不死身の大悪魔(2)
文字数 2,004文字
純一少年は、左腕に嵌めてあった鼈甲の腕輪を外し、美菜隊員にそれを見せた。
「この腕輪は魔封環と呼ばれるもので、僕の悪魔能力を封じ弱体化させる為の物です。で、なんで僕がそんな物を態々着けているのかと言うと……。
そうですね……。前提として、悪魔能力の使用には、人間の生気と云うものが必要になります。美菜隊員にキスをお願いしているのは、実はこの生気を補給する為なのです」
美菜隊員も、それはもう知っているとばかりに、大きく頷く。
「僕の能力をフル稼働にしておくと、アイドリング状態だとしても、生気補給の為だけに、キスをずっとし続けなければなりません。ですから僕は、この腕輪を着け、通常はエコモードで生活しているのです……」
美菜隊員は、キスをし続ける場面を思わず想像してしまったのだが、恥ずかしくなり、その妄想を無理矢理に振り払う。
「そうは言っても、この時空には危険が一杯存在しています。そう言う訳で、僕はこの時空に来てからは、危険なことが起きないかを、毎日腕輪を外し確認していました……。
さっき、ガルラで美菜隊員たちがパトロールに出撃していた時も、僕はいつもの様に腕輪を外し、自分に降りかかる危険を『危険察知』と云う悪魔能力でサーチしたのです。
これで敵の伏兵、罠、侵略者の存在が近辺にあれば、不快感として僕に感じられ、危険の場所も分かる筈でした……。
しかし、不思議なことに、何故か、この地球全土が僕にとっての脅威として感じられたのです。
僕は動揺しました……。
そこで、僕は皆の帰還と同時に部屋に戻り、『十の思い出』の一人、予知の能力を持つ大悪魔、通称おばば様を呼び出して、彼女に『お伺い』を立てたのです……。美菜隊員は以前、彼女に会っていますよね? 便利な人と思うでしょう?」
美菜隊員は、要耀子誘拐事件の時のことを思い出した。確かに、未来を知る彼女の能力は、非常に有益なものであることは疑う余地もない。
「でも、なかなか彼女は、具体的な未来のさまを教えてくれないのです……。
彼女によると『未来を知って未来を変えても、前より良くなる保証はない。だから結局、未来を知ろうが知るまいが、最善と思われる行動を取るしかない。だったら未来など、最初から知る必要など無いのじゃ……』と言うことらしいのです。
でも今回、彼女は僕にこう言いました。
『そうじゃな、今回は特別じゃ。お前に儂の見たままの未来を教えてやろう。この脅威の主は大悪魔じゃ。こいつは儂も見たことがない。お前は、この世界の大切な仲間を、お前の手で全員殺し、ただ一人、この世界から逃げ出してしまう。そうして、お前はまたも放浪の旅を始めることになるのじゃ。そして結局、この地球は、その大悪魔に蹂躙され、略 星単位で全滅してしまう……。どうじゃ? 満足したかな?』
僕はショックでした。
この世界が滅ぶ……? 僕が仲間、それは恐らく美菜隊員たちのことです……。それを全員殺す……? そして僕は、一人情けなくも逃げ出してしまう……?
『そんな、そんな未来、僕は絶対嫌だ!』
僕は思わず叫んでいました。すると、彼女は静かにこう言ったのです。
『だったら変えるんじゃな、未来を。未来を変えて見せい、大悪魔ボ◇◆〇 。いや、新田純一!』
彼女はそう言うと、十分を待たずさっさと消えてしまいました。それで僕は悩んでいた訳です、半ば途方に暮れながら……」
「でも、相手が1人なら1対1。なら、勝てないこともないんじゃない?」
美菜隊員は、彼を励まそうとしてそう言った。そこには「あたしたちもいるんだよ」と云う気持ちが秘かに込められている。だが、純一少年は、それに気付いているのかいないのか? スルーして話を続けた……。
「敵が1人と云うのが恐ろしいのです……。
僕だって、決して大悪魔としては弱い方ではないと思っています。と云うか、現在の能力は、最強ランクの大悪魔と殆ど変わらないと思っていました。それが、これほどの脅威を感じるのです。
もし、これが10もの大悪魔の集合の脅威であるならば、1体ずつ個別に撃破することで勝てないこともありません。ですが、相手が1人では個別撃破は出来ません。そして、この1人の脅威は、僕が逃げなければならない程の大きさなのです」
「分かったわ。君が言いたいこと。で、作戦を立てるんでしょう? あたし、何処かに行ってようか? 君の気が散らないように」
「いいえ、もう寝ます。明日、僕はみんなに今の話をします。まだ相手も分かっていなのに、悩んでいても仕方ないですからね……。あと……、美菜隊員、すみませんが、キスさせてください。今日はだいぶ生気を消費してしまったので……」
「いいわ。あたしに出来ることはキスだけ。おやすい御用よ」
