不死身の大悪魔(8)
文字数 2,227文字
各国が戦争の火種を燻らせている中、この島国だけは異様な静けさを保っている。
それは、ここが大悪魔の今の居場所であるからで、丁度、台風の目には風もなく雲も切れているのと、どこか良く似ていた……。
その日、午前11時半……、純一少年たちは既に予定の配置に就いていた。
純一少年は、競技場一杯に描かれた巨大な円、そのメインスタンド正面側にペグを挿し終え、競技場の中心に待機し、敵からの連絡を待つ。
バックスタンド青山門側には、新田武蔵作戦参謀が陣取り、左の千駄ヶ谷門側に蒲田隊長、右の外苑門側に沼部隊員、新田参謀と蒲田隊長の間には矢口隊員、新田参謀と沼部隊員の間には新田美菜隊員、正面手前千駄ヶ谷門側コーナーには鵜の木隊員、正面の外苑門側のコーナーには下丸子隊員が、いつでもペグを挿せるよう準備万端整えている。
正午、その静けさの中、彼の携帯の呼び出し音が鳴り響いた。
皆、その電話に出る純一少年の一挙手一投足を注視し、その通話を一言でも聞き逃すまいと耳を聳 てる……。
「結論はノーだ。お前と大悪魔同士、決着を付けなければならない。今すぐここ、国立競技場に来い! ここで、お前の息の根を止めてやる。30分待ってやる。僕はお前が怖じ気づかない事を祈っているよ。じゃぁな」
純一少年はそう言うと、相手の返事も待たず、その通話を切断した。
奴は来るか? 来ないのか?
ここにいる全員全て、その時間は異様に長く感じられた。そして12時30分をまわり、あと少しと皆が考えた時、その男、日本の首相が、スーツ姿でメインスタンド側からこの競技場へと現れた。
純一少年は口を真一文字に引き絞り、他の全員も落胆の色を見せない様、必死にその表情を変えずに我慢する。
「よく来たな、怖じ気づかずに……。憑依で逃げ回る大悪魔のことだから、僕とは闘わず、さっさと別時空に逃げ出すと思ったよ」
「小僧、お前など、私が恐れる筈なかろう? さぁ決着を付けようではないか?」
悪魔の憑依している首相は、競技場の中心で待つ純一少年の方へと、ゆっくりとその歩を進めていく。
「ここは僕のホームグラウンドなんだぜ。お前、馬鹿じゃないのか? ここには、一つも罠が張っていないとでも思ったのかい?
僕が右手を上げたらどうなると思う? この円が見えないのかな? これは八角円と言って、お前を封印する魔封じの結界だ。
今、僕の仲間が配置について、それを完成させるぞ! そうなれば、お前はもう、助かることは出来やしない!!」
純一少年が額に汗を流しながら、緊張した表情でそれを言いきる。しかし、首相は一向に、それを恐れることはなかった。
「やってみたらどうかね、純一君」
「本当にいいんだな? いいか? 右手を上げるぞ?」
「どうぞ……。さあ、やってみたまえ……、要鉄男君……」
首相がサッカーのセンターサークル内に達した時、純一少年はゆっくりと右手を上げた。そして、その合図で、新田参謀とAIDS航空迎撃部隊の七人は、ペグを所定の位置へと挿し込む……。
「どうしたんだね、純一君? これが君の罠なのかね……?」
「……」
「君は気が付かなかったかも知れないが、君の作戦など、僕には筒抜けだったんだよ。残念だったね、純一君……」
首相はしたり顔で、純一少年にそう告げる。純一少年は下を向いたまま、身体を上下に震わせて腹を押さえている。だが、それは呪いの痛みを堪えているのでは無い。彼は笑いを堪えていたのである。それも、もう限界に達していた。
「フフフ、ハハハハハ」
「何が可笑しいのかね? それとも絶望で正気を失ったかい?」
「フフフ、これほど見事に嵌るとは……。お前はもうお終いだよ」
「それで、私を騙そうと言うのかな?」
「いいや……。お前はまんまと、僕たちの罠に落ちたのさ」
「何を言っている? 私はお前たちの……」
「僕の仲間の美菜隊員の体に、もう一回憑依し直し、全部聞いていたとでも言いたいのかな? 大悪魔の首相さん」
「貴様!」
「盈さんにも、そして、僕にだって分かるのさ。敵のいる場所なんて……。
こっちが僕の本当の罠だったんだよ……。
盈さんは、呪いなんか全く掛けられない。彼女は単なる法具作りのスペシャリストだ。
そこで彼女は、八角円を創る法具作りの手助けをしてくれた……。本当は独鈷 と云うもので作るんだけどね……。
後は、臆病なお前を、どうやってここにおびき寄せるか、そこが問題だった。まさか、これほど簡単に嵌るとはね、流石、盈さんの考えた作戦だけのことはある」
「そんなの嘘だ。時間を戻させる為の、お前たちの出まかせだ」
「だったら、試してみろよ。別に能力なんか使わなくても、ここから出られないことぐらい、すぐに分かるから……」
首相の姿をしたその大悪魔は、その円の外へと走り抜けようとした。しかし見えない壁にぶつかり、彼は転がり倒れる。
「さぁ、能力でも何でもやってみなよ、全部封印されているから。憑依だって、この外の相手には出来ないと思うよ。盈さんの結界は完璧だからね」
「貴様、分かっているのか? お前もこの結界に封印されているんだぞ」
「お前のような奴を野に放つくらいなら、僕はここで一緒に封印されてやるよ。ほら、僕たちが生き仏に封印されるフクロウ時計だ。済まないが、こんなものでしか用意できなかったんだ……。時間が無かったんでね……」
純一少年はズボンのポケットから、小さめの木彫りフクロウ時計を取り出し、地面へと投げ捨てた。
それは、ここが大悪魔の今の居場所であるからで、丁度、台風の目には風もなく雲も切れているのと、どこか良く似ていた……。
その日、午前11時半……、純一少年たちは既に予定の配置に就いていた。
純一少年は、競技場一杯に描かれた巨大な円、そのメインスタンド正面側にペグを挿し終え、競技場の中心に待機し、敵からの連絡を待つ。
バックスタンド青山門側には、新田武蔵作戦参謀が陣取り、左の千駄ヶ谷門側に蒲田隊長、右の外苑門側に沼部隊員、新田参謀と蒲田隊長の間には矢口隊員、新田参謀と沼部隊員の間には新田美菜隊員、正面手前千駄ヶ谷門側コーナーには鵜の木隊員、正面の外苑門側のコーナーには下丸子隊員が、いつでもペグを挿せるよう準備万端整えている。
正午、その静けさの中、彼の携帯の呼び出し音が鳴り響いた。
皆、その電話に出る純一少年の一挙手一投足を注視し、その通話を一言でも聞き逃すまいと耳を
「結論はノーだ。お前と大悪魔同士、決着を付けなければならない。今すぐここ、国立競技場に来い! ここで、お前の息の根を止めてやる。30分待ってやる。僕はお前が怖じ気づかない事を祈っているよ。じゃぁな」
純一少年はそう言うと、相手の返事も待たず、その通話を切断した。
奴は来るか? 来ないのか?
