不思議な少年(1)

文字数 2,057文字

 プレハブ住宅の様な簡素なつくりの部屋。そこへと最新鋭の情報機器を無理やり詰め込んだと云う、そこは極めて無機質な感じの場所だった。
 そんな部屋で、新たに対侵略的宇宙人防衛システム、通称AIDSの隊員となる少年が、その配属先を取り仕切る作戦参謀から特別な訓示を受けている……。

「我が組織は、君のその特殊な才能を認め、対侵略的宇宙人防衛システムの一員として君を迎え入れたいと考えている。とは言っても、君はまだ、この世界に慣れておらぬようであるから、この新田美菜隊員を君の助言者(フォロワー)として常時補助につける。困ったことがあったら彼女に良く相談するように。まぁ俺が言うのも何だが、頼りになる娘だ」
「よろしく。要鉄男君……、だったわね」
 新田隊員と呼ばれた女性が、ニコリともせず少年の前に移動し、握手を求めて手を差し伸べる。少年は無言のままその手を握り返した。だが、直ぐに手を離し引っ込める。
「では美菜、彼を君たちの部屋まで案内するように。要君、君は指示があるまで部屋で待機していてくれたまえ」
 指示を受けた新田隊員は、作戦参謀に敬礼をすると、さっと踵を返し部屋から出て行った。少年は、まだ慣れていないのだろうか、作戦参謀に挨拶もせず、置いていかれまいと、その女性の後を急ぎ追いかける。

 颯爽と歩く新田隊員、そして少し背を丸くしてパタパタと臆病そうについて行く少年。恐らく、この通路は、緊急時以外にはあまり使用されない物なのだろう。この時の彼らを見たものは誰もいない。

 少年が部屋に入ると、そこは意外と広く、高級マンションにも引けを取らない大きさであった。50㎡はありそうなリビングに家電やソファなどの家具が備え付けられ、シャワールームの付いた浴室もあり、奥の寝室には羽根布団のベッドも二つ用意されている。
「さ、ここが君と私の部屋よ」
 新田隊員はそう言うと、片方のソファに腰掛け、少年に向かいに座るよう促した。彼も黙ってそれに従い、正面の席に腰を落とす。

 笑みを浮かべている新田隊員に、少年は酷く不満そうな表情で話しを始める。
「僕のことを信用しているような事を言ってましたけど、24時間あなたの監視がついているって事ですよね」
「当然でしょう。君は戸籍もない、知り合いもいない、人間離れした能力もある。それで宇宙人じゃないなんて言っても、誰も信用しないわ。とは言っても、このまま侵略的宇宙人のスパイとして処刑するのは、少々勿体ない。だから、君を防衛部隊の隊員と云う名目で監視下に置き、君の力を地球防衛に利用しようと云うのよ」
「で、うら若い女性のあなたは、そのために男の僕と、一緒の部屋に寝泊まりする訳ですか? ボディーガードも就けずに……」
「ええ、もし君があたしを殺して逃亡しようとすれば、その場合、君は敵のスパイとして追手が掛かる。それだけのことよ」
「そう云うことを言っているのじゃ……ないのですけどね……」
「女性では駄目かしら? 掃除、洗濯、それなりに(こな)せる自信があるわよ」
「……」

「分かってるわ。そんなこと……。あたしは鉄男君への生贄でもあるの。お望みなら、君の好きにしていいわ」
「新田参謀って人は、そんなことを……」
「ええ、だから他人には任せられなかったのでしょうね、父は……」
「……」
「君は、あたしの弟と云う触れ込みで入隊することになる。だから必然、鉄男君は作戦参謀の息子と云うことになるの。頑張ってね、新田純一隊員」
「新田純一?」
「そう、新田純一。あたしの亡くなった弟の名前よ」
「僕は宇宙人とも、ここの人間とも闘いたくない。この世界に少し、お邪魔させて貰う心算だっただけなんです。僕は弱虫です。人が死ぬのも嫌です。嫌われるのも嫌です。だから……、逃げてきたんです」
「その話は前に聞いたわ。あたし、この仕事に命を賭けているの。あたしの命でこの星が守れると云うのであれば、もう何もいらないと思っているわ。死ぬ心算だから、貞操がどうだとか、その後の人生がどうだとか、あたしは何も考えていない。
 だからね、本音を言うと、君が本当は宇宙人で、命がけで潜入してきたスパイであったとしたら、あたしは寧ろ君を尊敬できる。でも、君が言うように、ただ自分の世界から逃げて来ただけなのだとしたら、君の妹さんが言ったのと同じ感想を持つわ……『糞野郎だ』ってね」
「では、残念ですね。僕はただの『糞野郎』ですよ」
 二人の部屋の、壁掛けフクロウ時計の秒針がカチカチと鳴り続ける。
「それが本当であれば、君は結局何も得られない。闘えば敵に狙われる。闘わなければ処罰される。そして逃げ出せば、あたしに軽蔑される。どう? 覚悟は決めた?」
 少年は、新田美菜隊員の問いに、何も答えようとはしなかった。

「あたしは今のうちにシャワーを頂くわ。純一隊員も一緒にどう?」
「遠慮しておきます」
「そう? 賄賂を受け取らないの? 折角、色仕掛けで仲間に引き入れようとしたのに。じゃぁ、お先に失礼するわね」
 そう言うと、新田美菜隊員は、さっさとシャワー室の方へと歩いて行った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

新田武蔵


対侵略的異星人防衛システム作戦参謀、新田美菜の義父であり、要鉄男を息子の純一と偽って、原当麻基地航空迎撃部隊に配属させる。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み