第88話 マッチ売りの少女売りの少女
文字数 1,561文字
マッチ売りの少女〜
マッチ売りの少女〜
マッチ売りの少女はいらんかね〜
これからどんどん寒くなる
雪だってふらぁ
北風ぴゅうぴゅう吹く寒空の下
粗末な薄着
ボロの靴
手袋なんかあるわけねえ
かじかむ指先をはあはあしながら
道行く淑女紳士たちにこう言うんだ
「どうかマッチを買ってください」ってね
もちろんだれも買うわけねえ
マッチが売れなきゃ帰れねえ
帰ったところで待ってるのは冷たいスープにかたいパン
かっー!
不憫不憫
まったくこの世は理不尽さ
お客さん
じつはこの娘が最後のひとりなんでさあ
買うなら今しかないよ?
はい
マッチ売りの少女族の末裔です
しかし
本当は違うのです
ある人物を抹殺して歴史を変える任務だったんですが
過去の世界にはすっぽんぽんで現れるため
いえ
こちら殺戮ロボットなんで
返り討ちにしてくれようとしたところ
そこへ赤信号を無視したトラックが
突っ込んできまして
殺戮ロボットなんですが
攻撃力全振り
防御力ゼロだったもので
即死というか全壊しまして
気がついたら異世界に
人間の女の子として転生していまして
初代のわたしはもとが殺戮ロボットでしたので
心がなく
ただぼんやりとさまようばかり
しかし
人間であるがゆえ空腹に耐えきれず
倒れたところを
あるおかたに拾っていただきました
彼は心優しい王でした
争いを好まず
平和な国家を望んでいました
ところが
フェアディエン様のお気持ちなど国民がわかるわけもなく
王国は堕落と傲慢の都となりました
はあ
フェアディエン様はなんだかんだて魔王となり
神の国から火を盗みました
原子の火です
初代のわたしは
魔王フェアディエン様の妻となり
七人の子を生みました
すなわち
荒ぶる大海の王ネプトラーディ
静寂なる森林の姫ウタンラーディア
常闇の
ながきにわたりこの世界を支配した魔王フェアディエン様ですが
ついに忌まわしき勇者によって永劫の闇へと還りました
初代のわたしもまた勇者によって封印され
わたしの一族は魔王の直系として
罰をうけました
すなわち
神の国より盗んだ火を売るだけの貧しい一族です
しかし
もともとは原子の火
マッチ程度の大きさでも秘められた力は尋常ではなく
ごく稀に情けで買ってくれた人が
その扱いを間違い
地上は幾度となく汚染されました
それは昔の話で
わが一族は最終的に
対消滅マッチまで開発しました
コレがそのレプリカです
本物はこの大陸ごと吹き飛ばしかねないので空気中には晒せません
はい
マッチ売りの少女なので
仕方ありません
それに
遺伝子に刻み込まれた
かつて殺戮ロボットだったころの
冷酷さもうっすらと残っていますので
ぶっちゃけ
惑星ごと消したい
そんなキミがなぜあんな
マッチ売りの少女売りの少女の言いなりになってるんだ?
彼女こそ理不尽なる人類の勇者
その子孫なのです
だから
わたしの一族は逆らえないのです
マッチ売ってこい
全部売るまで帰ってくんなよ
がはははは
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