別れの挨拶(6)
文字数 1,742文字
最後の監視役は美菜隊員……。
時間は1時間以上たっぷりあるが、それについて誰も文句を言わなかった。
純一少年は沼部隊員に起こされ、リビングのソファに腰掛け彼女を待つ。彼女が部屋に入ってくると、沼部隊員は彼女と入れ替わりに黙って出て行った。
暫くの間、純一少年は無言で美菜隊員に背を向けたままソファに座り、美菜隊員は、それを腕を組みながら、斜め後ろからじっと見つめていた……。だが、沼部隊員が出て行き、彼の気配が無くなると、美菜隊員は懐から出した拳銃の銃口を、ピタリと純一少年の後頭部に向ける。
「純一、覚悟なさい。みんなは君を信じているようだけど、君が純一なのか、それとも、あの大悪魔なのかは誰にも分かりはしない。
かと言って、それを証明するってことは、君の能力を復活させるってことでしょう?
それでもし、君があの大悪魔だったら、もう取り返しのつかないことになるわ……。
ええ、勿論、君が本物の純一、いえ要鉄男君で、それを今射殺したとしても、当然、取り返しがつかないわよね……」
「じゃ、どうするんです?」
純一少年は彼女の方を向かず、そのままの姿勢で質問する。
「あたしも後を追うわ。責任を取ってね」
「美菜隊員じゃ、僕を殺すのは無理だと思いますよ……。今、僕が悪魔の能力を失っているのだとしても……」
「馬鹿にしないで! 出来る!! あたしにだって!」
「試しますか?」
「その前に聞いて置きたいことがある」
「どうぞ」
「あたしは、あの悪魔に憑依された時、あの悪しき記憶と共に、蒲田隊長や父の記憶や感情が同時に流れ込んできた。君も憑依されたわよね。もしかして……」
「ええ、僕は憑依されたことに由って、あなたの記憶も感情も、全て僕に流れ込んで来ましたよ。多摩川美菜さん。感情を抑えるのは難しいと思いますが、少し僕に説明させてくれませんか? あなたにとって、これはとても大事なことなんです……」
「いいわ、好きにしなさい。身の程知らずな年増女を、たっぷりとあざ笑いながら、何とでも言うがいいわ」
「では、説明させて貰いますね……」
純一少年はこの後、流入した記憶の注意事項を、蒲田隊長や新田参謀と同じ様に説明した。そして、美菜隊員には彼女用の特別なコメントを付け加える。
「美菜隊員、僕はこの世界から離れようと考えています。だけど、その前に、純一さんとあなたのことを、そして、あなたの気持ちのことを、僕はあなた自身の口から直接、聞いて置きたい。勿論、辛いとは思います……」
「あたしの傷口を、もう一度曝せと言うのね、君は……。そして、それを『愚かな女の物語』と云う土産話にして、悠悠と自分の故郷に持って帰ろうと云う訳か……」
「はい、見せてください。あなたの全てを。その代わり、僕がどうして、この世界を離れようとしているのか、美菜隊員にだけは詳しくお話します。僕はその話を、下丸子隊員に概略レベルでしかしていません。もし、あなたがここで僕の話を聞かないと、誰も僕が去る理由が分からないままになるのですよ」
「やはり君は残酷な大悪魔ね。仮にあの大悪魔で無かったにしても、悪魔の記憶に因って、既に、あいつと同じものになっているのじゃないかしら?」
純一少年は頭を掻いた。
「いいわ……。でも、一つ条件がある」
「ここで殺されるのは嫌ですよ。それから、あなたを殺すのもお断りです」
「君が条件を飲んだら、君を旅立たせてあげる。旅立つだけなら、この世界は守られるものね。あたしも死なない。それでいい?」
「OKです」
「じゃ、今すぐ裸になって。そしてベッドで待っていて」
「よく裸にされる日だなぁ……」
「君も、あたしの記憶を読んだのならば、あたしの気持ちも知っているでしょう? 私はバツイチなの。君だって、始めてと云う訳じゃないでしょう? 私が裸になって寝室に行くから相手をしてくれない? あの悪魔から受け継いだ、あたしの征服欲を、なんとかそれで納得させるから……」
「いいですよ。あなたさえ良ければ。そうしていいのなら、僕は喜んで……」
「嘘ばっかり……」
純一少年は、美菜隊員の見ている前で平然と寝間着を脱ぎ、トランクスだけの姿になった。そして、「では待っています」と彼女に言うと、彼は寝室へと当たり前の様に入って行くのであった。
時間は1時間以上たっぷりあるが、それについて誰も文句を言わなかった。
純一少年は沼部隊員に起こされ、リビングのソファに腰掛け彼女を待つ。彼女が部屋に入ってくると、沼部隊員は彼女と入れ替わりに黙って出て行った。
暫くの間、純一少年は無言で美菜隊員に背を向けたままソファに座り、美菜隊員は、それを腕を組みながら、斜め後ろからじっと見つめていた……。だが、沼部隊員が出て行き、彼の気配が無くなると、美菜隊員は懐から出した拳銃の銃口を、ピタリと純一少年の後頭部に向ける。
「純一、覚悟なさい。みんなは君を信じているようだけど、君が純一なのか、それとも、あの大悪魔なのかは誰にも分かりはしない。
かと言って、それを証明するってことは、君の能力を復活させるってことでしょう?
