不死身の大悪魔(3)
文字数 2,455文字
今朝の航空迎撃部隊の朝礼は、いつもと違い特別なものとなった。
なんと、美菜隊員の父、新田武蔵参謀が、彼らの前に非公式に現れていたのだ。となると、普通なら蒲田隊長が訓示を垂れ、簡単な引き継ぎをするところだが、新田参謀が全員の前でスピーチを行うことになる。
「ご苦労。今日は特別に、ある目的を持って自分はここにやって来ている。この世界に来て直ぐ、自分はとある人間の記憶から『大悪魔』と云う単語を見つけたのだ。そこで、自分はそれを辿って、この場所に斯うしてやって来たと云う訳だ……」
いつもと違う父に、美菜隊員が眉を顰 め、警戒の表情を浮かべる。その表情を読んだのか、参謀は自分へと疑念を解く為に、特別なコメントを加えた。
「美菜、俺は君の父親だぜ、間違いなしにね。純一君に聞けば分かるかも知れないが、俺は大悪魔であると同時に、君の父親、新田武蔵でもあるのだ……。簡単に言うと、俺は新田武蔵に憑依しているのだよ」
以前、この基地に偽物が入り込んだこともあり、美菜隊員以外のメンバーも、即座に銃を構え臨戦態勢に入った。そして今度は、純一少年が作戦参謀に質問する。
「お前は何者だ! 何の目的でここにやって来た?!」
「それをこれから言おうとしていた所だよ、わが息子、純一や」
美菜隊員が銃口を、父である作戦参謀の額に向けた。
「手を上げなさい。上げなければ、本物の父だとしても、私は撃ちます」
「撃ってみたまえ、新田美菜隊員。そうすれば、俺は死ぬだろうな。構わないよ。ほら、遠慮はいらない、撃ちたまえ」
美菜隊員が躊躇っていると、参謀総長は自分の銃を懐から取り出し、彼女に一回狙いを定めたあと、直ぐに自分の胸に銃口を押し当て発砲した。
皆が驚いて呆然としているところ、今度は隊長の蒲田禄郎が話を始めた。
「ほう。この男は優柔不断で平凡な人間のように見せて、中々どうして、歴戦の勇士だったんだねぇ……。こら、純一君。人が話している時に、死体を食べようなんて、少し意地が汚いぞ……」
純一少年は、胸を撃たれ虫の息の作戦参謀に金色の丸薬を飲ませていた。この丸薬こそ、まだ死んでいない人間であれば、間違いなく助けることが出来ると云う、霊狐シラヌイの創った金丹。
彼は、その秘薬を新田武蔵参謀の口にねじ込み、片膝着いた状態のままで蒲田隊長を睨みつける。
「お前は何者だ?」
「私の名前なんて、どうでもいいだろう? それより、どうだい? 凄いだろう? 私は殺されても、死の寸前に別の人間に憑依してしまうんだ。だから私は死なない。不死身なんだよ……」
「その不死身の大悪魔が、僕に何の用だ?」
「まず、大悪魔であるお前の資質を確かめに来た。そして、お前がどうしても縄張りを守ると云うのなら、お前に私の恐ろしさを見せつけて、この世界から追い出してやろうと考えている……」
航空迎撃部隊の隊員は、美菜隊員を除き、純一少年が人間でないと云うことを聞き、驚くと同時に、その急な展開に呆然として口を閉じることが出来なかった。
その空白の時間が終わる前に、大悪魔であった蒲田隊長が膝を折って崩れ落ち、そして、それと同時に、今度は美菜隊員が大悪魔として話し出した。
「成程、この娘は、お前のことを随分知っているらしい。ほう、これは凄い。驚いた。こんなに強い大悪魔だったとは……。
あたし、少し気が変わったわ。あなた、下僕になりなさい。偽弟の純一君……」
「ふざけるな!」
「あたしは真面目よ。この世界を純一が表向き支配し、神であるあたしに、生贄として人間を献上するの。そして人間が不足したら、純一が別世界から調達してくればいいわ。純一の力なら容易 いでしょう? 勿論、只とは言わないわ。あたしは太っ腹なのよ。この島国の人間は、全て純一にあげる。殺し合いをさせて楽しむなり、弄んで嬲り殺しにするなり、純一の好きにすればいいわ。どう、悪い話じゃないでしょう?」
