俺だって嫌さ(3)
文字数 2,418文字
純一少年は、沼部隊員と下丸子隊員が生きていることを確信している。だが、それは現時点でのこと。次の瞬間、2人がどうなっているかの保証は無い。
それに、純一少年が敵艦に侵入したことで、2人が処刑される危険は寧ろ高まっている。一刻も早く助け出さねばならないのだ。
しかし、彼らを救い出す為に、最短コースを取るにしても、幾つかの部屋を通らなければならない。そして、そこにいる敵の宇宙人を、恐らく全て倒す必要がある。これは、彼にとっても難儀な作業だ。
勿論、彼は最短コースを取る。
それは通路やドアを無視した直線コース。壁があればそれを破り、床があればそれを突き抜ける……。
「何者だ!」
インベーダーたちは、自分たちの言葉で口々にそう叫ぶ。だが、純一少年はそれを無視し、指の皮を硬化して飛ばし、次々に相手の喉笛を切り裂いていった。
別の部屋や廊下では、迎撃システムのレーザービームが純一少年を襲う。
だが、彼には危険察知の特殊能力がある。予期していた純一少年は、システムにビームを撃たせ、その位置を確認すると、発射装置を光線弾で破壊した。
そうして、やっとのことで彼らが囚われている部屋の前へと到着したのである……。
純一少年はドアノブの部分に左手を伸ばし、拳を向け、拳から発する光線弾で鍵を破壊する。扉はその反動で自動的に開いた。彼も、ここだけは正当な方法、つまり入口から部屋へと入って行く。
「沼部隊員、下丸子隊員!」
「純一君、どうしてここへ?」
「そんなことは後です! 速く、ここから脱出して下さい!!」
純一少年の登場に意表を突かれた沼部、下丸子の両隊員であったが、直ぐに状況を理解し、純一少年の言葉に頷くと、彼の後について艦内を走り抜けていく。
途中出会った敵は、いかにも光線銃を撃ったかの様に、純一少年は2人から左拳を隠し、その拳から光線弾を放った。両隊員も、倒れた敵を見つけると、その敵の銃を奪って武器を確保、純一少年の援護に加わる。
そして、遂に彼らは船外へと飛び出すことに成功した。それも、なんと、彼らはこの巨大な戦艦から脱出するのに、実に10分という短時間でそれをやってのけたのである。
戦艦から少し離れた暗闇の森の中、敵が追って来ないことを確認した純一少年は、同様に一息ついている沼部、下丸子両隊員に言葉を掛けた。
「沼部隊員、ここは丹沢山系の山中です。奴ら、あなたたちの偽物が工作に成功したら、直ぐ攻撃を開始できるよう、こんな近くに戦艦を隠していたのです。で、すみませんが、ここからは、お二人で脱出してくれませんか? 僕には少し急ぎの用があるので……」
沼部隊員は、彼の言葉について「分かった、頼んだぞ」と言ったきり、敢えて彼の言葉を問い質そうとはしなかった……。一方、下丸子隊員はと言うと、森に消えて行く純一少年を、ただ不思議そうに眺めているだけであった。
純一少年が基地内の自室に戻った時、美菜隊員はリビングのソファに座って、のんびりと寛いでいた。
「遅かったわね、純一」
「あれ?正信 は何やってたんだ?」
「彼は紳士なのよ。ニットのガウンのベルトで、緩めに縛ってくれたの。さ、偽物を退治しに行くんでしょ? 純一、早くしなさい」
美菜隊員は立ち上がると、純一少年にニッコリと笑顔を見せる。
「美菜隊員、張り切っている処、済みませんけどね、また少しだけ、僕にキスさせてくれませんかねぇ? 僕は少し、お腹が空いているんですよ……」
そして、その一時間後……。
沼部隊員と下丸子隊員が、1号棟から外に出ようとした処を、出口のドアの所に純一少年が立ち、両手を横に広げて行手を阻んだ。
「何処へ行くんです? 下丸子隊員。いや、下丸子隊員の偽物さん」
「純一君? 何を言うんだい? 君、どうかしているんじゃないか?」
今度は、二人の後ろから、美菜隊員が銃を構えて現れて来る。
「どうかしているのは、下丸子隊員たちじゃないかしら?」
「新田隊員、君までどうしたんだ。まさか、純一君の戯言 を、信じているなんてことはないんだろう?」
沼部隊員が、口元に引き攣った笑いを浮かべ言い訳をした。だが、美菜隊員は鼻で笑って相手にしない。
そして、美菜隊員の脇に蒲田隊長も腕を組んで登場し、「私は信じているよ、勿論、純一君の方をね」と言い放った。
「仮に、僕たちが偽物だとしたら、本物は何処にいるって言うんですか?」
その興奮した下丸子隊員の台詞に対し、純一少年の後ろから、低く、落ち着いた声が響いてくる。
「さぁ、何処だろうな? 少なくとも敵戦艦の中じゃなさそうだ」
声の主は本物の沼部隊員だった。
純一少年の陰から、囚われていた筈の下丸子隊員と沼部隊員も姿を見せる。
「くそっ、これまでか……。だがな、お前たちは、もうお終いだ。この基地には時限爆弾を無数に仕掛けてきた。もう、探し出す時間などは無い!」
「時限爆弾って、これかな~?
