第31話  第八章「一人ぼっちのお姫さま」(1)

文字数 1,014文字

 NoSたちは考えた。
 自分たちは王を守るために存在する。
 この異能の力、「人間を効率よく破壊できる力」を以ってすれば、あらゆる外敵から王を守護する自信がある。
 だが、王になる前に、次から次へと死なれては守りようもない。
 王がいてこその守護者、守護者のためにも、「王」はいてもらわなければならない
 ならば、自分たちで作ろうと考えた。
 王となるものを絶対安全な場所で、秘密裏に、即位のその時まで生かし続ける。
 そのために必要なものがあった。
 王となるものの代わりに、敵対者の目をひきつける者が。
 ただの影武者ではない。
 王の敵を集め、集まったはしから、後の災いにならぬよう殺す。
 そうして、「王」が造られる前に、「王の敵」を一人でも減らすための毒入りの「餌」が産まれた。
 それは『高貴なる餌』と呼ばれた。
 

「貴方の存在は全てがあいまいだ。男でも女でもない。必要な存在であり、障害物でもある・・・すべての人間が貴方を邪魔者にするが、同時に貴方に引き寄せられる・・・」
 日本で「少年」として育てられ、そして、本国に移送されるや「女装」という形で振舞う。
 なぜそんなことをするのか?
 ただの白痴か、それとも保身に走ったがゆえの愚行か。
 だがもしも、「女」だったとしたら?
 なぜ女でありながら「男」かもしれないと匂わせる?
 そうすることで、「真実を嘘とすること」で、彼女の存在は果てしなく不確定に成っていく。
 玉座に群がる者達を、引き寄せてやまないほどに。
 そしてその後ろで、誰にも見えない所で、「真なる王」は、血を分けた姉が、敵対者と己の血で染めた赤絨毯を歩く日を待ち続ける。
「お前の・・・妄想だ」
 血を吐くように言葉を出すが、声が震えている。
 「道化」の仮面が外れかけていた。
「正直、驚嘆に値します。貴方は生まれたときから、まだ生まれてもいない弟の身代わりを義務付けられた存在。いや、今だって、そんな者がいるのかどうかも知らない・・・ただ、与えられた役割をこなし、踊り続ける、最も高貴なるニセモノ」
 生まれ持った性を自覚することもできず。
 思考も、疑問も許されず。
 心をもつことも許されず。
 誰かに自分を明かすことも許されず。
 信じないのではなく、信じることを奪われた、「道化」。
「だからこそ・・・ワタシは貴方を愛しています」
 ファランクスが恍惚に満ちた顔で言う。
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