不死身の大悪魔(1)
文字数 2,160文字
新田美菜隊員は、これまでの闘いから、彼とのキスの意味を概ね理解できている。
純一少年は、何か能力を必要とする時、あるいは、能力を使って疲れ切った時、必ずと言っていいほど彼女にキスを要求してくる。それを考えると、彼の特殊能力のエネルギー源は、美菜隊員とのキスであると云う結論に達せざる得ない。
実は、彼女にとって、そのことは決して不快なことではない。純一少年は、いつも一人で闘い、いつも一人で疲れ切っていた。これまで、それを助けることが出来ないことが、彼女にとって苦痛だったのだ。
しかし、彼とのキスが彼の力の源となるのであれば、彼を支えているのは自分だと云う自負が生まれる。そして、彼とのキスに疲労を感じることについても、彼と疲労を共有できていると云う特別な満足感が得られるのだ。そう考えると、大悪魔の生贄と云う立場も寧ろ誇りに思えてくる。
美菜隊員は、そんな弾んだ気持ちのままに、自分の部屋へと入って行った。そこには、今日、地上勤務となった純一少年が、一足先に休んで待っている筈だった。
ここ最近、彼は一人で地上勤務となることも多い。航空迎撃部隊のメンバーも、もう誰もそれを不思議とは思わないし、美菜隊員も彼を一人にしたとしても、何も問題は無いと考えている。
だから……、玄関だけでなく、部屋の灯りがリビングまで消えていたことに、彼女は酷く動揺した。
「純一、どうしたの?! 何処にいるの?」
美菜隊員がそう呼び掛けても、誰からの返事も無い……。
暫くし、闇に目の慣れてきた美菜隊員が、目を凝らして見てみると、純一少年はいなくなった訳ではなく、暗いリビングのソファの上で、前屈みに膝を抱えて、黙って何か考え込んでいる様子だった。
「心配しちゃったわ、あなたが脱走したんじゃないかって。どう、キスでもする?」
ほっとした美菜隊員は、そう言って彼の後ろにまわり、肩に手を掛けた。彼女としては、純一少年が自分の元に戻ってきたと云った感覚だったのだろう。
それだけに、彼がそう言って強くその手を払い除 けたのは、美菜隊員にとって少なからずショックだった。
「触るな!」
「どうしたの? 純一……」
彼は、自分を取り戻したかの様に振り返り、美菜隊員を見つめ、少し心を落ち着かせてから、いつもの口調に戻って謝罪した。
「あ、ごめんなさい……。ちょっと、イライラしていたものですから……」
「本当にどうしたの? また何かの作戦?」
「違います。自分がどうしていいのか分からなくなって、自分の感情が制御が出来なくなっていただけです」
「そういう状態の人は、普通自分のことをそうは分析できないものよ。あたしじゃ何の役にも立てないだろうけど、あたしで良かったら話してくれる? 君の悩みを、あたしは共有したいと思っているの」
「そうですね、この世界で本当の話をして良いのは、作戦参謀とあなただけですものね」
純一少年は、一言、そう断りを入れてから、彼の混乱状態の理由を話しだした。
「簡単に言うと……、恐ろしい敵が、この世界に襲って来るんですよ」
「恐ろしい敵? そんなの毎週の様に飛来してくるじゃない。でも、航空迎撃部隊と秘密のヒーロー、つまり君がいれば、全然問題ないんじゃない?」
「あんな宇宙人なんか、たいした脅威でもなんでもありませんよ。昔の西部劇に出てくる荒くれ者の開拓者か、地元の警察に追い出されて、仕方なく村を襲ったギャング団程度の代物ですからね。でも、今度の敵は違うんです。抑 、宇宙人ではありません」
「え?」
「今度の敵は異時空人です。それも、大悪魔と言われる種類の……。その大悪魔が、この地球に襲い掛かって来るのです……。大悪魔は侵略なんて甘い事は言いません。悪魔が行うのは、略奪、人間の捕食、保存用の食料としての人間の捕獲。それが済むと、後は楽しむ為に行う殺戮だけ……」
「確かに恐ろしいと言うか、悍 ましい敵ね。で、そいつらは、そんなに沢山 来るの?」
「大悪魔には協調性がありません。だから20人以上の集団は、まず作れません……」
「だったら、まだいいじゃない?」
「僕の正体について、話したことありますよね? 僕だって異時空人なんですよ。それも、そいつと同じ大悪魔だったのです……」
「君が大悪魔? 君が悍ましい敵?」
「ええ。妹と二人で、大悪魔のグループからは逃げ出しちゃいましたけどね……」
「つまり、君と同じ力の敵が現れるって訳か……。まさか君、同胞とは闘えないってこと? もしかして君は、そいつらのスパイ、あるいは、先行部隊の戦士だとか?」
「まさか……。僕はもう、奴らの様な闘いはしませんよ。怖いんです……。逃げ出したんです……。でも、今度の敵には逃げずに闘わなくてはならないでしょう……。信じて貰えるかどうかは分かりませんけど……」
「信じるしかないでしょう? 君も敵なら、私たちに勝ち目なんか無いもの……」
「ありがとう、美菜隊員……。で、彼なのですが……」
「彼? 大悪魔って、たった一人なの?」
「恐らくそうです。おばば様が、単数の不定冠詞で表現していましたからね。でも、安心は出来ません。地球全土が脅威なのです。恐らく、並みの大悪魔ではない筈です」