美菜隊員は立ったまま、ソファに座っている純一少年を振り向かせ、顔に掛かる自分の髪を押さえながら、後ろから彼の唇に唇を重ねた……。
「この腕輪は魔封環と呼ばれるもので、僕の悪魔能力を封じ弱体化させる為の物です。で、なんで僕がそんな物を態々着けているのかと言うと……。
そうですね……。前提として、悪魔能力の使用には、人間の生気と云うものが必要になります。美菜隊員にキスをお願いしているのは、実はこの生気を補給する為なのです」
美菜隊員も、それはもう知っているとばかりに、大きく頷く。
「僕の能力をフル稼働にしておくと、アイドリング状態だとしても、生気補給の為だけに、キスをずっとし続けなければなりません。ですから僕は、この腕輪を着け、通常はエコモードで生活しているのです……」
美菜隊員は、キスをし続ける場面を思わず想像してしまったのだが、恥ずかしくなり、その妄想を無理矢理に振り払う。
「そうは言っても、この時空には危険が一杯存在しています。そう言う訳で、僕はこの時空に来てからは、危険なことが起きないかを、毎日腕輪を外し確認していました……。
さっき、ガルラで美菜隊員たちがパトロールに出撃していた時も、僕はいつもの様に腕輪を外し、自分に降りかかる危険を『危険察知』と云う悪魔能力でサーチしたのです。
これで敵の伏兵、罠、侵略者の存在が近辺にあれば、不快感として僕に感じられ、危険の場所も分かる筈でした……。
しかし、不思議なことに、何故か、この地球全土が僕にとっての脅威として感じられたのです。
僕は動揺しました……。
そこで、僕は皆の帰還と同時に部屋に戻り、『十の思い出』の一人、予知の能力を持つ大悪魔、通称おばば様を呼び出して、彼女に『お伺い』を立てたのです……。美菜隊員は以前、彼女に会っていますよね? 便利な人と思うでしょう?」
美菜隊員は、要耀子誘拐事件の時のことを思い出した。確かに、未来を知る彼女の能力は、非常に有益なものであることは疑う余地もない。
「でも、なかなか彼女は、具体的な未来のさまを教えてくれないのです……。
彼女によると『未来を知って未来を変えても、前より良くなる保証はない。だから結局、未来を知ろうが知るまいが、最善と思われる行動を取るしかない。だったら未来など、最初から知る必要など無いのじゃ……』と言うことらしいのです。
でも今回、彼女は僕にこう言いました。
『そうじゃな、今回は特別じゃ。お前に儂の見たままの未来を教えてやろう。この脅威の主は大悪魔じゃ。こいつは儂も見たことがない。お前は、この世界の大切な仲間を、お前の手で全員殺し、ただ一人、この世界から逃げ出してしまう。そうして、お前はまたも放浪の旅を始めることになるのじゃ。そして結局、この地球は、その大悪魔に蹂躙され、
僕はショックでした。
この世界が滅ぶ……? 僕が仲間、それは恐らく美菜隊員たちのことです……。それを全員殺す……? そして僕は、一人情けなくも逃げ出してしまう……?
『そんな、そんな未来、僕は絶対嫌だ!』
僕は思わず叫んでいました。すると、彼女は静かにこう言ったのです。
『だったら変えるんじゃな、未来を。未来を変えて見せい、大悪魔ボ◇◆〇 。いや、新田純一!』
彼女はそう言うと、十分を待たずさっさと消えてしまいました。それで僕は悩んでいた訳です、半ば途方に暮れながら……」
「でも、相手が1人なら1対1。なら、勝てないこともないんじゃない?」
美菜隊員は、彼を励まそうとしてそう言った。そこには「あたしたちもいるんだよ」と云う気持ちが秘かに込められている。だが、純一少年は、それに気付いているのかいないのか? スルーして話を続けた……。
「敵が1人と云うのが恐ろしいのです……。
僕だって、決して大悪魔としては弱い方ではないと思っています。と云うか、現在の能力は、最強ランクの大悪魔と殆ど変わらないと思っていました。それが、これほどの脅威を感じるのです。
もし、これが10もの大悪魔の集合の脅威であるならば、1体ずつ個別に撃破することで勝てないこともありません。ですが、相手が1人では個別撃破は出来ません。そして、この1人の脅威は、僕が逃げなければならない程の大きさなのです」
「分かったわ。君が言いたいこと。で、作戦を立てるんでしょう? あたし、何処かに行ってようか? 君の気が散らないように」
「いいえ、もう寝ます。明日、僕はみんなに今の話をします。まだ相手も分かっていなのに、悩んでいても仕方ないですからね……。あと……、美菜隊員、すみませんが、キスさせてください。今日はだいぶ生気を消費してしまったので……」
「いいわ。あたしに出来ることはキスだけ。おやすい御用よ」
美菜隊員は立ったまま、ソファに座っている純一少年を振り向かせ、顔に掛かる自分の髪を押さえながら、後ろから彼の唇に唇を重ねた……。