ここにいる全員全て、その時間は異様に長く感じられた。そして12時30分をまわり、あと少しと皆が考えた時、その男、日本の首相が、スーツ姿でメインスタンド側からこの競技場へと現れた。
純一少年は口を真一文字に引き絞り、他の全員も落胆の色を見せない様、必死にその表情を変えずに我慢する。
「よく来たな、怖じ気づかずに……。憑依で逃げ回る大悪魔のことだから、僕とは闘わず、さっさと別時空に逃げ出すと思ったよ」
「小僧、お前など、私が恐れる筈なかろう? さぁ決着を付けようではないか?」
悪魔の憑依している首相は、競技場の中心で待つ純一少年の方へと、ゆっくりとその歩を進めていく。
「ここは僕のホームグラウンドなんだぜ。お前、馬鹿じゃないのか? ここには、一つも罠が張っていないとでも思ったのかい?
僕が右手を上げたらどうなると思う? この円が見えないのかな? これは八角円と言って、お前を封印する魔封じの結界だ。
今、僕の仲間が配置について、それを完成させるぞ! そうなれば、お前はもう、助かることは出来やしない!!」
純一少年が額に汗を流しながら、緊張した表情でそれを言いきる。しかし、首相は一向に、それを恐れることはなかった。
「やってみたらどうかね、純一君」
「本当にいいんだな? いいか? 右手を上げるぞ?」
「どうぞ……。さあ、やってみたまえ……、要鉄男君……」
首相がサッカーのセンターサークル内に達した時、純一少年はゆっくりと右手を上げた。そして、その合図で、新田参謀とAIDS航空迎撃部隊の七人は、ペグを所定の位置へと挿し込む……。
「どうしたんだね、純一君? これが君の罠なのかね……?」
「……」
「君は気が付かなかったかも知れないが、君の作戦など、僕には筒抜けだったんだよ。残念だったね、純一君……」
首相はしたり顔で、純一少年にそう告げる。純一少年は下を向いたまま、身体を上下に震わせて腹を押さえている。だが、それは呪いの痛みを堪えているのでは無い。彼は笑いを堪えていたのである。それも、もう限界に達していた。
「フフフ、ハハハハハ」
「何が可笑しいのかね? それとも絶望で正気を失ったかい?」
「フフフ、これほど見事に嵌るとは……。お前はもうお終いだよ」
「それで、私を騙そうと言うのかな?」
「いいや……。お前はまんまと、僕たちの罠に落ちたのさ」
「何を言っている? 私はお前たちの……」
「僕の仲間の美菜隊員の体に、もう一回憑依し直し、全部聞いていたとでも言いたいのかな? 大悪魔の首相さん」
「貴様!」
「盈さんにも、そして、僕にだって分かるのさ。敵のいる場所なんて……。
こっちが僕の本当の罠だったんだよ……。
盈さんは、呪いなんか全く掛けられない。彼女は単なる法具作りのスペシャリストだ。
そこで彼女は、八角円を創る法具作りの手助けをしてくれた……。本当は
後は、臆病なお前を、どうやってここにおびき寄せるか、そこが問題だった。まさか、これほど簡単に嵌るとはね、流石、盈さんの考えた作戦だけのことはある」
「そんなの嘘だ。時間を戻させる為の、お前たちの出まかせだ」
「だったら、試してみろよ。別に能力なんか使わなくても、ここから出られないことぐらい、すぐに分かるから……」
首相の姿をしたその大悪魔は、その円の外へと走り抜けようとした。しかし見えない壁にぶつかり、彼は転がり倒れる。
「さぁ、能力でも何でもやってみなよ、全部封印されているから。憑依だって、この外の相手には出来ないと思うよ。盈さんの結界は完璧だからね」
「貴様、分かっているのか? お前もこの結界に封印されているんだぞ」
「お前のような奴を野に放つくらいなら、僕はここで一緒に封印されてやるよ。ほら、僕たちが生き仏に封印されるフクロウ時計だ。済まないが、こんなものでしか用意できなかったんだ……。時間が無かったんでね……」
純一少年はズボンのポケットから、小さめの木彫りフクロウ時計を取り出し、地面へと投げ捨てた。