「訳、分からないわ……」
「すみません、少し長くなりますが良いですか? 順を追って説明しますので……」
純一少年は、何か能力を必要とする時、あるいは、能力を使って疲れ切った時、必ずと言っていいほど彼女にキスを要求してくる。それを考えると、彼の特殊能力のエネルギー源は、美菜隊員とのキスであると云う結論に達せざる得ない。
実は、彼女にとって、そのことは決して不快なことではない。純一少年は、いつも一人で闘い、いつも一人で疲れ切っていた。これまで、それを助けることが出来ないことが、彼女にとって苦痛だったのだ。
しかし、彼とのキスが彼の力の源となるのであれば、彼を支えているのは自分だと云う自負が生まれる。そして、彼とのキスに疲労を感じることについても、彼と疲労を共有できていると云う特別な満足感が得られるのだ。そう考えると、大悪魔の生贄と云う立場も寧ろ誇りに思えてくる。
美菜隊員は、そんな弾んだ気持ちのままに、自分の部屋へと入って行った。そこには、今日、地上勤務となった純一少年が、一足先に休んで待っている筈だった。
ここ最近、彼は一人で地上勤務となることも多い。航空迎撃部隊のメンバーも、もう誰もそれを不思議とは思わないし、美菜隊員も彼を一人にしたとしても、何も問題は無いと考えている。
だから……、玄関だけでなく、部屋の灯りがリビングまで消えていたことに、彼女は酷く動揺した。
「純一、どうしたの?! 何処にいるの?」
美菜隊員がそう呼び掛けても、誰からの返事も無い……。
暫くし、闇に目の慣れてきた美菜隊員が、目を凝らして見てみると、純一少年はいなくなった訳ではなく、暗いリビングのソファの上で、前屈みに膝を抱えて、黙って何か考え込んでいる様子だった。
「心配しちゃったわ、あなたが脱走したんじゃないかって。どう、キスでもする?」
ほっとした美菜隊員は、そう言って彼の後ろにまわり、肩に手を掛けた。彼女としては、純一少年が自分の元に戻ってきたと云った感覚だったのだろう。
それだけに、彼がそう言って強くその手を払い
「触るな!」
「どうしたの? 純一……」
彼は、自分を取り戻したかの様に振り返り、美菜隊員を見つめ、少し心を落ち着かせてから、いつもの口調に戻って謝罪した。
「あ、ごめんなさい……。ちょっと、イライラしていたものですから……」
「本当にどうしたの? また何かの作戦?」
「違います。自分がどうしていいのか分からなくなって、自分の感情が制御が出来なくなっていただけです」
「そういう状態の人は、普通自分のことをそうは分析できないものよ。あたしじゃ何の役にも立てないだろうけど、あたしで良かったら話してくれる? 君の悩みを、あたしは共有したいと思っているの」
「そうですね、この世界で本当の話をして良いのは、作戦参謀とあなただけですものね」
純一少年は、一言、そう断りを入れてから、彼の混乱状態の理由を話しだした。
「簡単に言うと……、恐ろしい敵が、この世界に襲って来るんですよ」
「恐ろしい敵? そんなの毎週の様に飛来してくるじゃない。でも、航空迎撃部隊と秘密のヒーロー、つまり君がいれば、全然問題ないんじゃない?」
「あんな宇宙人なんか、たいした脅威でもなんでもありませんよ。昔の西部劇に出てくる荒くれ者の開拓者か、地元の警察に追い出されて、仕方なく村を襲ったギャング団程度の代物ですからね。でも、今度の敵は違うんです。
「え?」
「今度の敵は異時空人です。それも、大悪魔と言われる種類の……。その大悪魔が、この地球に襲い掛かって来るのです……。大悪魔は侵略なんて甘い事は言いません。悪魔が行うのは、略奪、人間の捕食、保存用の食料としての人間の捕獲。それが済むと、後は楽しむ為に行う殺戮だけ……」
「確かに恐ろしいと言うか、
「大悪魔には協調性がありません。だから20人以上の集団は、まず作れません……」
「だったら、まだいいじゃない?」
「僕の正体について、話したことありますよね? 僕だって異時空人なんですよ。それも、そいつと同じ大悪魔だったのです……」
「君が大悪魔? 君が悍ましい敵?」
「ええ。妹と二人で、大悪魔のグループからは逃げ出しちゃいましたけどね……」
「つまり、君と同じ力の敵が現れるって訳か……。まさか君、同胞とは闘えないってこと? もしかして君は、そいつらのスパイ、あるいは、先行部隊の戦士だとか?」
「まさか……。僕はもう、奴らの様な闘いはしませんよ。怖いんです……。逃げ出したんです……。でも、今度の敵には逃げずに闘わなくてはならないでしょう……。信じて貰えるかどうかは分かりませんけど……」
「信じるしかないでしょう? 君も敵なら、私たちに勝ち目なんか無いもの……」
「ありがとう、美菜隊員……。で、彼なのですが……」
「彼? 大悪魔って、たった一人なの?」
「恐らくそうです。おばば様が、単数の不定冠詞で表現していましたからね。でも、安心は出来ません。地球全土が脅威なのです。恐らく、並みの大悪魔ではない筈です」
「訳、分からないわ……」
「すみません、少し長くなりますが良いですか? 順を追って説明しますので……」