第5話第二章「お姫様は美少年」(2)

文字数 969文字

 二時間目、体育の時間。
 今日の授業はサッカーだった。
「ぶっ!」
 現れた彼女(?)の姿を見て、元譲は吹き出す。
「何だその格好はー!!」
「なんだよ? 体育のときは体操服に着替える、常識だろ? それとも、ボクがこの国を離れている間に変わったの?」
 もちろんそんなわけはない。
 示現流の稽古じゃあるまいに、「常在戦場」の名の下に、普段着で行うような学校などない。
 もしかして全国津々浦々くまなく探したならば、そんな学校も一校くらい、運がよければ二校くらい見つかるかもしれないが、少なくとも天目坂は公立校、指定要綱をそこまで逸脱はしない。
「なんでブルマなんて穿いてるんだ!?」
 ソアラの胸はあたりまえだが小さい、平坦と言ってもいい。
 おそらくサイズはAAだろう、だがヒップラインはキュッと締まった、それでいて柔らかな曲線を描いていた。
 さらにそこから伸びるつややかなフトモモのまぶしさは、夏の日の夜、ネオンサインに群れ集う雲霞のごとく男子生徒たちの目をひきよせている。
「なんだよ〜、ボクがいない間にブルマ廃止になったの?」
「そもそもオレらの年代はブルマ使ってねー!」
 天目坂高校はもとより、二人の通っていた小学校も、女子はブルマではなく男子と同じく短パンだった。
 すでに全国の小・中・高からブルマが消えて久しく。
 一説には、学校用でブルマを作っているメーカーはすでにないと言われている。
 現在、ブルマの使用用途は、コスプレ用、すなわち、アレな性癖を持つ方々のために臍細と作られているだけだという。
「・・・げんじょはスパッツ派だったかい? ま、いーじゃん」
「よくねー!!」
 元譲は思った。
 よくもまぁ、時代が時代だったとはいえ、こんなモン思春期の女子に穿かせることがまかり通ったものだ。
「げんじょ? なんのかんの言って気に入ったの?」
 思わずまじまじと見てしまった。
「コロスぞ、手前ェ・・・」
 怒りと恥ずかしさで顔が赤くなる。
 割合としては、七・三くらいだろうが、どっちがどっちだかは自分でもよくわからなかった。
 どうでもいいことだが、体育教師水口宏一(42)が、まるでもう二度と出会えないとあきらめかけていた恋人と再会したような顔で、嬉し涙を流していた。
 ホントにどーでもいい話だった。
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