第12話 第三章「お姫さまの告白」(4)
文字数 1,457文字
天目坂高校は一般教室のある教室棟、化学実験室などがある理科棟、図書室や美術実習室がある専門棟に分かれている。
それとは別に、校舎の裏側に技術棟がある。
旋盤などの騒音がほかの授業の妨げにならないように、防音壁と防音ガラスで造られている。
その技術棟の二階に、「模型倶楽部」の部室はある。
模型倶楽部とは、一言で言えば模型部である。
しかしこの倶楽部からは、在学中に大手玩具メーカーからスカウトされた者もおり、体育会系が甲子園にも花園にも国立競技場にも行けない天目坂高校においては、隠れた全国レベルなのだ。
時間はすでに放課後、有坂光也は新作の製作作業にいそしんでいた。
今日は、部員は彼一人しかいなかった。
もともと月一の発表会をのぞけば全員集まるほうが少ない。
この部室も共同作業と言うよりも、共同で使っているアトリエと言ったほうが近い。
「んー・・・違うな」
光也が今作っているのは、二十年ほど昔に放送していたアニメの中に出てくるバイクだった。
流行りの作品ではないが、デザインが気に入り、立体化しようと思ったのだ。
「ふーむ・・・」
全体的なバランスが悪い。
二次元を三次元にするという行為は、シロウトが思っている以上にむずかしい。
次元の隙間を埋めるには、製作者のセンスが問われる。
その労苦は、教科書に載っている芸術家が通ったものにも、決して引けをとらないだろう。
「今日はここらへんにしておくか」
こればっかりは時間をかければいいというわけでもない。
立ち上がり、後片付けを始める。
「あ、そうだ」
思い出したように後ろを振り向く。
この部室に、部員は光也しかいない。ただし、部員じゃないものはいた。
「元譲、そろそろ僕帰るよ、鍵閉めるから」
「・・・・・光也、夕日はなんで赤いんだろうな」
窓枠に腰掛け、焦点のあっていない目でしみじみとつぶやく元譲。
「そっち東だよ」
あの後、元譲は教室に戻らなかった。
すでに昼休みの一件は学校中が知ることになり、すでに教師にまで伝わっていた。
五時間目が始まったときも、現れた教師はなにも言わなかった。
ただソアラだけが、うれしそうな顔で授業を受けていた。
「・・・・・・光也、苦しまずに死ねる方法ってなにかないかな?」
「雷に当たるのとかベストだよね、でも来週は晴れが続くみたいだよ」
光也が部室に来たとき、元譲はまるで家を追い出された子供のように、入り口の前で三角ずわりをしていた。
光也も二人の対決の現場にいたギャラリーの一人だった。
おそらく元譲は走り去った後、このまま学校を出れば、それこそ完全に「逃げた」ことになると考えた。だが、教室に戻りたくない。
隣にはソアラがいるのだから。
で、ほとんど人が寄り付かない技術棟に隠れていた。
模型倶楽部の部室には、光也に誘われて、来たこともある。
高校に入ってからの付き合いとはいえ、数少ない友人だけはある、光也はそこまでをわずかな間に理解し、何も言わず部室の片隅を貸した。
「とりあえず、校内にほとんど人は残っていないし、出よう? ジュースでもおごるよ」
落ち込んでいる人には下手に声をかけるよりも、しばらくそっとしておくのが正解だったりする。
自分の中でも整理がついていないのに、他人が知ったような口であれこれ言っても耳に入らないし、頭にも響かない。
そういったことを意識せずにできるのが、有坂光也と言う男が人に好かれる所以でもあった。
それとは別に、校舎の裏側に技術棟がある。
旋盤などの騒音がほかの授業の妨げにならないように、防音壁と防音ガラスで造られている。
その技術棟の二階に、「模型倶楽部」の部室はある。
模型倶楽部とは、一言で言えば模型部である。
しかしこの倶楽部からは、在学中に大手玩具メーカーからスカウトされた者もおり、体育会系が甲子園にも花園にも国立競技場にも行けない天目坂高校においては、隠れた全国レベルなのだ。
時間はすでに放課後、有坂光也は新作の製作作業にいそしんでいた。
今日は、部員は彼一人しかいなかった。
もともと月一の発表会をのぞけば全員集まるほうが少ない。
この部室も共同作業と言うよりも、共同で使っているアトリエと言ったほうが近い。
「んー・・・違うな」
光也が今作っているのは、二十年ほど昔に放送していたアニメの中に出てくるバイクだった。
流行りの作品ではないが、デザインが気に入り、立体化しようと思ったのだ。
「ふーむ・・・」
全体的なバランスが悪い。
二次元を三次元にするという行為は、シロウトが思っている以上にむずかしい。
次元の隙間を埋めるには、製作者のセンスが問われる。
その労苦は、教科書に載っている芸術家が通ったものにも、決して引けをとらないだろう。
「今日はここらへんにしておくか」
こればっかりは時間をかければいいというわけでもない。
立ち上がり、後片付けを始める。
「あ、そうだ」
思い出したように後ろを振り向く。
この部室に、部員は光也しかいない。ただし、部員じゃないものはいた。
「元譲、そろそろ僕帰るよ、鍵閉めるから」
「・・・・・光也、夕日はなんで赤いんだろうな」
窓枠に腰掛け、焦点のあっていない目でしみじみとつぶやく元譲。
「そっち東だよ」
あの後、元譲は教室に戻らなかった。
すでに昼休みの一件は学校中が知ることになり、すでに教師にまで伝わっていた。
五時間目が始まったときも、現れた教師はなにも言わなかった。
ただソアラだけが、うれしそうな顔で授業を受けていた。
「・・・・・・光也、苦しまずに死ねる方法ってなにかないかな?」
「雷に当たるのとかベストだよね、でも来週は晴れが続くみたいだよ」
光也が部室に来たとき、元譲はまるで家を追い出された子供のように、入り口の前で三角ずわりをしていた。
光也も二人の対決の現場にいたギャラリーの一人だった。
おそらく元譲は走り去った後、このまま学校を出れば、それこそ完全に「逃げた」ことになると考えた。だが、教室に戻りたくない。
隣にはソアラがいるのだから。
で、ほとんど人が寄り付かない技術棟に隠れていた。
模型倶楽部の部室には、光也に誘われて、来たこともある。
高校に入ってからの付き合いとはいえ、数少ない友人だけはある、光也はそこまでをわずかな間に理解し、何も言わず部室の片隅を貸した。
「とりあえず、校内にほとんど人は残っていないし、出よう? ジュースでもおごるよ」
落ち込んでいる人には下手に声をかけるよりも、しばらくそっとしておくのが正解だったりする。
自分の中でも整理がついていないのに、他人が知ったような口であれこれ言っても耳に入らないし、頭にも響かない。
そういったことを意識せずにできるのが、有坂光也と言う男が人に好かれる所以でもあった。