和と恋の国・ユズリハ

文字数 1,191文字

小さな海を越え、ふたりが立っているのは、『ユズリハ(こく)』と呼ばれる島国(しまぐに)だった。


 木の美しさを前面に出した建造物(けんぞうぶつ)や、障子(しょうじ)と呼ばれる建具(たてぐ)。どことなく(かお)(たたみ)(にお)いは、馴染(なじ)みなどないはずなのに、なぜか(なつ)かしさを感じさせる。物語の中でしか知りえなかった『()』の雰囲気(ふんいき)に、ミリフィエールの心は(おど)っていた。

なんて素敵……! ご本の通りです……っ
ユズリハ国は、文豪(ぶんごう)が多く輩出(はいしゅつ)されることで有名だからな。独立国家でここまで生活様式が違うのに、言語(げんご)がほぼ同じなのは大変興味深い

はい! 素敵な国の、作家さんの麗しい表現をそのまま()ることができるのは、とても幸福(こうふく)なことです!


まだ子どものころ、アキヒメ・クドウ先生の児童小説『みたらし義賊(ぎぞく)・ヒイロ』は特にたくさん読みかえさせていただきました。普段はお団子屋さんの看板娘さんが、夜になると瓦屋根(かわらやね)の上を音も立てず()けまわって、困っているかたの経済状態も心も助けてしまうのですよね……かっこよかったです!

……そうだな、貴方はすきだった
? ヨダカ様、なにかおっしゃいましたか?
い、いや、なにも! ところで。貴方はなにも感じないか?

(ヨダカ様のご様子、少しおかしいような……?)


あっ、はい。『ヤミシドリ』の気配はだいぶ近くなって……

それもあるがそうではなくて!


~っ、この国の、雰囲気だ……

!!


うっ、あっ、あの、はい……

 実はミリフィエールとヨダカは、先ほどから無生物以外(むせいぶついがい)への目の()()に困っている。

 『着物』と呼ばれる民族衣装に()(つつ)んだこの(まち)のひとびと、動物までもが一様(いちよう)に、

はい、おミツちゃん。たい焼き、半分こしよ♡はい、あ~ん♡♡
や~ん、ジロちゃんがお口に入れてくれると超おいし~♡♡
ねえ、貴方のために詩を書いたの……今、朗読(ろうどく)していい?
ああ、リツコさん。こんなところで愛を(うた)われたら俺は、我慢(がまん)ができなくなりそうだよ……
きゅっ、きゅうー♡
きゅっ。きゅきゅー♡♡

 いちゃこららぶらぶしていたからだ。


 そう、ユズリハ国は、別名『恋の国』。

 非常にロマンチックかつ情熱的なお国柄であることを(※小動物含む)、少なくともミリフィエールは(まった)く知らなかったのである(ヨダカは知識としてはあったが、ここまでとは思っていなかった)。


 ふたりはしばらく下を向き、(かわ)いた地面に視線をさ迷わせていたが。

とっ、とりあえずヨダカ様!
そっ、そうだなミリフィエール!
お団子食べに行きましょう!!
お団子食べに行こう!!
考 え る こ と を (ほう) () し た 。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色