別れの挨拶(8)
文字数 2,613文字
美菜隊員は、純一少年の顔をじっと見つめてみた。彼は、じっと彼女の話を頭に刷り込んでいるようであった。
彼女は、それからの話をそのまま続けた。
「あたしは、運良く防衛大学校を生きて卒業したわ。その時、あたしは既に新田美菜になっていた。どっちでも同じだものね。
とは言え、あたしは新田の名に恥じない様に生きて行こうとはしていた。それは彼が背負うものだったから……。でも、だからと言って、『あたしが彼の意志を継ぐ』と云うほど、強い気持ちでもなかったの……。
確かに、新田でいるのは多少辛かったわ。
でも、こんな時代だから、直ぐに片が付くと思っていた……。
航空迎撃部隊に配属されて、あたしは何回か戦闘に参加した。でも、あたしは死ななかった。あたしが死ぬということは、エアレイが一機無駄になると云うことだもの、そう簡単には死ねないわ。
そんな矢先よ、あたしに父から直々に特殊命令が下されたのは……。
あたしには信じられなかった。こんな子供……君のことよ。こんな子供が人間と違う能力の持主で、敵にしたら危険だが、味方に出来たら物凄い戦力になるなんて。
でも、父から『彼の監視をするように、一時も目を離さないように。その為、美菜は彼の姉弟と云うことで同室で生活するように』と命じられ、正直、あたしは耳を疑った。君が最初にあたしに言った様に、これって、あたしに生贄になれってことだものね……。
でも、よく考えたら、何も問題ないのよ。あたしなんて、所詮中身のない抜殻だし、それで君が味方になるのだったら、あたしの身体なんて安いものだわ。だから、君には早々にあたしを抱いて貰うか、殺すかして貰って、さっさとこの仕事を全うしたかった。
でも、君はキスしかしなかった。そして、後で分かったんだけど、それすら生気を吸収する為の手段でしか……」
「美菜隊員……、少しコメントさせて貰っていいですか?」
「後にしてくれる? 大悪魔さん。大事な所なんだから……」
「はい……」
「あたしは、正直言ってプライド傷つけられたわよ。でも、なんか君って、憎めない処があるのよね。そして、段々君といるのが楽しくなっていたわ。そして、あたしも少し夢を見る様になっていた。君がいつか、あたしを愛してくれるんじゃないかって……。そしたら、あたしも君と、新しい人生を始めることが出来るんじゃないかって……。
どう? お気に召した? 愚かなバツイチ女の、哀れな妄想を……」
「美菜隊員、哀れだなんて……」
「止めてよね、同情するのなんて……。君はそんなこと言っても、一人で旅立つのでしょう? そして、最後の思い出に、こっちから強引に君に抱かれに来たのに、君に拒否されたのよ。本当、恥ずかしくて死にたいくらいだわ……」
「すみません……」
「謝らないで!」
純一少年は、美菜隊員の泣きそうな表情に押されて、それ以上は、彼女に何も言えなかった。と言っても、このまま黙っている訳にもいかない。彼は自分の身の上話を始める。
「じゃぁ、僕の話を始めますね。ここに来た大体の話は、新田参謀もあなたも知ってますよね……。
以前、僕は世界を荒らし回る、略奪一味の大悪魔として、色んな時空を旅してきました。そんなある日、大悪魔が耐えられなくなった妹と僕は、遂に略奪一味から逃げ出してしまったのです。
そして僕たちは、一つの時空に流れ着きました。そこで僕と妹は、とある夫婦の養子と養女となって、運よく人間として暮らすことが出来る様になったのです。そんな時、僕と妹を退治しに来たのが、紺野正信と菅原縫絵 と云う妖怪退治の二人でした」
「紺野正信? あの紳士さんね」
「ええ、そうです。で、もう一人が後に僕の恋人になる縫絵さんです」
「菅原……縫絵……さん」
「最初、僕たち二人を彼らも警戒していましたが、段々仲良くなり、一緒にその世界の悪と闘うようになっていきました。
縫絵さんは僕より年上の女性で、僕は段々彼女に惹かれていきました。彼女も僕のことを愛してくれていたと信じています。
