第7話 説明セリフな人々(あの世編)
文字数 1,465文字
気がついたら石ころばかりの
まるで河原みたいなところを一人で歩いているぞ
一人で何もないところを
ずんずん歩いていたら
誰かがいたぞ
こんなところで人に会うなんて驚いた
ぼくは一人きりで何もないところを歩いてきたので
きみに会って驚いている
そういうきみに見覚えがあるぞ
きみは近所に住んでいて小学校までいっしょだった幼なじみじゃないか?
なんてことだ
ぼくは小学校までいっしょだった幼なじみと
こんな河原のようなところで出会ってさらに驚いている
おれは地元の中学と高校に通い
東京の専門学校を出てから
職を転々として
最終的に派遣でわけのわからない会社に行ったけどブラックすぎて過労死した
ぼくは親の転勤に合わせて地方の中学へ行き
そこの高校を卒業してから東京の大学へ進学
それからIT関連の企業になんとか入れたけど
なんだかんだで屋上から飛んだよ
なるほど死者が訪れるという
三途の川はまさにここなのか
見たまえ
あのごうごうと流れる大きな川を
二人の前方に向こう岸の見えないほどの
あまりにも大きな川が流れているな
おや?
あそこになにやら人がいるぞ
おお
いつのまにやらまるで気配のない人々が集まっている
そして
あれは噂にきく奪衣婆ではないか
奪衣婆というからにはもっと老婆をイメージしていたが
目の前にいるのは若い女性ではないか
私語が過ぎたらしい
死者の衣服を奪い取るという奪衣婆に
目をつけられてしまったようだ
こちらをにらんでいる
ここは素直にしたがおうではないか
着ている服を脱げばいいのだろう
そう言っておれは上着に手をかけすみやかに脱いだ
ズボンも脱ぐ
しかし
そこで手が止まるのであった
そうだ
上着とズボンはいい
だがこのパンツはどうする
ぼくはまわりを見る
他の死者たちはぼんやりとした様子で
死に装束を脱いでいく
そうなのだ
彼らはきちんと葬式を経由してここに来ている
それに対しぼくたちは死んだときの服のままだ
眼前に音もなく近寄る奪衣婆に気圧された
おれは意を決してたずねる
すみません
パンツも脱ぐのでしょうか、と
そのときぼくの脳裏にふと浮かんだことを聞いてみる
もしかして
ここはエロ漫画空間ですか、と
なるほどたしかにそうだ
こんなところで全裸にされるなんて
あるいはエロ次元なのかもしれん
パンツまで脱いだら
ちんちんがブラブラしますが
よいのでしょうか
むう
ちんちんがブラブラでは
アニメ化されたときに困るのではないか
アニメならちんちんがブラブラしていたら
謎の光や謎のキャラクターが
隠してくれるだろう
おまえらなんなん
はいはい脱いだらすぐに
そこの舟に乗る
なんとも頼りない木製の舟が
妖しげな三途の川に揺られている
その水面に映るものなし
見上げれば無限の虚空
これが真の闇であろう
その後二人がどうなったのか、もちろん知る者はない。
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