不死身の大悪魔(11)
文字数 1,810文字
全員が無言だった……。
サッカーグラウンドのセンターサークル付近で、皆が立ち竦 んでいた……。
そこには、この国の首相の遺体と、一人の少年の遺体が横たわっていた……。
1分も経ってはいなかっただろう。蒲田隊長は、そのサークルから、少しメインスタンド側へと呆然と歩いて行き、自分の銃を蟀谷 に当てがった。だが、その銃は発砲されることなく、片手しか動かせない沼部隊員によって毟 り取られている。
「何しているのですか? そんなことして彼が喜ぶと思っているのですか? 彼は闘いが嫌いだった……。仲間が死ぬのが嫌だと言っていた……。もう闘いは終わったんです。これ以上は、無駄死にですよ!」
沼部隊員が蒲田隊長に対し、声を嗄 らし、必死に説得する。その沼部隊員に、後ろから新田参謀が声を掛けた。
「沼部君、しかし指揮官には、責任と言うものがあるのだよ……」
そう言って、自分も死のうとした新田参謀の腕を、美菜隊員が抱きかかえ、銃を彼に向けさせないようにする。
「お父さんは、そんなことしないで! そんなことしたら、純一が二人に嘘を吐いて、二人を殺したことになっちゃう……。純一を人殺しにしないで!」
美菜隊員が叫ぶ『純一』と云う名前を聞いて、新田作戦参謀も腕の力を失った。
その時、皆の視界の外で、何かを見つけた鵜の木隊員の叫び声が、国立競技場の無人の観客席に木霊する。
「そのまま動くな! お前は誰だ?」
他の全員が、その声に振り返ると、そこには、やっとのことで立ち上がったのだろう、純一少年が、少し前屈みに、フラフラと向うへと歩き出そうとしている姿があった。
「答えないと撃つぞ……。君は……、本物の純一なのか?」
その立ち上がった少年は、後ろを向いたまま、苦しそうに小さな声を出して、答えにならない答えを返した。
「多分そうだと思います……。だけど、今は証明することは出来ません。僕自身、僕が僕なのか、ちょっと自信が無いですしね……。
奴に殺され、憑依されて、記憶が混在してしまったので、どっちが本物か分からなくなってしまったのです……。
取り敢えず、留置場でも独房でも良いですから、今晩はもう休ませてくれませんか?
正直、疲れました……。勿論、この腕輪は嵌めたままで結構ですから……。
あと、動くなとのことですけど、パンツとシャツは穿いてもいいでしょう? 僕、ずっとみんなの前で素っ裸のまんまなんですよ。流石に恥ずかしいですからね……」
鵜の木隊員は銃を下に下げた。そして、「ふっ」と息を吹いたように、思わず笑いが溢 れてしまう。
「純一! 生きていたのね。純一!!」
美菜隊員が涙声で叫んだ。そして、思いっきり彼の背中にタックルをすると、余力の無い純一少年は、そのまま、うつ伏せに組み敷かれてしまう。
「美菜隊員、勘弁してくださいよ。本当にきついんですって……」
「馬鹿! 馬鹿!!」
そんな二人の所に、彼らの父、新田武蔵参謀が近づいて命令を下す。
「新田純一。残念ながら原当麻基地には留置場も独房もない。とは云え、あの大悪魔である可能性ある君を、完全に自由にすると云う訳には行かない……。そこで、君が美菜隊員と使用していた部屋で、君を我々の監視下に置くことにする。そして新田美菜、君にはこの新田純一の今晩の監視を命ずる。くれぐれも目を離さないように!」
美菜隊員は、純一少年の背中の上に寝転 んだまま、笑顔で「はい」と敬礼した。
だが……。
しかし、それに対し、純一少年は納得しないのか、異議を唱える。
「作戦参謀、お願いがあります」
「何だね?」
「今晩の僕の監視なのですが……、作戦参謀も含めて、航空迎撃部隊全員にして頂けませんか? ひとりずつ、一時間交代で。最後に、少しだけ、みんなと話がしたいんです」
美菜隊員は、彼の「最後に」という言葉が気になったが、特に言葉を挟むのを止 めた。
結局、新田武蔵作戦参謀は彼の願いを受け入れ、「航空迎撃部隊のメンバーが交代で部屋に赴き、彼の監視を行うことにする」と指示を変更した。一方、ひとりでの監視の任を解かれた美菜隊員は、最初の監視を志願したのだったが、純一少年から、最後の監視をしてくれるように懇願され、最後には彼女もそれを承諾している。
