俺だって嫌さ(2)
文字数 2,540文字
「沼部、鵜の木、下丸子、矢口の各隊員は俺と万能戦闘機 で出撃。新田隊員と純一君は、地上で通信オペレーションを頼む」
蒲田隊長の出撃命令が発令された。
今回のターゲットは、未確認識別コードの飛行物体だった。それが侵略者なのか、単なる宇宙人旅行者なのか、それとも危険特殊生物、つまり通称怪獣なのか、まだ分かってはいない。
新田姉弟を除く五人は、ガルラ搭乗の為、きびきびと作戦室を飛び出して行った。
一方、新田姉弟は、最近、略100%出撃から干されているので、少し退屈気味だ。特に姉の美菜隊員は、かなり不貞腐れている。
「鉄男君、君って結構プレイボーイなの?」
「はぁ?」
「矢口ちゃんが君にお熱みたいよ。何なら生贄の役、彼女に譲るけど、どう?」
「馬鹿言ってないで、仕事してくださいよ」
「君にだけは言われたくないわ……」
そんな話を2人がしていると、隊長からの緊急通信が原大麻作戦室に入る。美菜隊員は気持ちを入れ直して通信オペに就いた。
「え? 沼部、下丸子両隊員搭乗のエアレイが敵に捕獲されたんですって? ええ、でも脱出できたんですか。良かった。で、なんで連絡いれなかったんですか? それどころじゃなかったって? 隊長、困ります。はい。はい。了解です」
純一少年の心配そうな顔を見て、美菜隊員は一応、状況を彼に説明する。
「ガルラの艦載機に2人乗りのエアレイってのがあるのだけど、沼部隊員と下丸子隊員の乗っていたエアレイが敵戦艦に捕獲されたの。でも、2人は敵の隙を見て脱出したらしいわ。2人が脱出すると逆襲されるのが分かったのか、相手の戦艦は直ぐ逃げ出して、残念ながら、そいつは撃ち落とすことが出来なかったそうよ」
純一少年は、通信にはその他の会話もあったのではないかと思うのだが、敢えてそれを指摘することは避けた。彼も蒲田隊長ではないが、それどころではなかったのである。
そして30分後、ガルラが帰還し、搭乗メンバー全員が作戦室に戻った時、純一少年の緊張は最大レベルにまで高まっていた。
(沼部隊員と下丸子隊員が、前より僕の脅威になっている。彼らは別人じゃないのか?)
純一少年は沼部隊員にカマをかけてみた。
「沼部隊員、あなた誰ですか?」
この台詞には、沼部、下丸子両隊員だけでなく、そこに居た全員を唖然とさせる。しかし、残りの隊員は、純一少年の台詞の続きを聞いて、安心はしなかったが納得をすることは出来た。
「AIDSの隊員でしょ? AIDSの隊員ともあろうものが、敵に捕まるなんて、恥ずかしいとは思わないんですか?!」
「うるさい。子供は黙っていろ!」
純一少年は、沼部隊員にそう言われ、むかっ腹が立ったと云うように、隊長の許可も得ずにさっさと部屋に引き上げてしまった。当然、美菜隊員も慌てて彼の後を追う。
「どうしたのかなぁ、純一君。あんなこと言う子じゃないと思っていたのに……。最初の日のこと、根に持っていたのかな?」
矢口隊員の言葉は、蒲田隊長、鵜の木隊員の感想でもあった。
(僕がカマをかけた瞬間、彼らは僕に殺意を抱いた。矢張り彼らは、本物の沼部隊員と下丸子隊員じゃない。だとすると、今、2人は一体何処に……?)
