第34話  第八章「一人ぼっちのお姫さま」(4)

文字数 1,180文字

 階段の上から見下ろしながら、ファランクスはしばし思考する。
 ぽん
 わかった、と言うように手を叩く。
「なるほど、姫君、彼が貴方の『恋人』と言うことですか?」
 ソアラが性別不明の状態で振舞うための小道具。
 女の振りをしているのかどうか、見分けをつきにくくさせるためのギミックとして選ばれた、「何も知らない少年」。
「待てぇえええええっ!?」
 元譲が、それだけは聞き逃せないとばかりに叫んだ。
「オレはコイツとそーゆーんじゃねー!! 勘違いすんなぁっ!!」
 どこのどなたでなんなのかは知らないが、それだけはハッキリさせておきたかった。
「た、確かにその・・・なんかいろいろあったし、今日とか、一見するとデートに見えなくもないようなことをしたように見えたのかもしれんが、オレは違うそ、そこまでしてねー、ってか、なんもしてねー!!」
 必死になって自分でもわけのわからないままにまくしたてる。
「はい?」
 日本語は堪能と言ってもいいくらいにマスターしているファランクスだったが、元譲がなにを言いたいのか理解できず、首をかしげる。
「げんじょ・・・ゴメン、ちょっとダマってて」
 ソアラは、さっきとは違う方向性で体の力が抜けていたのがわかった。
 いや、元譲が状況を理解できないのは分かる。
 いきなり現れて、神でない人の身なれば、なおかつバカの元譲では、そいつは無茶な相談だろうが、それでも少し頭が痛くなった。
「なんだよ、オレだけバカ? みたいなその空気は!?」
「いや、もホント、ちょっとダマって、マジで」
 自分が原因なのは分かっているが、それを棚に上げて言う。
「あはははは、姫君? なかなか変わった人選をなさいましたね?」
「・・・うるさい、黙れ」
 ホントに、言わないで欲しかった。
「なかなかおもしろい少年ですね? ま、どうでもいいんで、死んでいいですよ?」
 指先を、わずかに動かした。
 同時に、床から、階段から、無数の錐が伸びて襲い掛かる。
「どうぇえええっ!?」
 跳ね飛ぶように避けながら、ソアラを持ち上げた。
「なにすんだよ!? 離せ、げんじょ!」
「うるせぇ、だーってろ!」
 そのまま廊下を全速力で駆け抜ける。
「おやおや・・・」
 驚いた。
 常人ならば、いきなりNoSの、自分の攻撃を食らえば、かわすことも避けることもできないまま、それどころか自分がなにをされたかわからないままに死んでいくものだ。
 それを二度もかわされた。ファランクスは、少しばかり驚いていた。
 それだけではない。
 あの少年の身のこなし、どこかで見たような気がした。
「・・・・・・ま、いいですか」
 深く考えないことにした。
 何百人も殺していれば、一人二人くらいは変わった動きをする者がいてもおかしくはない。
 そう思うことにした。
 

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