「誰がお前の手先などになるものか!」
「あたしのことを甘く見ているようね。ならばテレビを点けてみるがいいわ。面白い光景が見られる筈よ……」
その言葉に従って、矢口隊員が、自身のスマホでテレビ内容を確認しようとする。しかし、態々ワンセグを起動などせずとも、彼女のスマホは、そのニュースを緊急速報で知らせていた。
「各国に配備されているジズが、突然市街地に爆撃を始めて、世界中で大混乱が起こっているって。別の場所では、某国と某国が国境付近で戦争を始めたって。それと同時に中東の国もミサイル爆撃をしているそうよ。そこいらじゅうで戦争が始まっている。世界中が何かおかしくなっちゃてる……」
確かに、基地内や近くの街の放送設備から、サイレンの様な音や、緊急速報のアナウンスのくぐもった声が遠く聞こえている様であった。
「あたしが憑依して、ミサイルのボタンを押してやったのよ。それと、ちょっとした攻撃命令を出しただけだけどね……。
面白いでしょう? あたしがしたのは、たったこれだけなのに、その何十倍ものミサイルが飛んで、何倍もの軍隊が殺し合いを始めるのよ……。凄いわね、人間って……」
「貴様!」
そう叫びながら沼部隊員が、美菜隊員に組み付こうとする。しかし、女性とは思えない腕力で美菜隊員に弾き返され、沼部隊員は通信オペレーション機器に叩きつけられ、強 かに背中を打った。
「純一、お前に勝ち目なんてないのだよ! 何故なら、私には実体が無いのだ。お前がいくら強くても、私はこの世界の人間に憑依し続ける。それで、そうこうしている間に、人間が勝手に滅んでしまうと云う訳だ……。
とは言っても、あたしだって、人間の全滅は望むところではないのよ。さぁ、純一。諦めてあたしの下僕になって……。そして、人間が降伏するまで暴れまくるのよ。そして、この世界を恐怖で支配しなさい。
そうすれば、純一とあたしで、この世界の人間を好きなだけ貪り食えるのよ?
それに……、早くそうした方が、より多く人間が生き残れるのではないのかしら? あたしたちの家畜として……」
なんと、美菜隊員の父、新田武蔵参謀が、彼らの前に非公式に現れていたのだ。となると、普通なら蒲田隊長が訓示を垂れ、簡単な引き継ぎをするところだが、新田参謀が全員の前でスピーチを行うことになる。
「ご苦労。今日は特別に、ある目的を持って自分はここにやって来ている。この世界に来て直ぐ、自分はとある人間の記憶から『大悪魔』と云う単語を見つけたのだ。そこで、自分はそれを辿って、この場所に斯うしてやって来たと云う訳だ……」
いつもと違う父に、美菜隊員が眉を
「美菜、俺は君の父親だぜ、間違いなしにね。純一君に聞けば分かるかも知れないが、俺は大悪魔であると同時に、君の父親、新田武蔵でもあるのだ……。簡単に言うと、俺は新田武蔵に憑依しているのだよ」
以前、この基地に偽物が入り込んだこともあり、美菜隊員以外のメンバーも、即座に銃を構え臨戦態勢に入った。そして今度は、純一少年が作戦参謀に質問する。
「お前は何者だ! 何の目的でここにやって来た?!」
「それをこれから言おうとしていた所だよ、わが息子、純一や」
美菜隊員が銃口を、父である作戦参謀の額に向けた。
「手を上げなさい。上げなければ、本物の父だとしても、私は撃ちます」
「撃ってみたまえ、新田美菜隊員。そうすれば、俺は死ぬだろうな。構わないよ。ほら、遠慮はいらない、撃ちたまえ」
美菜隊員が躊躇っていると、参謀総長は自分の銃を懐から取り出し、彼女に一回狙いを定めたあと、直ぐに自分の胸に銃口を押し当て発砲した。
皆が驚いて呆然としているところ、今度は隊長の蒲田禄郎が話を始めた。