恐らく、一刻を争うであろう……。
純一少年は部屋に急ぎ戻りながら、神経を集中して脅威を探った。
沼部隊員と下丸子隊員も、純一少年にとっては脅威となり得る。だが、彼らは純一少年に強い敵意を持っていない。この為、彼らの脅威は酷く小さい物となるのだ。
殆ど脅威でない脅威、彼はそんな2人の位置を、心の中で必死で探し求めていた。
美菜隊員が純一少年を追って部屋に入ると、純一少年は駆け寄ってきて彼女にキスを求めてきた。正直、そんな気分ではないのだが、役目上、美菜隊員は彼の要求に従う。
彼のキスは、いつもより少し長めだった。
それが何を意味するのか、彼女には分からない。しかし、それが彼女の意識を奪う為のものであることは、今までの経験上、美菜隊員も良く知っている。
そして、彼女の予期した通り、立っている力も失い、美菜隊長は、純一少年へと凭 れ掛かっていった。
美菜隊員が目を醒ました時、彼女はソファに腰掛けた状態……。時計をさっと見ると、彼女が意識を失っていたのは、ほんの数分間だけの様である。
意識を取り戻した彼女が、先ずすべきこと、それはターゲットの確認だ。
美菜隊員が辺りを見回すと、その純一少年は、リビングのソファに腰かけ、瞑想をするように目を閉じている。
「鉄男君、君はなんで……?」
彼は答えなかった。美菜隊員はあわてて彼に近づいて手に触れる。
間違いなく人間であった。彼は人形などではない。美菜隊員はほっとして、元のソファへと腰を下ろす。
暫く彼は、そのまま瞑想していたのだが、突然、彼は目を開いて起き上がり、手に準備していたガウンのベルトで、座った状態の美菜隊員を、ぐるぐると縛りつける。そして、呆然とする彼女に、済まなそうに謝罪の言葉を掛けた。
「すみません、お嬢さん。暫くの間、我慢していてくださいね……」
「あなた! 『十の思い出』ね?!」
「ええ、そうです。鉄男君に化けていますが、私、紺野正信と申します。女性を縛るなど言語道断の恥ずべき行 いなのですが、貴女に彼の脱走を騒がれてしまっては、元も子もないのです。申し訳ありませんがお許しください。実は私、もうあと何分も実体化していられないものなので……」
「彼は、鉄男君は何処に行ったの?」
「彼は敵の戦艦に乗り込んでいます。沼部隊員と下丸子隊員を救い出すために……」
「そんな? 沼部隊員たちなら……」
紺野正信の姿は段々に薄れてきている。もう直ぐタイムリミットのようだ。
「彼らは偽物ですよ。本物は今、敵に捕らえられています」
「でも、どうやって助けると云うの?」
「貴女 は彼を過小評価している。鉄男君は敵の居場所も察知できるし、飛ぶことだって出来ますよ」
「でも、彼は闘わないって……」
「鉄男君は、闘うのが嫌だと言っているだけです。彼は仲間を護る為だったら、星だって砕きますよ」
「彼は、私たちを裏切ったりしない?」
紺野正信は白い霧となって消えてしまい、美菜隊員は残念ながら、彼から最後の質問の答えを聞くことは出来なかった……。
蒲田隊長の出撃命令が発令された。
今回のターゲットは、未確認識別コードの飛行物体だった。それが侵略者なのか、単なる宇宙人旅行者なのか、それとも危険特殊生物、つまり通称怪獣なのか、まだ分かってはいない。
新田姉弟を除く五人は、ガルラ搭乗の為、きびきびと作戦室を飛び出して行った。
一方、新田姉弟は、最近、略100%出撃から干されているので、少し退屈気味だ。特に姉の美菜隊員は、かなり不貞腐れている。
「鉄男君、君って結構プレイボーイなの?」
「はぁ?」
「矢口ちゃんが君にお熱みたいよ。何なら生贄の役、彼女に譲るけど、どう?」
「馬鹿言ってないで、仕事してくださいよ」
「君にだけは言われたくないわ……」
そんな話を2人がしていると、隊長からの緊急通信が原大麻作戦室に入る。美菜隊員は気持ちを入れ直して通信オペに就いた。
「え? 沼部、下丸子両隊員搭乗のエアレイが敵に捕獲されたんですって? ええ、でも脱出できたんですか。良かった。で、なんで連絡いれなかったんですか? それどころじゃなかったって? 隊長、困ります。はい。はい。了解です」
純一少年の心配そうな顔を見て、美菜隊員は一応、状況を彼に説明する。
「ガルラの艦載機に2人乗りのエアレイってのがあるのだけど、沼部隊員と下丸子隊員の乗っていたエアレイが敵戦艦に捕獲されたの。でも、2人は敵の隙を見て脱出したらしいわ。2人が脱出すると逆襲されるのが分かったのか、相手の戦艦は直ぐ逃げ出して、残念ながら、そいつは撃ち落とすことが出来なかったそうよ」
純一少年は、通信にはその他の会話もあったのではないかと思うのだが、敢えてそれを指摘することは避けた。彼も蒲田隊長ではないが、それどころではなかったのである。
そして30分後、ガルラが帰還し、搭乗メンバー全員が作戦室に戻った時、純一少年の緊張は最大レベルにまで高まっていた。
(沼部隊員と下丸子隊員が、前より僕の脅威になっている。彼らは別人じゃないのか?)
