不思議な少年(2)
文字数 2,115文字
新田純一少年は、明かりを灯さず暗くした二人の寝室で、自分のベッドに寝転びながら天井を眺めていた。
「どこに行っても同じ様なものだな……。どこも、闘いと殺し合いばかりだ。結局、僕自身がそれを呼ぶんだろうな……。僕はそう云う生き物だから……」
「そうね、人間の世界を旅しているのだったら、結局そうなるかもね……。人間なんて、殺し合いをしながら、進化をしてきた生き物だから……」
バルタオルを体に巻いた新田美菜隊員が、寝室に入ってきて、別のタオルで髪を拭きながら少年の独り言に答える。純一少年は彼女を一瞥したが、特別、彼女の言葉には何もコメントを返さなかった。
丁度その時、内線電話の呼び出し音が響く。新田隊員は寝室にある電話の子機を取り、幾つかそれに返事をした後に電話を切った。そして、ベッドに寝ころんでいる純一少年に電話の指示を伝える。
「純一、蒲田隊長からの呼び出しよ。直ぐに支度して」
新田隊員は、態と純一少年に見えるようにバスタオルを取り去り、箪笥から出した下着を身に着けた。そして、ウォーキングクローゼットに架けられた隊員服の一つを純一少年に投げ渡し、自身は取り出したもう一着を下着の上に直接纏う。純一少年の方も、迷彩色に彩られたその隊員服をさっと着込み、無言のまま、彼女が着替えをする時間内に準備を終えた。
彼が準備を完了していることを満足そうに確認すると、新田隊員はきびきびと部屋を出ていく。純一少年も背中をまるめ、バタバタとその後を追った。
「新田美菜、新田純一、出隊しました」
「ご苦労」
新田隊員と純一少年は、作戦司令室と呼ばれる部屋で、同じ服を着た中年の男の前に並び、ここのルールなのだろう、隊長と新田隊員は特殊な敬礼を交わす。
「みんな、こっちへ集まってくれ、今度、見習いとして入隊する新田純一君だ」
隊長らしき正面の中年男が、他の隊員に純一少年を紹介しようとした時である。瞬間、純一少年は突然駆け出すと、満面の笑みを浮かべて、通信機器なのだろうか、そのボリュームレバーを勝手に左右に弄 りだした。
「わー、ここが作戦室なんですね?」
「こら、勝手に触っちゃいかん」
機械は流石に火こそ噴かなかったが、ヘッドフォンをした通信班の女性の耳にダメージを残した様だった。そして次に純一少年は、テーブルの上の地図へと飛びつき、勢い余ってそれを二つに破く。それが済むと……、その次をめざした純一少年……であったが、体の大きな迷彩服の隊員に腕を掴まれた。
「何をしてるんだ。馬鹿野郎!」
そう言って純一少年を捕まえた隊員は、思いっきり彼を突き飛ばし、壁にぶつかって倒れた純一少年の前に仁王立ちになると、彼を思いっきり睨め付ける。
「立ちなさい、純一!」
新田隊員が純一少年に駆け寄って、彼の腕を掴み、無理やり立ち上がらせた。純一少年は悪戯を母親に叱られた様な体で、不貞腐れた表情を浮かべている。
隊長の蒲田は、溜息を吐きながら純一少年たちに次の指示を与えた。
「新田隊員、彼を連れて暫く自室で待機するように……」
新田隊員は隊長の指示を聞くまでもなく、純一少年の腕を掴んで、作戦室の外へと引きずり出していた。そして、そのまま猫の子の首を摘まんで引きずるような雰囲気で彼を自室まで引っ張って行ったのである。
彼らの部屋の寝室まで純一少年を引っ張っていくと、新田隊員は彼をベッドへと投げ捨て、胸元から拳銃を取り出して、その銃口を彼に向けた。
「やってくれたわね、鉄男君」
「ごめんなさい……。作戦室の機械が珍しかったものでつい……」
「白々しいこと言わないで。君はやっぱり侵略的宇宙人 のスパイだったのね?」
「違いますよ……。新田隊員だってそう思っていないでしょう? もし、そう思っていたら、仲間のいた作戦室で僕を捕らえていた筈です。その方が、万が一闘いになった場合、絶対に有利ですからね……」
純一少年に痛いところを突かれた新田隊員は、銃口を少し下に下げる。その瞬間、純一少年は彼女の銃を蹴り飛ばし、それを天井へ弾き飛ばすと、素早く小外刈りに近い膝車で彼女をベッドの上へと投げ倒した。
「甘いですよ、新田隊員」
彼はそう言うと、ベッドに横になっている彼女の隣に腰を降ろす。純一少年が彼女を殺す意志がないことを理解すると、新田隊員は体を起こし、彼の横に並ぶように座った。
「どうしてあんなことしたの?」
「僕は宇宙人となんか、闘いませんよ。僕は平和に暮らしたいんだ。だから作戦行動も参画しないし、ここの主力機 にも搭乗しません。乗りたくても、もう乗せてはくれないでしょうけどね」
「それが君の狙いか……」
「ごめんなさい、新田隊員。僕はあなたの家の名誉を汚してしまった」
「いいのよ、そんなもの。それより新田隊員は止 めてね、君も新田隊員なのよ。私の名前は美菜、みんなの前では『お姉さん』と呼んで欲しいわ」
「分かりました美菜隊員。で、お姉さんにおねだりなんですけど、賄賂を要求していいですか? お姉さんに、キスさせて貰えると嬉しいんですけど……」