それでもし、君があの大悪魔だったら、もう取り返しのつかないことになるわ……。
ええ、勿論、君が本物の純一、いえ要鉄男君で、それを今射殺したとしても、当然、取り返しがつかないわよね……」
「じゃ、どうするんです?」
純一少年は彼女の方を向かず、そのままの姿勢で質問する。
「あたしも後を追うわ。責任を取ってね」
「美菜隊員じゃ、僕を殺すのは無理だと思いますよ……。今、僕が悪魔の能力を失っているのだとしても……」
「馬鹿にしないで! 出来る!! あたしにだって!」
「試しますか?」
「その前に聞いて置きたいことがある」
「どうぞ」
「あたしは、あの悪魔に憑依された時、あの悪しき記憶と共に、蒲田隊長や父の記憶や感情が同時に流れ込んできた。君も憑依されたわよね。もしかして……」
「ええ、僕は憑依されたことに由って、あなたの記憶も感情も、全て僕に流れ込んで来ましたよ。多摩川美菜さん。感情を抑えるのは難しいと思いますが、少し僕に説明させてくれませんか? あなたにとって、これはとても大事なことなんです……」
「いいわ、好きにしなさい。身の程知らずな年増女を、たっぷりとあざ笑いながら、何とでも言うがいいわ」
「では、説明させて貰いますね……」
純一少年はこの後、流入した記憶の注意事項を、蒲田隊長や新田参謀と同じ様に説明した。そして、美菜隊員には彼女用の特別なコメントを付け加える。
「美菜隊員、僕はこの世界から離れようと考えています。だけど、その前に、純一さんとあなたのことを、そして、あなたの気持ちのことを、僕はあなた自身の口から直接、聞いて置きたい。勿論、辛いとは思います……」
「あたしの傷口を、もう一度曝せと言うのね、君は……。そして、それを『愚かな女の物語』と云う土産話にして、悠悠と自分の故郷に持って帰ろうと云う訳か……」
「はい、見せてください。あなたの全てを。その代わり、僕がどうして、この世界を離れようとしているのか、美菜隊員にだけは詳しくお話します。僕はその話を、下丸子隊員に概略レベルでしかしていません。もし、あなたがここで僕の話を聞かないと、誰も僕が去る理由が分からないままになるのですよ」
「やはり君は残酷な大悪魔ね。仮にあの大悪魔で無かったにしても、悪魔の記憶に因って、既に、あいつと同じものになっているのじゃないかしら?」
純一少年は頭を掻いた。
「いいわ……。でも、一つ条件がある」
「ここで殺されるのは嫌ですよ。それから、あなたを殺すのもお断りです」
「君が条件を飲んだら、君を旅立たせてあげる。旅立つだけなら、この世界は守られるものね。あたしも死なない。それでいい?」
「OKです」
「じゃ、今すぐ裸になって。そしてベッドで待っていて」
「よく裸にされる日だなぁ……」
「君も、あたしの記憶を読んだのならば、あたしの気持ちも知っているでしょう? 私はバツイチなの。君だって、始めてと云う訳じゃないでしょう? 私が裸になって寝室に行くから相手をしてくれない? あの悪魔から受け継いだ、あたしの征服欲を、なんとかそれで納得させるから……」
「いいですよ。あなたさえ良ければ。そうしていいのなら、僕は喜んで……」
「嘘ばっかり……」
純一少年は、美菜隊員の見ている前で平然と寝間着を脱ぎ、トランクスだけの姿になった。そして、「では待っています」と彼女に言うと、彼は寝室へと当たり前の様に入って行くのであった。