不死身の大悪魔(5)
文字数 2,170文字
沼部隊員は、純一少年の「でも」と言う言葉に反応した。
「でも? でも、なんだ?」
「大悪魔って連中は、大体一つずつ、特別な能力を持っているものなんです。あいつも大悪魔である以上、何かしらの能力があるとは思うのですが、あいつがどんな能力を持っているのか、僕には全く分からない……。だから、作戦の立てようが無いのです。それが分かりさえすれば、あいつを倒す方法も分かるんじゃないかと僕は思うのですが……」
「憑依ってやつじゃないのか?」
「確かに、あれだけ高速の憑依は、もう特技と言って良いのかも知れません。でも、あれは悪魔の基本技能です。僕も得意ではないですが、経験したことがありますよ。自分の死体への憑依を……」
「はぁ?」
「いずれにしても、彼には別の、特別な能力がある筈なんです……」
少し落ち着いたのか、美菜隊員が、まだ、いつもの口調ではないが、普通に近いペースで言葉を挟んできた。
「純一、それならあたしが分かるわ。憑依されたことで、あたしにもそれが伝わってきた。でも……、それを聞いても……、君が絶望するだけよ……」
純一少年と沼部隊員、そして、航空迎撃部隊のメンバー全員が美菜隊員へと視線を移す。美菜隊員はそれを待ってか、一呼吸置いてから、その続きを語りだした。
「彼は時間を巻き戻す能力……、何か不都合な問題が発生すると、過去の自分に向かって、それを忠告することが出来るのよ……。そして、起こった不都合な出来事を全て無かったことに出来る。彼はそれを、フィードバックと呼んでいたわ。
だから、決して罠にかからない。憑依させないように、何らかの方法で奇襲をかけたとしても、その能力で時間を戻されてしまい、結局、その奇襲は外されてしまう。本当に無敵なのよ、あいつは……」
「時間を戻せる?」
純一少年は、美菜隊員の言葉を繰り返した。そこへ、鵜の木隊員が右手に持った銃を、左手で擦りながら近づいて、話しに加わってくる。
「憑依に、時間の巻き戻しか……。どちらにしても一瞬で倒すしかないな。俺が奴を狙撃すると云うのはどうだろう? 心臓か脳を狙って、憑依も過去への伝言もさせないうちに、一撃で倒してしまうってのは?」
そう言って、鵜の木隊員は、さっと腰の銃を抜くと、銃口を壁に向けて構えた。
「難しいとは思いますよ、鵜の木隊員。大悪魔の生命力は半端ないですからね……。でも、確かに一理あります。恐らく、あいつは一瞬で倒すしかない……」
そう言った純一少年に、美菜隊員が立ち上がり、もう一度先程の提案を行った。
「純一、あたしを殺して頂戴。君、いつもキスして生気を奪っていたのでしょう? あれをあのまま続けると、あたしは死ぬんでしょう? だったらそれがいいわ。それで、あたしを殺して!」
「美菜隊員? 何を言っているんです。いい加減、正気に戻ってくださいよ!」
「あたしは冷静よ。自分でも思ったよりね。きっと君は、これから能力を沢山必要とする。そうであれば、生気はいくらあっても困りはしないわ。あたしはこのままでは闘っても戦力にならない。ならば、君にあたしの命を託す。それに、あたしが生きていると、あいつはあたしを人質に取るかも知れない。それなら、今のうちに死んでいた方が、君の足手纏いにならない。前に言ったでしょ? あたしはこの仕事に命を賭けているって……」
「美菜隊員、なんてことを……」
「そう言うことなら、私もそう頼もうか」と蒲田隊長も続く。
「キスは流石に嫌だが、あの心臓を貫手で貫く奴……。あれなら痛みを感じる前に、直ぐに死んじゃうんだろう。そんなところで私も殺してくれ」
あの大悪魔の記憶で見たのだろう、蒲田隊長は悪魔の良く使う殺害方法の一つを純一少年に示し、それで殺害してくれる様、彼に依頼した。
「僕が生気を吸い取っている間なら、相手は痛みは感じませんよ。でも……」
「じゃぁ、純一。俺もそいつで頼むわ……」と鵜の木隊員。
「私はキスがいいな……。新田先輩、それ位いいよね?」
矢口隊員もそれに続く。
不思議なもので、自分たちが殺されるかと思うと、それまで恐怖で押し潰 されそうになっていた筈なのに、皆で一緒に死ぬとなると、何か、妙にハイな気分になってくる。その時、彼らは、別の意味で狂気に落ちていたのかも知れない。
純一少年は、そんな彼らに不安を抱きながらも、場合によっては、自分が彼らを殺した方が良いのではないかとも考えていた。
「取り敢えずです、まだ時間があります。僕は部屋で待機しています。そして、明日の朝のミーティングまでに、どうするか決定します。もし、僕に勝機が無い様なら、みんなの命を僕は奪います。決してみんなを苦しめません。でも、まだ充分に時間があります。その間、僕は全力で対策を検討し、みんなが死ななくても良い様、なんとか勝てるよう、努力してみます……」
沼部隊員が全員を代表して彼に答えた。
「分かった。頼んだぜ。俺たちも各自、自室で待機するさ。今、宇宙人が来ても、何処にも守る場所なんて無いしな。じゃぁ、また明日だな。宜しく頼むぜ、俺たちの悪魔くん」
航空迎撃部隊のメンバーは、作戦参謀新田武蔵と美菜親子を除き、純一少年を含め、皆、自室へと戻って行った。