「ほう。この男は優柔不断で平凡な人間のように見せて、中々どうして、歴戦の勇士だったんだねぇ……。こら、純一君。人が話している時に、死体を食べようなんて、少し意地が汚いぞ……」
純一少年は、胸を撃たれ虫の息の作戦参謀に金色の丸薬を飲ませていた。この丸薬こそ、まだ死んでいない人間であれば、間違いなく助けることが出来ると云う、霊狐シラヌイの創った金丹。
彼は、その秘薬を新田武蔵参謀の口にねじ込み、片膝着いた状態のままで蒲田隊長を睨みつける。
「お前は何者だ?」
「私の名前なんて、どうでもいいだろう? それより、どうだい? 凄いだろう? 私は殺されても、死の寸前に別の人間に憑依してしまうんだ。だから私は死なない。不死身なんだよ……」
「その不死身の大悪魔が、僕に何の用だ?」
「まず、大悪魔であるお前の資質を確かめに来た。そして、お前がどうしても縄張りを守ると云うのなら、お前に私の恐ろしさを見せつけて、この世界から追い出してやろうと考えている……」
航空迎撃部隊の隊員は、美菜隊員を除き、純一少年が人間でないと云うことを聞き、驚くと同時に、その急な展開に呆然として口を閉じることが出来なかった。
その空白の時間が終わる前に、大悪魔であった蒲田隊長が膝を折って崩れ落ち、そして、それと同時に、今度は美菜隊員が大悪魔として話し出した。
「成程、この娘は、お前のことを随分知っているらしい。ほう、これは凄い。驚いた。こんなに強い大悪魔だったとは……。
あたし、少し気が変わったわ。あなた、下僕になりなさい。偽弟の純一君……」
「ふざけるな!」
「あたしは真面目よ。この世界を純一が表向き支配し、神であるあたしに、生贄として人間を献上するの。そして人間が不足したら、純一が別世界から調達してくればいいわ。純一の力なら
「誰がお前の手先などになるものか!」
「あたしのことを甘く見ているようね。ならばテレビを点けてみるがいいわ。面白い光景が見られる筈よ……」
その言葉に従って、矢口隊員が、自身のスマホでテレビ内容を確認しようとする。しかし、態々ワンセグを起動などせずとも、彼女のスマホは、そのニュースを緊急速報で知らせていた。
「各国に配備されているジズが、突然市街地に爆撃を始めて、世界中で大混乱が起こっているって。別の場所では、某国と某国が国境付近で戦争を始めたって。それと同時に中東の国もミサイル爆撃をしているそうよ。そこいらじゅうで戦争が始まっている。世界中が何かおかしくなっちゃてる……」
確かに、基地内や近くの街の放送設備から、サイレンの様な音や、緊急速報のアナウンスのくぐもった声が遠く聞こえている様であった。
「あたしが憑依して、ミサイルのボタンを押してやったのよ。それと、ちょっとした攻撃命令を出しただけだけどね……。
面白いでしょう? あたしがしたのは、たったこれだけなのに、その何十倍ものミサイルが飛んで、何倍もの軍隊が殺し合いを始めるのよ……。凄いわね、人間って……」
「貴様!」
そう叫びながら沼部隊員が、美菜隊員に組み付こうとする。しかし、女性とは思えない腕力で美菜隊員に弾き返され、沼部隊員は通信オペレーション機器に叩きつけられ、
「純一、お前に勝ち目なんてないのだよ! 何故なら、私には実体が無いのだ。お前がいくら強くても、私はこの世界の人間に憑依し続ける。それで、そうこうしている間に、人間が勝手に滅んでしまうと云う訳だ……。
とは言っても、あたしだって、人間の全滅は望むところではないのよ。さぁ、純一。諦めてあたしの下僕になって……。そして、人間が降伏するまで暴れまくるのよ。そして、この世界を恐怖で支配しなさい。
そうすれば、純一とあたしで、この世界の人間を好きなだけ貪り食えるのよ?
それに……、早くそうした方が、より多く人間が生き残れるのではないのかしら? あたしたちの家畜として……」