不死身の大悪魔(6)
文字数 2,507文字
純一少年が寝室に籠ってから、既に10時間は経っている。残された時間は、あと18時間ほど……。
「最大出力の光線砲でも、一瞬で倒すのは難しいか……。敵も人間の手下を用意してくるだろうし。ならば、沼藺 を呼んで、少しでも金丹を補充した方が良いか?
いや、そんなの結局、やけくその特攻をするって云う前提じゃないか? 作戦でもなんでもない。それに、やけくその特攻なら、攻撃力のある耀子か、耀公主を呼んだ方が、散り花としては華々しい闘いが出来る。いっそのこと縫絵 さんを呼んで、韴霊剣 を雷神剣にし、命続く限り斬りまくるか……?」
作戦を考えると言ったが、結局、純一少年は同じ考えを繰り返し続け、特攻で一番威力があるのは、どれかと云う方向に行き着いてしまう。正直、彼も疲れてきて、思考力が通常より、さらに低下していたのであろう。
「ふう……」
リビングのソファへと移動して、純一少年は座って目を閉じた。
そのソファの後ろから、彼の肩に誰かが両手を掛けてきた。
純一少年は、その手を、昔の恋人の縫絵の物かと錯覚したが、そんな筈はない。彼女は既に死んでいる……。バックハグをしてきたのは、同じ部屋を使っている美菜隊員でしか在り得ない……。
「純一、ごめん。君がとても大変なのは知っている。でも……。ほんの少し、少しだけこうさせて。そうしたら、ナナちゃんの部屋で今夜は寝かせて貰うから……」
「いいですよ。僕も考え倦 ねていた所だし、美菜隊員も怖かったでしょう?」
彼の後ろから嗚咽が聞こえて来る。純一少年は「仕方ないよな」と呟き、そのまま、じっと彼女の落ち着くのを待った。
「君も憑依が出来るんだよね? だったら、君も不死身だよね……」
「どうしたんです?」
「不死身同士で闘っても、結局、決着は付かないわ。その間に、人間だけがどんどん死んでいく……。そんな闘いを無間地獄って言うんじゃないかな……。ある程度気がすんだら、君、この世界から逃げた方がいいよ。あたしたちを殺したら、もうこの世界に未練なんか無いでしょう? あんな奴と殺し合ったって、意味なんかないわ。だったら、君だけでも逃げて……」
「僕は不死身ではないです。僕は、それほど憑依は得意ではないんですよ……。それに、憑依するからって、無敵ってこともないと思います。現に……」
純一少年は自分の頭の中が、くるくると回転していくような感覚を覚えた。そのため、話していた内容も忘れてしまったくらいだ。恐らくそんな状態を、人は何かが降りてきたと説明するのだろう……。
「どうしたの?」
「そうか、そうか……。何でそんなこと忘れていたのだろう。美菜隊員、僕は憑依しまくって、数えきれないほど長い年月を生きてきた人を知っていたんです。そして、その人が答えだったんですよ。この問題の……」
純一少年はそう言うと、右手の薬指を額に当てて祈りを捧げた。
「光り輝くサファイヤ色の大悪魔にして、初代耀公主、月宮盈さん! あなたの助けが必要です。お願いします!!」
美菜隊員は、大悪魔と云う言葉を耳にしたとき、思わず唾を飲み込んだ。
その彼女の目の前に、うっすらとした白い霧が集まってきて、それが段々と一人の若い女性に変わって行く。
その女性は美しい女性だった……。
彼女は首を左右に捻って少し鳴らすと、癖なのだろうか、部屋の天井から、壁、家具など色々なものを眺め出す。そして、その視線を美菜隊員に注ぐと、彼女はニヤリと口元に笑みを浮かべ舌なめずりをした。
美菜隊員は背筋の毛穴がぎゅっと絞られた様な強い寒気を感じる……。だが、汗だけはスゥーと冷たく背筋を流れていた。
そんな美菜隊員に、その女性は言葉の追い打ちを掛ける。
「鉄男、私を呼び出して、この女を一緒に食べようと云うのか? だったら、私に頭をくれ、私は頭からバリバリ食べるのが大好きなんだ……」
