オーディション当日
文字数 1,572文字
それから一週間後。ミリフィエールはリタに付きそって、オーディション会場にいた。
審査員席には著名 な演出家や作曲家をはじめ、歌姫・ステラが、それぞれの歌い手のパフォーマンスに耳を傾ける。
舞台の中央に立ち、束の間、目を閉じていたリタはやがて、高らかに、少し切ない旋律を歌いはじめた。
曲は、かつて、歌姫ステラを敬愛するきっかけになった『ひとりぼっちのカナリア』。
歌いきったリタの頬には、自然と、感謝の涙が伝っていた。
***
心配そうにリタを見やるミリフィエールに対し、リタは、清々しい顔で合格者に拍手を送っていた。
リタが決意を示したそのとき。一際 澄んだ、それでいてちょっと間の抜けたような声が、オーディション会場中に響きわたった。
ステラは刹那 、獲物を狩るような眼差 しを見せたが、すぐにまた、ふにゃりとした柔らかい笑みを浮かべた。
うれしさのあまり泣きじゃくるリタの背中を優しくなでながら、ミリフィエールは、強い意志をこめて紡がれていたリタの歌を、思いだしていた。
***
リタと再会を約束し、都を後にしたミリフィエール。
森を少し歩くと、懐かしい気配に立ちどまる。
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