もう全部見つけて、爆発物処理班がみんな解体しちゃったよ~」
矢口隊員も、怪しい機械部品の入ったビニール袋を手に現れた。
それを見た沼部隊員の偽物と下丸子隊員の偽物は、各々銃を抜いて蒲田隊長と純一少年を道連れにしようとする。しかし、ドアの脇の観葉植物の鉢に隠れ、敵に照準を合わせていた鵜の木隊員の、自慢の高速射撃には敵わない。偽物2人は発砲する間もなく、敢え無くそこに倒された。
そして、サイレンが基地内に響き渡る。隠れていた敵戦艦が、偽物が脱出するタイミングに合わせて、原当麻基地への直接攻撃に出て来たらしい。
「AIDS航空迎撃部隊出撃!」
蒲田隊長の出撃命令が玄関ロビーに反響した。そして、小さく彼はこう言葉を添える。
「純一君、君もガルラに乗ってみるかい?」
「隊長! そんなこと、俺が絶対許しません! こんな奴と一緒になんか、俺は絶対闘いませんよ!!」
「?」
沼部隊員はそう言ってから、純一少年に向かって小さく目配せをしたのだった。
それに、純一少年が敵艦に侵入したことで、2人が処刑される危険は寧ろ高まっている。一刻も早く助け出さねばならないのだ。
しかし、彼らを救い出す為に、最短コースを取るにしても、幾つかの部屋を通らなければならない。そして、そこにいる敵の宇宙人を、恐らく全て倒す必要がある。これは、彼にとっても難儀な作業だ。
勿論、彼は最短コースを取る。
それは通路やドアを無視した直線コース。壁があればそれを破り、床があればそれを突き抜ける……。
「何者だ!」
インベーダーたちは、自分たちの言葉で口々にそう叫ぶ。だが、純一少年はそれを無視し、指の皮を硬化して飛ばし、次々に相手の喉笛を切り裂いていった。
別の部屋や廊下では、迎撃システムのレーザービームが純一少年を襲う。
だが、彼には危険察知の特殊能力がある。予期していた純一少年は、システムにビームを撃たせ、その位置を確認すると、発射装置を光線弾で破壊した。
そうして、やっとのことで彼らが囚われている部屋の前へと到着したのである……。
純一少年はドアノブの部分に左手を伸ばし、拳を向け、拳から発する光線弾で鍵を破壊する。扉はその反動で自動的に開いた。彼も、ここだけは正当な方法、つまり入口から部屋へと入って行く。
「沼部隊員、下丸子隊員!」
「純一君、どうしてここへ?」
「そんなことは後です! 速く、ここから脱出して下さい!!」
純一少年の登場に意表を突かれた沼部、下丸子の両隊員であったが、直ぐに状況を理解し、純一少年の言葉に頷くと、彼の後について艦内を走り抜けていく。
途中出会った敵は、いかにも光線銃を撃ったかの様に、純一少年は2人から左拳を隠し、その拳から光線弾を放った。両隊員も、倒れた敵を見つけると、その敵の銃を奪って武器を確保、純一少年の援護に加わる。
そして、遂に彼らは船外へと飛び出すことに成功した。それも、なんと、彼らはこの巨大な戦艦から脱出するのに、実に10分という短時間でそれをやってのけたのである。
戦艦から少し離れた暗闇の森の中、敵が追って来ないことを確認した純一少年は、同様に一息ついている沼部、下丸子両隊員に言葉を掛けた。
「沼部隊員、ここは丹沢山系の山中です。奴ら、あなたたちの偽物が工作に成功したら、直ぐ攻撃を開始できるよう、こんな近くに戦艦を隠していたのです。で、すみませんが、ここからは、お二人で脱出してくれませんか? 僕には少し急ぎの用があるので……」
沼部隊員は、彼の言葉について「分かった、頼んだぞ」と言ったきり、敢えて彼の言葉を問い質そうとはしなかった……。一方、下丸子隊員はと言うと、森に消えて行く純一少年を、ただ不思議そうに眺めているだけであった。
純一少年が基地内の自室に戻った時、美菜隊員はリビングのソファに座って、のんびりと寛いでいた。
「遅かったわね、純一」
「あれ?
