不死身の大悪魔(7)

文字数 2,575文字

 翌朝のミーティング……。
 純一少年は、いつもと違い、誰よりも早く作戦室に姿を見せている。
 そして、航空迎撃部隊のメンバーも、それから次々と作戦室に入って来たのだが、彼に質問する者は誰もいない。と云うか、相手が純一少年でなくとも、誰も口を開こうとはしなかったのである……。

 美菜隊員は、作戦室に入って純一少年を見つけると、傍らにあの女悪魔がいるのではないかと目で探した。勿論、彼女が作戦室(ここ)にいる筈がない。彼女は『十の思い出』で、10分間しか存在できはしないのだ。

 新田参謀はまだ傷が痛むのか、テーブルの椅子に座ったままで、特に自分から何かを始めようとはしない。確かに、今朝の議題はもう決まっている。

 参謀に代わり、蒲田隊長が「純一君」と、彼に話をするよう目で促した。

「分かりました……。話します……。僕は結局、100%奴を倒す作戦を見つけることは出来ませんでした……」

 航空迎撃部隊のメンバーは、全員、不思議とそれを聞いて気持ちが軽くなった。
「そっか、それじゃ仕方ないね、純一君。で、誰からにする? やっぱりあたしより、新田先輩からかな?」と、矢口隊員が楽しそうに口を切る。
「そりゃそうだろう」と、鵜の木隊員。

「ちょっと待ってください。みんなには、お願いがあるんです。ですから、僕の話を聞いてください。100%勝てると云う保証はありませんが、勝機は有ります。でも、僕だけでは駄目なんです。今度の闘いには、みんなの協力が必要なんです。ですから、僕と一緒に闘ってください……」

 純一少年の言葉に、一瞬の沈黙のあと、蒲田隊長が応える。
「そうだな。私たちは、奴を恐れ、死ぬことしか考えていなかった。いかに楽に死ねるかとな。私たちは、奴とまだ闘ってすらいないのに……」
「ああ、やってやろうじゃないですか! ねぇ隊長。それで、純一君! 俺たちはどうやって手伝えばいいんだ?!」
 この集団自決気分に、今一つ乗り気でなかった沼部隊員も、これには賛成の様で、彼も身を乗り出して話に加わる。

「奴から電話が掛かってきたら、僕は奴の申し出を拒否します。そして、決着を付けるよう、奴に決闘を申し込みます。場所は、そうですね……、国立競技場が良いでしょう」
「罠を張るにしても、そんな決闘に、あの悪魔が来る筈ないじゃない!」
 美菜隊員が、純一少年の作戦にクレームをつける。しかし、それは、純一少年の望みの内容だった。
「そうなれば、僕たちの勝ちです」
「え?」
「実は昨日、月宮盈と云う大悪魔を呼び出して、奴に『呪い』を掛けて貰いました。彼女は、法具と呪いのスペシャリストなのです。
 美菜隊員……、まさか、本気で僕と盈さんが、変なことしていたと思っていたんじゃないでしょうね?」
 美菜隊員は昨日のことを思い出して、顔が真っ赤になった。
「呪いが発動すれば、腹部に恐ろしい激痛が走ります。その痛みは間違いなく能力を使う集中力を奪ってしまうことでしょう……」
「でも、憑依は出来るんじゃないのかい?」と、下丸子隊員が尋ねる。
「出来ますよ。でもね、呪いは付いて行くんです。奴は次の憑依先でも激痛に苛まれるのです。その激痛は死ぬまで続きます。結局、憑依は、死ぬまで続く激痛を、より長く味わうだけに過ぎません」
「凄いな。それで俺たちの勝ちって訳だ」と、沼部隊員が喜んで少年の肩を叩いた。
「奴が来なければね……」
 そう言ってから、純一少年は呪いの説明を続ける。
「これほど強力な呪いとなると、発動に幾つかの制約が出来てきます。盈さんはその条件を『決闘の呼び出しを受けて、30分以内にそこに行かなかった場合』としました。さっき美菜隊員が言ったように、『奴は恐らくこの呼び出しに応じない』と僕らは考えた訳です。そして、もう一つの制約は、呪いというものの本質に関わるものなのですが、常に呪いは掛ける側と掛けられる側のリスクが等しい物なのです。今回は『奴が、もし 30分以内にそこに来た場合、呪いは発動者に掛かる』と云うもので、発動者は盈さんですが、彼女は僕の術で出来た幻なので、そのリスクは僕が負うことになります」
「そんな……」
「で、これからがお願いなのですが、奴が万が一、国立競技場に現れたら、いかにもそこには罠が仕掛けてある、と云うことを臭わせて欲しいのです。
 具体的には……、そうですね……、そこに結界が張られている様に思わせましょう。後で僕はフォークか、テントを張る金具、ペグでも持ってきます。それを僕が右手を上げたら競技場に挿してください。競技場には大きな円を描いて貰って、その円周上を八等分する様な位置に金具を挿すことにしましょう。その方がもっともらしいから……。で、恐らく、奴は罠を恐れ、金具が挿し終る前に、とっさに能力を使う筈です……」
「でも純一君、あいつが来ちゃったら、もう呪いは純一君に発動しちゃって、あいつが戻っても、もう遅いんじゃないの? だって、あいつ来ちゃったんだもの……」
 矢口隊員が心配そうに、そう尋ねる。
「いいえ……。時間が戻されたら、来たと云う事実はなくなるので、僕に呪いが掛かっていたとしても、時間が戻り、呪いの発動はリセットされます。逆に一たび奴に呪いが掛かったら、奴はそれを解く術がない。そうなれば、僕の勝ちです」
「おお、何か勝てる気がしてきたぜ」
 鵜の木隊員が歓声を上げる。それを純一少年は制して、話のまとめを行った。
「と云う訳で、この作戦は極秘です。奴にバレると元も子も無くなります……。
 それと、新田作戦参謀、国立競技場の手配、円の描画と八等分の位置を示す印の描画、内密かつ、こっちは、それがバレるよう宜しくお願いします」

 純一少年はひと呼吸おき、みんなの顔を見てからニッコリと笑って告げる。
「では、11時に再集合、全員ガルラで国立競技場に向かいましょう!」
 蒲田隊長が、笑顔で純一少年に近づき、彼に言葉を掛ける。
「では、この作戦のコード名を決めておこう。純一君、君が決めたまえ」
「そうですね。では、ヨーコなんてどうでしょう? 僕の妹の名前です」
「では、AIDSエアフォース、オペレーションヨーコ、日本時間午前11時にミッション開始だ!!」

 起きていたのか、最後に新田作戦参謀が会議を閉める。
「それまで各自待機。純一、君は全員分の道具を忘れるなよ。では、解散!」
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登場人物紹介

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

新田武蔵


対侵略的異星人防衛システム作戦参謀、新田美菜の義父であり、要鉄男を息子の純一と偽って、原当麻基地航空迎撃部隊に配属させる。

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