そして、純一少年の監視の順番は、蒲田禄郎隊長、矢口ナナ隊員、新田武蔵作戦参謀、下丸子健二隊員、鵜の木和志隊員、沼部大吾隊員、最後に、新田美菜隊員と決まったのであった。
サッカーグラウンドのセンターサークル付近で、皆が立ち
そこには、この国の首相の遺体と、一人の少年の遺体が横たわっていた……。
1分も経ってはいなかっただろう。蒲田隊長は、そのサークルから、少しメインスタンド側へと呆然と歩いて行き、自分の銃を
「何しているのですか? そんなことして彼が喜ぶと思っているのですか? 彼は闘いが嫌いだった……。仲間が死ぬのが嫌だと言っていた……。もう闘いは終わったんです。これ以上は、無駄死にですよ!」
沼部隊員が蒲田隊長に対し、声を
「沼部君、しかし指揮官には、責任と言うものがあるのだよ……」
そう言って、自分も死のうとした新田参謀の腕を、美菜隊員が抱きかかえ、銃を彼に向けさせないようにする。
「お父さんは、そんなことしないで! そんなことしたら、純一が二人に嘘を吐いて、二人を殺したことになっちゃう……。純一を人殺しにしないで!」
美菜隊員が叫ぶ『純一』と云う名前を聞いて、新田作戦参謀も腕の力を失った。
その時、皆の視界の外で、何かを見つけた鵜の木隊員の叫び声が、国立競技場の無人の観客席に木霊する。
「そのまま動くな! お前は誰だ?」
他の全員が、その声に振り返ると、そこには、やっとのことで立ち上がったのだろう、純一少年が、少し前屈みに、フラフラと向うへと歩き出そうとしている姿があった。
「答えないと撃つぞ……。君は……、本物の純一なのか?」
その立ち上がった少年は、後ろを向いたまま、苦しそうに小さな声を出して、答えにならない答えを返した。
「多分そうだと思います……。だけど、今は証明することは出来ません。僕自身、僕が僕なのか、ちょっと自信が無いですしね……。
奴に殺され、憑依されて、記憶が混在してしまったので、どっちが本物か分からなくなってしまったのです……。
取り敢えず、留置場でも独房でも良いですから、今晩はもう休ませてくれませんか?
正直、疲れました……。勿論、この腕輪は嵌めたままで結構ですから……。
あと、動くなとのことですけど、パンツとシャツは穿いてもいいでしょう? 僕、ずっとみんなの前で素っ裸のまんまなんですよ。流石に恥ずかしいですからね……」
鵜の木隊員は銃を下に下げた。そして、「ふっ」と息を吹いたように、思わず笑いが
「純一! 生きていたのね。純一!!」
美菜隊員が涙声で叫んだ。そして、思いっきり彼の背中にタックルをすると、余力の無い純一少年は、そのまま、うつ伏せに組み敷かれてしまう。
「美菜隊員、勘弁してくださいよ。本当にきついんですって……」
「馬鹿! 馬鹿!!」
そんな二人の所に、彼らの父、新田武蔵参謀が近づいて命令を下す。
「新田純一。残念ながら原当麻基地には留置場も独房もない。とは云え、あの大悪魔である可能性ある君を、完全に自由にすると云う訳には行かない……。そこで、君が美菜隊員と使用していた部屋で、君を我々の監視下に置くことにする。そして新田美菜、君にはこの新田純一の今晩の監視を命ずる。くれぐれも目を離さないように!」
美菜隊員は、純一少年の背中の上に
だが……。
しかし、それに対し、純一少年は納得しないのか、異議を唱える。
「作戦参謀、お願いがあります」
「何だね?」
「今晩の僕の監視なのですが……、作戦参謀も含めて、航空迎撃部隊全員にして頂けませんか? ひとりずつ、一時間交代で。最後に、少しだけ、みんなと話がしたいんです」
美菜隊員は、彼の「最後に」という言葉が気になったが、特に言葉を挟むのを
結局、新田武蔵作戦参謀は彼の願いを受け入れ、「航空迎撃部隊のメンバーが交代で部屋に赴き、彼の監視を行うことにする」と指示を変更した。一方、ひとりでの監視の任を解かれた美菜隊員は、最初の監視を志願したのだったが、純一少年から、最後の監視をしてくれるように懇願され、最後には彼女もそれを承諾している。
そして、純一少年の監視の順番は、蒲田禄郎隊長、矢口ナナ隊員、新田武蔵作戦参謀、下丸子健二隊員、鵜の木和志隊員、沼部大吾隊員、最後に、新田美菜隊員と決まったのであった。