ある日、僕は彼女を自分の部屋に招き入れて……。数日後、胸騒ぎがした僕は、急いで彼女に会いに行きました。僕がそこに着いた時、彼女は旅立つ寸前でした。彼女は僕と別れ、妖怪退治の職を辞めて、福岡と云う処で働くと言っていました。
僕は、彼女を必死に引き留めに掛かりました。そして、最後の思い出と称し、一緒に旅行することを強引に承知させ、その旅行の中で、彼女は考えを変えてくれ、最後には福岡の大宰府へ行くことを諦めてくれたのです」
過去を思い出す為か、純一少年はじっと天井を見つめていた。
「その後、僕たちの世界に戦さ……と言うか、反乱が起こりました……。
反乱を指揮したのが、僕の右手の中指にいる真久良さん、反乱は小規模なものだったのですが、そこで真久良さんが僕を狙って撃った銃弾で、縫絵さんは僕を庇い死んでしまいました。真久良さんも、結局、彼の妻である妹の耀子に討たれて死んでしまいました。敵に回った僕の知り合いも皆 死にました。結局、この反乱は、大勢の人が死んだだけで、誰も何も得しないものだったのです……。
そう云うことで、僕も美菜隊員と同じく、戸籍上には書いてないですけど、気持ちの上ではバツイチです。
その後、僕は2年程その世界で暮らしました。その間、僕のことを好きになってくれた女性もいました。僕もその娘を好きになりましたよ。でも、結局、僕は、縫絵さんを忘れられはしなかったのです……。
そう……。大宰府に行こうとした彼女を引き留めたのは、彼女を失いたくないと云う僕のエゴです。僕がもっと彼女のことを考えていたならば、僕は彼女を引き留めはしなかった筈なのです……。結局、僕は、それを、ずっとずっと後悔し続けていました。
耀子からは、僕のこの態度について、幾度となく緊 い言葉を掛けられましたよ。『糞野郎』ってね。でも、事実だから仕方ありません。理屈では分かっていても、僕は自分で自分を変えることが出来ませんでした……。
僕が彼女一筋の、誠実な男だから……なんて訳ではありませんよ。現に白瀬沼藺 、あ、後で僕と付き合ってくれた娘です。彼女は僕の右手の小指にいます……。
沼藺とも、最初のうちは上手く行っていたと思っていますし、正直、僕は、満更 でもありませんでしたからね……」
「でも、変なものね、お互いの過去の異性関係を、ここで明かし合うなんて……」
彼女は、それからの話をそのまま続けた。
「あたしは、運良く防衛大学校を生きて卒業したわ。その時、あたしは既に新田美菜になっていた。どっちでも同じだものね。
とは言え、あたしは新田の名に恥じない様に生きて行こうとはしていた。それは彼が背負うものだったから……。でも、だからと言って、『あたしが彼の意志を継ぐ』と云うほど、強い気持ちでもなかったの……。
確かに、新田でいるのは多少辛かったわ。
でも、こんな時代だから、直ぐに片が付くと思っていた……。
航空迎撃部隊に配属されて、あたしは何回か戦闘に参加した。でも、あたしは死ななかった。あたしが死ぬということは、エアレイが一機無駄になると云うことだもの、そう簡単には死ねないわ。
そんな矢先よ、あたしに父から直々に特殊命令が下されたのは……。
あたしには信じられなかった。こんな子供……君のことよ。こんな子供が人間と違う能力の持主で、敵にしたら危険だが、味方に出来たら物凄い戦力になるなんて。
でも、父から『彼の監視をするように、一時も目を離さないように。その為、美菜は彼の姉弟と云うことで同室で生活するように』と命じられ、正直、あたしは耳を疑った。君が最初にあたしに言った様に、これって、あたしに生贄になれってことだものね……。
でも、よく考えたら、何も問題ないのよ。あたしなんて、所詮中身のない抜殻だし、それで君が味方になるのだったら、あたしの身体なんて安いものだわ。だから、君には早々にあたしを抱いて貰うか、殺すかして貰って、さっさとこの仕事を全うしたかった。
でも、君はキスしかしなかった。そして、後で分かったんだけど、それすら生気を吸収する為の手段でしか……」
