第23話 第五章「白いワンピースなお姫さま」(6)

文字数 814文字

 Eは思うことがある。
 自分たちNoSは、どこまで落ちぶれるのだろう、と。
 本来は王にのみ仕え、盾となり、剣となる、それが自分達の使命だった。
 それが今では王族や貴族のパワーゲームを模倣して、まともに機能している者など半分もいないだろう。
 そんな自分もまた、あの『お姫さま』の、『高貴なる餌』の番人役、情けなさで涙も出ない。
 自分が唯一敬意を表したあの男、Gが見限るわけだ。
 しかし、あの『お姫さま』もよくもこんな世界で発狂せずに生きていけるものだ。
 そこだけは、素直に感心する。
 だが、同情はしない。
 それは最大の侮辱、なにより、いざと言うときは『見捨てる』ことを許可されている存在になにを思えというのか。Sはそれがわかっていない。
 半端な同情も、哀れみも、それは皮を被った侮蔑だ。
 自分ができることはただ一つ、ただひたすらに「道化」を演じるソアラを、感情を廃して監視することだけだ。
 そう、監視だ。警護でも、護衛でもない。
 自分はただ、見るだけ。
 ただ、獲物が餌にかかるのを待つだけの存在。
 情けなさに涙も出ない。
 例の、「ゲンジョウ」とか言った少年と、『お姫さま』がふたたび歩き出す。
 自分はそれを遠目から監視するだけ。
 Eもまた移動しようとした。
「――――――!!?」
 骨髄に直接針を刺されたような感覚に襲われた。
 虫唾が走る、どころの騒ぎではない。
 体が動かなくなる。
 殺気、殺意―――違う、そんなひとがましいものではない。
 しかもこれは、指向性ももたず、ただ垂れ流されたもの。
 ほんの一瞬だけ、漏れ出したようなものだ。
「これは・・・ヤバいかもしれん」
 自分に向けられたものではない、おそらくソアラたちにでも。
 ただなにかが、誰かを殺した、それだけだ。
 それだけで、ここまで邪悪なものが撒き散らされた。
 餌に釣られて、とんでもないバケモノが現れてしまった。
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