丁寧に綴ること。
彼女にとっては、あまりにも勇気のいる行動。
リタがゲリラ開催することになっているコロッセオ――ホシミカミの運命の場所――で行なわれるコンサートの、当日に必要な広告配りのお願いだった。
彼ら、彼女らはホシミカミが行なったことの被害者でもある。
手伝いのためには、国を越える必要のある人物だって多い。
……厚かましいのは承知の上だ。しかし、今のミリフィエールにとってはそれが唯一と言えるほど、大切なよすがである。ミリフィエールは心をこめて、これまで関わったひとびとへ一通一通、ペンを走らせる日々を送りつづけた。
そして、『バァン』こと爆弾を使用した襲撃の準備も怠らない。
だが、あくまで爆弾から火薬は抜いておく。それは見た目だけ精巧に作られた模造品――。コロッセオ侵入時に順次設置し、神々を動揺させるという、作戦のうちのひとつだ。普段は鳥籠を入れていたトランクに、彼女は現在めいいっぱい、そちらを詰めこんでいる。
待ちあわせ場所に指定させてもらった、コロッセオから少し離れたところにある広場。ミリフィエールはそこでトランクを足許に置き、伏し目がちに、両手を祈る形で組む。
近くの木陰には、そんな彼女を心配そうに見つめるヨダカと、名と姿が知れわたっているために、周囲に見つかることで騒がれぬよう、気配を殺したリタが陣取っていた。
ミリフィエールはぎゅ、と目をつぶる。
広場に何人か人が増えはじめた気はするが、それが彼女の待ち人らかはわからない。
むずかしい願いに、皆は応えてくれるだろうか。
もし。もしもだれひとり、現れなくとも。
――それでも、やりとげねば。