「盈さん、冗談も程々にしてくださいね。彼女、本当に怖がっているのですから……。それに、僕は急いでいるんです。出来るだけ簡潔に説明しますから、ちゃんと話を聞いてくださいよ」
純一少年に諭され、少し不満そうに彼女は答えた。
「説明なんかいらない。実体化する時に、お前の記憶をスキャンした。結論から言う。それは不可能だ」
「どうして、奴を封印することが不可能なんですか?」
「お前は、光臨派の坊主どもが、私にしようとしている大悪魔の封印を、奴にしようと考えた。だがな、いくらあいつらが無能とは云え、大悪魔の封印、つまり生き仏の作成には奴らも数年の長い年月をかけて準備しているのだ。私がやったとしても、それを10分の短い時間で用意できる筈があるまい」
「そんな……」
「いいか、少し講義してやる。生き仏とは、大悪魔の憑依能力を利用したもので、人間や遺体に憑依させるのではなく、憑代 と呼ばれる物体に憑依させ、その状態のまま、次の憑依を阻害させ、その憑代 に固定させることで完成する。
まず、我々は憑依をする際、自らの生命をエネルギー体に転換する。このエネルギー体とは、いわば光らない光子と云った様な物で、それを物体に憑依させる為に、本人が望んでいないならば、強制的に肉体を破壊し、エネルギー化させる必要がある。そして、そのエネルギー体を人間等、別の物体に憑依させないように捉えておかなければならない。これには、お前も物理で習ったと思うが、光子のエネルギー量を測定する為に、完全なる黒体を……」
「盈さん、僕は今、あなたの講義を受けている余裕なんかないんですけどね」
「しょうがない奴だな、全く……。じゃぁ仕方ない。折角、実体化したんだ。鉄男、お前と悪魔同士、愛の交歓でもしようではないか? そこのお嬢さん、後学の為に悪魔がどの様に事を行うか、見学でもするか?」
毒気に当てられて、呆然としていた美菜隊員だったが、意見を求められて、やっと我に返った。
「結構です! 鉄男君、私はナナちゃんの処に泊まります。明日の朝は父、新田武蔵も出席し、あなたの判断を聞かれるそうです。ですから決して寝坊などしないように。では、おやすみなさい!!」
そう言うと、彼女はさっさと自分と純一少年の部屋から出て行った。
「最大出力の光線砲でも、一瞬で倒すのは難しいか……。敵も人間の手下を用意してくるだろうし。ならば、
いや、そんなの結局、やけくその特攻をするって云う前提じゃないか? 作戦でもなんでもない。それに、やけくその特攻なら、攻撃力のある耀子か、耀公主を呼んだ方が、散り花としては華々しい闘いが出来る。いっそのこと
作戦を考えると言ったが、結局、純一少年は同じ考えを繰り返し続け、特攻で一番威力があるのは、どれかと云う方向に行き着いてしまう。正直、彼も疲れてきて、思考力が通常より、さらに低下していたのであろう。
「ふう……」
リビングのソファへと移動して、純一少年は座って目を閉じた。
そのソファの後ろから、彼の肩に誰かが両手を掛けてきた。
純一少年は、その手を、昔の恋人の縫絵の物かと錯覚したが、そんな筈はない。彼女は既に死んでいる……。バックハグをしてきたのは、同じ部屋を使っている美菜隊員でしか在り得ない……。
「純一、ごめん。君がとても大変なのは知っている。でも……。ほんの少し、少しだけこうさせて。そうしたら、ナナちゃんの部屋で今夜は寝かせて貰うから……」
「いいですよ。僕も考え
彼の後ろから嗚咽が聞こえて来る。純一少年は「仕方ないよな」と呟き、そのまま、じっと彼女の落ち着くのを待った。
「君も憑依が出来るんだよね? だったら、君も不死身だよね……」
「どうしたんです?」
「不死身同士で闘っても、結局、決着は付かないわ。その間に、人間だけがどんどん死んでいく……。そんな闘いを無間地獄って言うんじゃないかな……。ある程度気がすんだら、君、この世界から逃げた方がいいよ。あたしたちを殺したら、もうこの世界に未練なんか無いでしょう? あんな奴と殺し合ったって、意味なんかないわ。だったら、君だけでも逃げて……」