純一少年は沼部隊員にカマをかけてみた。
「沼部隊員、あなた誰ですか?」
この台詞には、沼部、下丸子両隊員だけでなく、そこに居た全員を唖然とさせる。しかし、残りの隊員は、純一少年の台詞の続きを聞いて、安心はしなかったが納得をすることは出来た。
「AIDSの隊員でしょ? AIDSの隊員ともあろうものが、敵に捕まるなんて、恥ずかしいとは思わないんですか?!」
「うるさい。子供は黙っていろ!」
純一少年は、沼部隊員にそう言われ、むかっ腹が立ったと云うように、隊長の許可も得ずにさっさと部屋に引き上げてしまった。当然、美菜隊員も慌てて彼の後を追う。
「どうしたのかなぁ、純一君。あんなこと言う子じゃないと思っていたのに……。最初の日のこと、根に持っていたのかな?」
矢口隊員の言葉は、蒲田隊長、鵜の木隊員の感想でもあった。
(僕がカマをかけた瞬間、彼らは僕に殺意を抱いた。矢張り彼らは、本物の沼部隊員と下丸子隊員じゃない。だとすると、今、2人は一体何処に……?)
恐らく、一刻を争うであろう……。
純一少年は部屋に急ぎ戻りながら、神経を集中して脅威を探った。
沼部隊員と下丸子隊員も、純一少年にとっては脅威となり得る。だが、彼らは純一少年に強い敵意を持っていない。この為、彼らの脅威は酷く小さい物となるのだ。
殆ど脅威でない脅威、彼はそんな2人の位置を、心の中で必死で探し求めていた。
美菜隊員が純一少年を追って部屋に入ると、純一少年は駆け寄ってきて彼女にキスを求めてきた。正直、そんな気分ではないのだが、役目上、美菜隊員は彼の要求に従う。
彼のキスは、いつもより少し長めだった。
それが何を意味するのか、彼女には分からない。しかし、それが彼女の意識を奪う為のものであることは、今までの経験上、美菜隊員も良く知っている。
そして、彼女の予期した通り、立っている力も失い、美菜隊長は、純一少年へと
美菜隊員が目を醒ました時、彼女はソファに腰掛けた状態……。時計をさっと見ると、彼女が意識を失っていたのは、ほんの数分間だけの様である。
意識を取り戻した彼女が、先ずすべきこと、それはターゲットの確認だ。
美菜隊員が辺りを見回すと、その純一少年は、リビングのソファに腰かけ、瞑想をするように目を閉じている。
「鉄男君、君はなんで……?」
彼は答えなかった。美菜隊員はあわてて彼に近づいて手に触れる。
間違いなく人間であった。彼は人形などではない。美菜隊員はほっとして、元のソファへと腰を下ろす。
暫く彼は、そのまま瞑想していたのだが、突然、彼は目を開いて起き上がり、手に準備していたガウンのベルトで、座った状態の美菜隊員を、ぐるぐると縛りつける。そして、呆然とする彼女に、済まなそうに謝罪の言葉を掛けた。
「すみません、お嬢さん。暫くの間、我慢していてくださいね……」
「あなた! 『十の思い出』ね?!」
「ええ、そうです。鉄男君に化けていますが、私、紺野正信と申します。女性を縛るなど言語道断の恥ずべき
「彼は、鉄男君は何処に行ったの?」
「彼は敵の戦艦に乗り込んでいます。沼部隊員と下丸子隊員を救い出すために……」
「そんな? 沼部隊員たちなら……」
紺野正信の姿は段々に薄れてきている。もう直ぐタイムリミットのようだ。
「彼らは偽物ですよ。本物は今、敵に捕らえられています」
「でも、どうやって助けると云うの?」
「
「でも、彼は闘わないって……」
「鉄男君は、闘うのが嫌だと言っているだけです。彼は仲間を護る為だったら、星だって砕きますよ」
「彼は、私たちを裏切ったりしない?」
紺野正信は白い霧となって消えてしまい、美菜隊員は残念ながら、彼から最後の質問の答えを聞くことは出来なかった……。