「美菜隊員……、少しコメントさせて貰っていいですか?」
「後にしてくれる? 大悪魔さん。大事な所なんだから……」
「はい……」
「あたしは、正直言ってプライド傷つけられたわよ。でも、なんか君って、憎めない処があるのよね。そして、段々君といるのが楽しくなっていたわ。そして、あたしも少し夢を見る様になっていた。君がいつか、あたしを愛してくれるんじゃないかって……。そしたら、あたしも君と、新しい人生を始めることが出来るんじゃないかって……。
どう? お気に召した? 愚かなバツイチ女の、哀れな妄想を……」
「美菜隊員、哀れだなんて……」
「止めてよね、同情するのなんて……。君はそんなこと言っても、一人で旅立つのでしょう? そして、最後の思い出に、こっちから強引に君に抱かれに来たのに、君に拒否されたのよ。本当、恥ずかしくて死にたいくらいだわ……」
「すみません……」
「謝らないで!」
純一少年は、美菜隊員の泣きそうな表情に押されて、それ以上は、彼女に何も言えなかった。と言っても、このまま黙っている訳にもいかない。彼は自分の身の上話を始める。
「じゃぁ、僕の話を始めますね。ここに来た大体の話は、新田参謀もあなたも知ってますよね……。
以前、僕は世界を荒らし回る、略奪一味の大悪魔として、色んな時空を旅してきました。そんなある日、大悪魔が耐えられなくなった妹と僕は、遂に略奪一味から逃げ出してしまったのです。
そして僕たちは、一つの時空に流れ着きました。そこで僕と妹は、とある夫婦の養子と養女となって、運よく人間として暮らすことが出来る様になったのです。そんな時、僕と妹を退治しに来たのが、紺野正信と菅原
「紺野正信? あの紳士さんね」
「ええ、そうです。で、もう一人が後に僕の恋人になる縫絵さんです」
「菅原……縫絵……さん」
「最初、僕たち二人を彼らも警戒していましたが、段々仲良くなり、一緒にその世界の悪と闘うようになっていきました。
縫絵さんは僕より年上の女性で、僕は段々彼女に惹かれていきました。彼女も僕のことを愛してくれていたと信じています。
ある日、僕は彼女を自分の部屋に招き入れて……。数日後、胸騒ぎがした僕は、急いで彼女に会いに行きました。僕がそこに着いた時、彼女は旅立つ寸前でした。彼女は僕と別れ、妖怪退治の職を辞めて、福岡と云う処で働くと言っていました。
僕は、彼女を必死に引き留めに掛かりました。そして、最後の思い出と称し、一緒に旅行することを強引に承知させ、その旅行の中で、彼女は考えを変えてくれ、最後には福岡の大宰府へ行くことを諦めてくれたのです」
過去を思い出す為か、純一少年はじっと天井を見つめていた。
「その後、僕たちの世界に戦さ……と言うか、反乱が起こりました……。
反乱を指揮したのが、僕の右手の中指にいる真久良さん、反乱は小規模なものだったのですが、そこで真久良さんが僕を狙って撃った銃弾で、縫絵さんは僕を庇い死んでしまいました。真久良さんも、結局、彼の妻である妹の耀子に討たれて死んでしまいました。敵に回った僕の知り合いも
そう云うことで、僕も美菜隊員と同じく、戸籍上には書いてないですけど、気持ちの上ではバツイチです。
その後、僕は2年程その世界で暮らしました。その間、僕のことを好きになってくれた女性もいました。僕もその娘を好きになりましたよ。でも、結局、僕は、縫絵さんを忘れられはしなかったのです……。
そう……。大宰府に行こうとした彼女を引き留めたのは、彼女を失いたくないと云う僕のエゴです。僕がもっと彼女のことを考えていたならば、僕は彼女を引き留めはしなかった筈なのです……。結局、僕は、それを、ずっとずっと後悔し続けていました。
耀子からは、僕のこの態度について、幾度となく
僕が彼女一筋の、誠実な男だから……なんて訳ではありませんよ。現に白瀬
沼藺とも、最初のうちは上手く行っていたと思っていますし、正直、僕は、
「でも、変なものね、お互いの過去の異性関係を、ここで明かし合うなんて……」