「僕は不死身ではないです。僕は、それほど憑依は得意ではないんですよ……。それに、憑依するからって、無敵ってこともないと思います。現に……」
純一少年は自分の頭の中が、くるくると回転していくような感覚を覚えた。そのため、話していた内容も忘れてしまったくらいだ。恐らくそんな状態を、人は何かが降りてきたと説明するのだろう……。
「どうしたの?」
「そうか、そうか……。何でそんなこと忘れていたのだろう。美菜隊員、僕は憑依しまくって、数えきれないほど長い年月を生きてきた人を知っていたんです。そして、その人が答えだったんですよ。この問題の……」
純一少年はそう言うと、右手の薬指を額に当てて祈りを捧げた。
「光り輝くサファイヤ色の大悪魔にして、初代耀公主、月宮盈さん! あなたの助けが必要です。お願いします!!」
美菜隊員は、大悪魔と云う言葉を耳にしたとき、思わず唾を飲み込んだ。
その彼女の目の前に、うっすらとした白い霧が集まってきて、それが段々と一人の若い女性に変わって行く。
その女性は美しい女性だった……。
彼女は首を左右に捻って少し鳴らすと、癖なのだろうか、部屋の天井から、壁、家具など色々なものを眺め出す。そして、その視線を美菜隊員に注ぐと、彼女はニヤリと口元に笑みを浮かべ舌なめずりをした。
美菜隊員は背筋の毛穴がぎゅっと絞られた様な強い寒気を感じる……。だが、汗だけはスゥーと冷たく背筋を流れていた。
そんな美菜隊員に、その女性は言葉の追い打ちを掛ける。
「鉄男、私を呼び出して、この女を一緒に食べようと云うのか? だったら、私に頭をくれ、私は頭からバリバリ食べるのが大好きなんだ……」
「盈さん、冗談も程々にしてくださいね。彼女、本当に怖がっているのですから……。それに、僕は急いでいるんです。出来るだけ簡潔に説明しますから、ちゃんと話を聞いてくださいよ」
純一少年に諭され、少し不満そうに彼女は答えた。
「説明なんかいらない。実体化する時に、お前の記憶をスキャンした。結論から言う。それは不可能だ」
「どうして、奴を封印することが不可能なんですか?」
「お前は、光臨派の坊主どもが、私にしようとしている大悪魔の封印を、奴にしようと考えた。だがな、いくらあいつらが無能とは云え、大悪魔の封印、つまり生き仏の作成には奴らも数年の長い年月をかけて準備しているのだ。私がやったとしても、それを10分の短い時間で用意できる筈があるまい」
「そんな……」
「いいか、少し講義してやる。生き仏とは、大悪魔の憑依能力を利用したもので、人間や遺体に憑依させるのではなく、
まず、我々は憑依をする際、自らの生命をエネルギー体に転換する。このエネルギー体とは、いわば光らない光子と云った様な物で、それを物体に憑依させる為に、本人が望んでいないならば、強制的に肉体を破壊し、エネルギー化させる必要がある。そして、そのエネルギー体を人間等、別の物体に憑依させないように捉えておかなければならない。これには、お前も物理で習ったと思うが、光子のエネルギー量を測定する為に、完全なる黒体を……」
「盈さん、僕は今、あなたの講義を受けている余裕なんかないんですけどね」
「しょうがない奴だな、全く……。じゃぁ仕方ない。折角、実体化したんだ。鉄男、お前と悪魔同士、愛の交歓でもしようではないか? そこのお嬢さん、後学の為に悪魔がどの様に事を行うか、見学でもするか?」
毒気に当てられて、呆然としていた美菜隊員だったが、意見を求められて、やっと我に返った。
「結構です! 鉄男君、私はナナちゃんの処に泊まります。明日の朝は父、新田武蔵も出席し、あなたの判断を聞かれるそうです。ですから決して寝坊などしないように。では、おやすみなさい!!」
そう言うと、彼女はさっさと自分と純一少年の部屋から出て行った。