「彼は紳士なのよ。ニットのガウンのベルトで、緩めに縛ってくれたの。さ、偽物を退治しに行くんでしょ? 純一、早くしなさい」
美菜隊員は立ち上がると、純一少年にニッコリと笑顔を見せる。
「美菜隊員、張り切っている処、済みませんけどね、また少しだけ、僕にキスさせてくれませんかねぇ? 僕は少し、お腹が空いているんですよ……」
そして、その一時間後……。
沼部隊員と下丸子隊員が、1号棟から外に出ようとした処を、出口のドアの所に純一少年が立ち、両手を横に広げて行手を阻んだ。
「何処へ行くんです? 下丸子隊員。いや、下丸子隊員の偽物さん」
「純一君? 何を言うんだい? 君、どうかしているんじゃないか?」
今度は、二人の後ろから、美菜隊員が銃を構えて現れて来る。
「どうかしているのは、下丸子隊員たちじゃないかしら?」
「新田隊員、君までどうしたんだ。まさか、純一君の
沼部隊員が、口元に引き攣った笑いを浮かべ言い訳をした。だが、美菜隊員は鼻で笑って相手にしない。
そして、美菜隊員の脇に蒲田隊長も腕を組んで登場し、「私は信じているよ、勿論、純一君の方をね」と言い放った。
「仮に、僕たちが偽物だとしたら、本物は何処にいるって言うんですか?」
その興奮した下丸子隊員の台詞に対し、純一少年の後ろから、低く、落ち着いた声が響いてくる。
「さぁ、何処だろうな? 少なくとも敵戦艦の中じゃなさそうだ」
声の主は本物の沼部隊員だった。
純一少年の陰から、囚われていた筈の下丸子隊員と沼部隊員も姿を見せる。
「くそっ、これまでか……。だがな、お前たちは、もうお終いだ。この基地には時限爆弾を無数に仕掛けてきた。もう、探し出す時間などは無い!」
「時限爆弾って、これかな~?
もう全部見つけて、爆発物処理班がみんな解体しちゃったよ~」
矢口隊員も、怪しい機械部品の入ったビニール袋を手に現れた。
それを見た沼部隊員の偽物と下丸子隊員の偽物は、各々銃を抜いて蒲田隊長と純一少年を道連れにしようとする。しかし、ドアの脇の観葉植物の鉢に隠れ、敵に照準を合わせていた鵜の木隊員の、自慢の高速射撃には敵わない。偽物2人は発砲する間もなく、敢え無くそこに倒された。
そして、サイレンが基地内に響き渡る。隠れていた敵戦艦が、偽物が脱出するタイミングに合わせて、原当麻基地への直接攻撃に出て来たらしい。
「AIDS航空迎撃部隊出撃!」
蒲田隊長の出撃命令が玄関ロビーに反響した。そして、小さく彼はこう言葉を添える。
「純一君、君もガルラに乗ってみるかい?」
「隊長! そんなこと、俺が絶対許しません! こんな奴と一緒になんか、俺は絶対闘いませんよ!!」
「?」
沼部隊員はそう言ってから、純一少年に向かって小さく目配せをしたのだった。