不死身の大悪魔(10)
文字数 2,418文字
矢口ナナ隊員は、美菜隊員に憑依した悪魔に甚振 ぶられ、瀕死となった純一少年の姿を見て、苦しそうに呟いた。
「純一君、もういいよ。君、封印が解けたら特別な力が使えるのでしょう? そうなったら、別の世界に逃げられるのでしょう?」
純一少年は倒れ、藻掻 きながらも矢口隊員が悪魔の囁きに耳を貸さないよう制止する。
「駄目だ!」
「黙れ、死にぞこない! 折角、矢口隊員が、私たち二人を助けてくれるって言っているのだぞ」
「隊長、矢口隊員を押さえて! 早く!」
純一少年の言葉に応え、蒲田隊長と新田参謀が走っていき、ペグを抜きかけていた矢口隊員を間一髪で取り押さえた。それを見た美菜隊員は、悔しそうに純一少年の背中を踏みつける。そして、踏みつけが何回か続いた後、純一少年は意識を失った。
「でも、結局はあたしの勝ちね……」
美菜隊員はそう言うと、ガクッと膝を突いた。そして今度は、ゆっくりと死んだ筈の首相が立ちあがる。
彼は美菜隊員に指示を与えた。
「では、新田美菜隊員。君がこの結界を破り給え。今なら、純一君は助かるかも知れないよ。急がないとね」
美菜隊員は夢遊病者のようにフラフラと立ち上がり、誰もいないバックスタンド側のペグの方向に歩き出した。沼部隊員が外苑門の方から必死に美菜隊員を止めに入る。しかし沼部隊員は、途中で競技場のトラックへと吹き飛ばされるように跳んで、そのまま倒れ込んでしまった。さきほど美菜隊員が落とした拳銃を取って、日本国総理大臣が沼部隊員を撃ったのだ。
だが、それとは別に、もう一つの銃声が別の方向から響いて来る。それは、沼部隊員が撃たれたのと略同じタイミング……。
狙いすました鵜の木隊員によって、大悪魔の心臓は見事に撃ち抜かれたのである!
「終わったのか?」
新田参謀が、純一少年を助け起こしていた蒲田隊長に声を掛ける。それに答えたのは、抱えあげられた純一少年だった。
「終わりましたよ……。奴は死にました。もう大丈夫です」
「良かったぁ。もう大丈夫なんだね……。沼部隊員は大丈夫かなぁ」
矢口隊員がそう言いながら、ペグを一本、一本抜いて行く。
「ああ、俺は大丈夫。腕を撃たれただけだ」
トラックの端では、沼部隊員が痛がりながらも笑顔を見せている。
「ええ、これで全て上手く行った様ですね。皆さん……」
純一少年がそう言って、ニヤリを笑みを浮かべた。
蒲田隊長がそれに応える。
「ああ、最後の仕上げでな……。下丸子、鵜の木、こっちに来て、純一君を運ぶのを手伝ってくれ」
蒲田隊長の言葉に、両隊員が純一少年の所に走り寄り、彼の左右の腕を掴んで持ち上げる。そして、左手を持った鵜の木隊員が、彼の腕に金属の腕輪を嵌めて、ニッコリと微笑んだ。
「純一の腕輪だぜ。俺が預かっていた、最新式のな……」
「ありがとう、鵜の木隊員……」
「で、純一は忘れちゃったのか? その腕輪の機能を……」
「?」
「俺に教えてくれたじゃないか? この腕輪は、悪魔の能力を完全に封じて、人間と同じにしてしまう腕輪だって……」
「え? 何を言っているんです……? 鵜の木隊員……」
「これを嵌めると、時間を戻すことも、憑依し直すことも出来ないんだろう?」
「貴様たち……、まさか……、感づいていたのか?」
純一少年は突然、声色が変化した。しかし三人は左程驚きはしていない。
「だが、こんな腕輪……。は、外せない? 奴は何を……?」
純一少年は彼自身の記憶を辿 ったのだろう。そして、それにぶち当たった時、彼自身、今、完全なピンチに落ちてしまったことを理解した。
下丸子隊員が、その記憶を、改めて言葉にして繰り返す。
