第36話 第八章「一人ぼっちのお姫さま」(5)

文字数 769文字

「いいか、お前には二つの力をくれてやった」
 じーさんはある日そう言った。
「一つ目の力は、まぁ常識の範囲内の力だな。少なくとも、よほど訓練されたヤツじゃなきゃあ、そこらのゴロツキ程度じゃ束になっても負けることはねぇさ」
 じーさんとオレは呼んでいたが、そんな大した歳ではなかった。
 少なくともオレの父親よりは若いだろう。
 なのになんでそう呼んでいたかと言うと、本人が「じーさんと呼べ」と言ったからだ。
 だが、「おっさん」と言うと怒った。
 わけのわからない話だった。微妙な年頃なのだろうか。
「で、もう一つの力なんだが・・・」
 じーさんはいつも、ふざけたニヤけ面をしている。
 「潰す気?」と聞きたくなるような巨大な岩をオレの上に載せたときも、「さぁ、あの熊を仕留めて今日の晩御飯にしよう!」と言ったときも笑っていた。
 たいした悪行超人ぶりだ。
 だが、このときじーさんはオレが初めて見るマジな顔をしていた。
「この力は絶対に使うな、もし使えば・・・俺がお前を殺す、いいな」
 おどしでも、ハッタリでもなかった。
「一体、なんなんだよ、これって?」
 オレは聞いた。
 じーさんは少しだけ目をつぶって、言葉を選ぶように、ゆっくり口を開いた。
「そうだなぁ・・・自分を、人間を食い散らかすバケモノだとカンチガイしちまったヤツを、叩きのめせる力かな」
 その時は、オレはその言葉の意味がよくわからなかった。
「だが、これだけは胸に刻め、お前がその力を使っていいのは、『お前がその力を欲した理由』、そのためだけに使え、いいな?」
 言われるまでもない、と思った。
 オレが望んだのは、それだけなんだから。
 別れ際に、じーさんは言った。
 まるで独り言のようにも聞こえた。
「頼むぜ」
 まるで、許しを請うようなつぶやきだった。

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