「どうぞ、ご自由に」
純一少年は美菜隊員の肩を抱きかかえると、そのまま押し倒すように体を預け、彼女の唇の自分の口を押し当てた。
「どこに行っても同じ様なものだな……。どこも、闘いと殺し合いばかりだ。結局、僕自身がそれを呼ぶんだろうな……。僕はそう云う生き物だから……」
「そうね、人間の世界を旅しているのだったら、結局そうなるかもね……。人間なんて、殺し合いをしながら、進化をしてきた生き物だから……」
バルタオルを体に巻いた新田美菜隊員が、寝室に入ってきて、別のタオルで髪を拭きながら少年の独り言に答える。純一少年は彼女を一瞥したが、特別、彼女の言葉には何もコメントを返さなかった。
丁度その時、内線電話の呼び出し音が響く。新田隊員は寝室にある電話の子機を取り、幾つかそれに返事をした後に電話を切った。そして、ベッドに寝ころんでいる純一少年に電話の指示を伝える。
「純一、蒲田隊長からの呼び出しよ。直ぐに支度して」
新田隊員は、態と純一少年に見えるようにバスタオルを取り去り、箪笥から出した下着を身に着けた。そして、ウォーキングクローゼットに架けられた隊員服の一つを純一少年に投げ渡し、自身は取り出したもう一着を下着の上に直接纏う。純一少年の方も、迷彩色に彩られたその隊員服をさっと着込み、無言のまま、彼女が着替えをする時間内に準備を終えた。
彼が準備を完了していることを満足そうに確認すると、新田隊員はきびきびと部屋を出ていく。純一少年も背中をまるめ、バタバタとその後を追った。
「新田美菜、新田純一、出隊しました」
「ご苦労」
新田隊員と純一少年は、作戦司令室と呼ばれる部屋で、同じ服を着た中年の男の前に並び、ここのルールなのだろう、隊長と新田隊員は特殊な敬礼を交わす。
「みんな、こっちへ集まってくれ、今度、見習いとして入隊する新田純一君だ」
隊長らしき正面の中年男が、他の隊員に純一少年を紹介しようとした時である。瞬間、純一少年は突然駆け出すと、満面の笑みを浮かべて、通信機器なのだろうか、そのボリュームレバーを勝手に左右に
「わー、ここが作戦室なんですね?」
「こら、勝手に触っちゃいかん」
機械は流石に火こそ噴かなかったが、ヘッドフォンをした通信班の女性の耳にダメージを残した様だった。そして次に純一少年は、テーブルの上の地図へと飛びつき、勢い余ってそれを二つに破く。それが済むと……、その次をめざした純一少年……であったが、体の大きな迷彩服の隊員に腕を掴まれた。
「何をしてるんだ。馬鹿野郎!」
そう言って純一少年を捕まえた隊員は、思いっきり彼を突き飛ばし、壁にぶつかって倒れた純一少年の前に仁王立ちになると、彼を思いっきり睨め付ける。
「立ちなさい、純一!」
新田隊員が純一少年に駆け寄って、彼の腕を掴み、無理やり立ち上がらせた。純一少年は悪戯を母親に叱られた様な体で、不貞腐れた表情を浮かべている。
隊長の蒲田は、溜息を吐きながら純一少年たちに次の指示を与えた。
「新田隊員、彼を連れて暫く自室で待機するように……」
新田隊員は隊長の指示を聞くまでもなく、純一少年の腕を掴んで、作戦室の外へと引きずり出していた。そして、そのまま猫の子の首を摘まんで引きずるような雰囲気で彼を自室まで引っ張って行ったのである。
彼らの部屋の寝室まで純一少年を引っ張っていくと、新田隊員は彼をベッドへと投げ捨て、胸元から拳銃を取り出して、その銃口を彼に向けた。
「やってくれたわね、鉄男君」
「ごめんなさい……。作戦室の機械が珍しかったものでつい……」
「白々しいこと言わないで。君はやっぱり
「違いますよ……。新田隊員だってそう思っていないでしょう? もし、そう思っていたら、仲間のいた作戦室で僕を捕らえていた筈です。その方が、万が一闘いになった場合、絶対に有利ですからね……」
純一少年に痛いところを突かれた新田隊員は、銃口を少し下に下げる。その瞬間、純一少年は彼女の銃を蹴り飛ばし、それを天井へ弾き飛ばすと、素早く小外刈りに近い膝車で彼女をベッドの上へと投げ倒した。
「甘いですよ、新田隊員」
彼はそう言うと、ベッドに横になっている彼女の隣に腰を降ろす。純一少年が彼女を殺す意志がないことを理解すると、新田隊員は体を起こし、彼の横に並ぶように座った。
「どうしてあんなことしたの?」
「僕は宇宙人となんか、闘いませんよ。僕は平和に暮らしたいんだ。だから作戦行動も参画しないし、ここの
「それが君の狙いか……」
「ごめんなさい、新田隊員。僕はあなたの家の名誉を汚してしまった」
「いいのよ、そんなもの。それより新田隊員は
「分かりました美菜隊員。で、お姉さんにおねだりなんですけど、賄賂を要求していいですか? お姉さんに、キスさせて貰えると嬉しいんですけど……」
「どうぞ、ご自由に」
純一少年は美菜隊員の肩を抱きかかえると、そのまま押し倒すように体を預け、彼女の唇の自分の口を押し当てた。