「君は言ったじゃないか……。『奴がもし勝ったとしたら、能力を奪う為に僕の体に憑依する』って、そして……『そうなったら、恐らくどっちが勝ったか分からない。決着が付いたら、僕にこの腕輪を着けて、この剣を額に当ててください。この腕輪は、悪魔の能力と憑依する力、悪魔の筋力、全て奪います』とね……。
でも、その腕輪、君には外せないよね。パスワードが必要だもの……」
「そんなもの……、こいつの記憶を辿 れば簡単だ……。な、何? ネイピア数eの少数点以下10桁だと……」
「さ、剣を君の額に当てさせて貰うよ」
蒲田隊長が落ちていた韴霊剣 を拾って、両手を抑えられている純一少年の額に、その剣を近づけていく。
「止めろ! そんなことをすれば、こいつも死ぬんだぞ。永久に蘇ることはない。それでもいいのか?」
「彼はそうは言わなかった。彼は『この剣は自分の剣だ』と言ったんだ。そして『奴に憑依された時、これを僕に使っても、敵だけが吸収され消滅する』と彼はそう言った」
「そんなの嘘に決まっているだろう! そんな都合のいい武器がある筈ない! お前たちは奴を見殺しにするのか? この世界だけが生き残りたいと云う、人間のエゴの為に」
純一少年の傍に、美菜隊員もやって来た。
「美菜隊員……。君は、純一君を見殺しにしないよね。君だけは……」
「見苦しいぞ大悪魔。私は隊長として、大悪魔の言葉よりも、隊員の、仲間の言葉を信じる。もし、それで純一君が死んでしまう様だったら、責任を取って、私もここで死のうじゃないか!」
「蒲田隊長、参謀として、それを許可する。ついでに俺もそうさせて貰おうかな……。俺も、純一を信じる」
新田作戦参謀も同意した。言葉にしなくとも、美菜隊員なら、もう覚悟が出来ている。
蒲田隊長は、顔を恐怖で引き攣 らせた純一少年の額に、彼が首から掛けていた守り刀、韴霊剣 を押し当てた。
すると、純一少年と彼の剣は、不思議な光に包まれ、そして数秒後、その光は夕陽が沈む様に、静かに暗くなっていく……。
暫くした後 、蒲田隊長は、純一少年の胸に耳を当て、彼の心臓の鼓動と呼吸の有無を確かめた……。
蒲田隊長は顔を上げる……。
だが、隊長は無言のままに、皆の期待に反して、周りの仲間に首を横に振って見せたのであった……。
「純一君、もういいよ。君、封印が解けたら特別な力が使えるのでしょう? そうなったら、別の世界に逃げられるのでしょう?」
純一少年は倒れ、
「駄目だ!」
「黙れ、死にぞこない! 折角、矢口隊員が、私たち二人を助けてくれるって言っているのだぞ」
「隊長、矢口隊員を押さえて! 早く!」
純一少年の言葉に応え、蒲田隊長と新田参謀が走っていき、ペグを抜きかけていた矢口隊員を間一髪で取り押さえた。それを見た美菜隊員は、悔しそうに純一少年の背中を踏みつける。そして、踏みつけが何回か続いた後、純一少年は意識を失った。
「でも、結局はあたしの勝ちね……」
美菜隊員はそう言うと、ガクッと膝を突いた。そして今度は、ゆっくりと死んだ筈の首相が立ちあがる。
彼は美菜隊員に指示を与えた。
「では、新田美菜隊員。君がこの結界を破り給え。今なら、純一君は助かるかも知れないよ。急がないとね」
美菜隊員は夢遊病者のようにフラフラと立ち上がり、誰もいないバックスタンド側のペグの方向に歩き出した。沼部隊員が外苑門の方から必死に美菜隊員を止めに入る。しかし沼部隊員は、途中で競技場のトラックへと吹き飛ばされるように跳んで、そのまま倒れ込んでしまった。さきほど美菜隊員が落とした拳銃を取って、日本国総理大臣が沼部隊員を撃ったのだ。
だが、それとは別に、もう一つの銃声が別の方向から響いて来る。それは、沼部隊員が撃たれたのと略同じタイミング……。
狙いすました鵜の木隊員によって、大悪魔の心臓は見事に撃ち抜かれたのである!