そして、美菜隊員は、まだ回復しきっていない父親を支え、医務室へと彼を誘 って行くのであった。
「でも? でも、なんだ?」
「大悪魔って連中は、大体一つずつ、特別な能力を持っているものなんです。あいつも大悪魔である以上、何かしらの能力があるとは思うのですが、あいつがどんな能力を持っているのか、僕には全く分からない……。だから、作戦の立てようが無いのです。それが分かりさえすれば、あいつを倒す方法も分かるんじゃないかと僕は思うのですが……」
「憑依ってやつじゃないのか?」
「確かに、あれだけ高速の憑依は、もう特技と言って良いのかも知れません。でも、あれは悪魔の基本技能です。僕も得意ではないですが、経験したことがありますよ。自分の死体への憑依を……」
「はぁ?」
「いずれにしても、彼には別の、特別な能力がある筈なんです……」
少し落ち着いたのか、美菜隊員が、まだ、いつもの口調ではないが、普通に近いペースで言葉を挟んできた。
「純一、それならあたしが分かるわ。憑依されたことで、あたしにもそれが伝わってきた。でも……、それを聞いても……、君が絶望するだけよ……」
純一少年と沼部隊員、そして、航空迎撃部隊のメンバー全員が美菜隊員へと視線を移す。美菜隊員はそれを待ってか、一呼吸置いてから、その続きを語りだした。
「彼は時間を巻き戻す能力……、何か不都合な問題が発生すると、過去の自分に向かって、それを忠告することが出来るのよ……。そして、起こった不都合な出来事を全て無かったことに出来る。彼はそれを、フィードバックと呼んでいたわ。
だから、決して罠にかからない。憑依させないように、何らかの方法で奇襲をかけたとしても、その能力で時間を戻されてしまい、結局、その奇襲は外されてしまう。本当に無敵なのよ、あいつは……」
「時間を戻せる?」
純一少年は、美菜隊員の言葉を繰り返した。そこへ、鵜の木隊員が右手に持った銃を、左手で擦りながら近づいて、話しに加わってくる。
「憑依に、時間の巻き戻しか……。どちらにしても一瞬で倒すしかないな。俺が奴を狙撃すると云うのはどうだろう? 心臓か脳を狙って、憑依も過去への伝言もさせないうちに、一撃で倒してしまうってのは?」
そう言って、鵜の木隊員は、さっと腰の銃を抜くと、銃口を壁に向けて構えた。
「難しいとは思いますよ、鵜の木隊員。大悪魔の生命力は半端ないですからね……。でも、確かに一理あります。恐らく、あいつは一瞬で倒すしかない……」
そう言った純一少年に、美菜隊員が立ち上がり、もう一度先程の提案を行った。
「純一、あたしを殺して頂戴。君、いつもキスして生気を奪っていたのでしょう? あれをあのまま続けると、あたしは死ぬんでしょう? だったらそれがいいわ。それで、あたしを殺して!」
「美菜隊員? 何を言っているんです。いい加減、正気に戻ってくださいよ!」
「あたしは冷静よ。自分でも思ったよりね。きっと君は、これから能力を沢山必要とする。そうであれば、生気はいくらあっても困りはしないわ。あたしはこのままでは闘っても戦力にならない。ならば、君にあたしの命を託す。それに、あたしが生きていると、あいつはあたしを人質に取るかも知れない。それなら、今のうちに死んでいた方が、君の足手纏いにならない。前に言ったでしょ? あたしはこの仕事に命を賭けているって……」
「美菜隊員、なんてことを……」
「そう言うことなら、私もそう頼もうか」と蒲田隊長も続く。
「キスは流石に嫌だが、あの心臓を貫手で貫く奴……。あれなら痛みを感じる前に、直ぐに死んじゃうんだろう。そんなところで私も殺してくれ」
あの大悪魔の記憶で見たのだろう、蒲田隊長は悪魔の良く使う殺害方法の一つを純一少年に示し、それで殺害してくれる様、彼に依頼した。
「僕が生気を吸い取っている間なら、相手は痛みは感じませんよ。でも……」
「じゃぁ、純一。俺もそいつで頼むわ……」と鵜の木隊員。
「私はキスがいいな……。新田先輩、それ位いいよね?」
矢口隊員もそれに続く。
不思議なもので、自分たちが殺されるかと思うと、それまで恐怖で押し
純一少年は、そんな彼らに不安を抱きながらも、場合によっては、自分が彼らを殺した方が良いのではないかとも考えていた。
「取り敢えずです、まだ時間があります。僕は部屋で待機しています。そして、明日の朝のミーティングまでに、どうするか決定します。もし、僕に勝機が無い様なら、みんなの命を僕は奪います。決してみんなを苦しめません。でも、まだ充分に時間があります。その間、僕は全力で対策を検討し、みんなが死ななくても良い様、なんとか勝てるよう、努力してみます……」
沼部隊員が全員を代表して彼に答えた。
「分かった。頼んだぜ。俺たちも各自、自室で待機するさ。今、宇宙人が来ても、何処にも守る場所なんて無いしな。じゃぁ、また明日だな。宜しく頼むぜ、俺たちの悪魔くん」
航空迎撃部隊のメンバーは、作戦参謀新田武蔵と美菜親子を除き、純一少年を含め、皆、自室へと戻って行った。
そして、美菜隊員は、まだ回復しきっていない父親を支え、医務室へと彼を