「終わったのか?」
新田参謀が、純一少年を助け起こしていた蒲田隊長に声を掛ける。それに答えたのは、抱えあげられた純一少年だった。
「終わりましたよ……。奴は死にました。もう大丈夫です」
「良かったぁ。もう大丈夫なんだね……。沼部隊員は大丈夫かなぁ」
矢口隊員がそう言いながら、ペグを一本、一本抜いて行く。
「ああ、俺は大丈夫。腕を撃たれただけだ」
トラックの端では、沼部隊員が痛がりながらも笑顔を見せている。
「ええ、これで全て上手く行った様ですね。皆さん……」
純一少年がそう言って、ニヤリを笑みを浮かべた。
蒲田隊長がそれに応える。
「ああ、最後の仕上げでな……。下丸子、鵜の木、こっちに来て、純一君を運ぶのを手伝ってくれ」
蒲田隊長の言葉に、両隊員が純一少年の所に走り寄り、彼の左右の腕を掴んで持ち上げる。そして、左手を持った鵜の木隊員が、彼の腕に金属の腕輪を嵌めて、ニッコリと微笑んだ。
「純一の腕輪だぜ。俺が預かっていた、最新式のな……」
「ありがとう、鵜の木隊員……」
「で、純一は忘れちゃったのか? その腕輪の機能を……」
「?」
「俺に教えてくれたじゃないか? この腕輪は、悪魔の能力を完全に封じて、人間と同じにしてしまう腕輪だって……」
「え? 何を言っているんです……? 鵜の木隊員……」
「これを嵌めると、時間を戻すことも、憑依し直すことも出来ないんだろう?」
「貴様たち……、まさか……、感づいていたのか?」
純一少年は突然、声色が変化した。しかし三人は左程驚きはしていない。
「だが、こんな腕輪……。は、外せない? 奴は何を……?」
純一少年は彼自身の記憶を
下丸子隊員が、その記憶を、改めて言葉にして繰り返す。
「君は言ったじゃないか……。『奴がもし勝ったとしたら、能力を奪う為に僕の体に憑依する』って、そして……『そうなったら、恐らくどっちが勝ったか分からない。決着が付いたら、僕にこの腕輪を着けて、この剣を額に当ててください。この腕輪は、悪魔の能力と憑依する力、悪魔の筋力、全て奪います』とね……。
でも、その腕輪、君には外せないよね。パスワードが必要だもの……」
「そんなもの……、こいつの記憶を
「さ、剣を君の額に当てさせて貰うよ」
蒲田隊長が落ちていた
「止めろ! そんなことをすれば、こいつも死ぬんだぞ。永久に蘇ることはない。それでもいいのか?」
「彼はそうは言わなかった。彼は『この剣は自分の剣だ』と言ったんだ。そして『奴に憑依された時、これを僕に使っても、敵だけが吸収され消滅する』と彼はそう言った」
「そんなの嘘に決まっているだろう! そんな都合のいい武器がある筈ない! お前たちは奴を見殺しにするのか? この世界だけが生き残りたいと云う、人間のエゴの為に」
純一少年の傍に、美菜隊員もやって来た。
「美菜隊員……。君は、純一君を見殺しにしないよね。君だけは……」
「見苦しいぞ大悪魔。私は隊長として、大悪魔の言葉よりも、隊員の、仲間の言葉を信じる。もし、それで純一君が死んでしまう様だったら、責任を取って、私もここで死のうじゃないか!」
「蒲田隊長、参謀として、それを許可する。ついでに俺もそうさせて貰おうかな……。俺も、純一を信じる」
新田作戦参謀も同意した。言葉にしなくとも、美菜隊員なら、もう覚悟が出来ている。
蒲田隊長は、顔を恐怖で引き
すると、純一少年と彼の剣は、不思議な光に包まれ、そして数秒後、その光は夕陽が沈む様に、静かに暗くなっていく……。
暫くした
蒲田隊長は顔を上げる……。
だが、隊長は無言のままに、皆の期待に反して、周りの仲間に首を横に振って見せたのであった……。