第20話 第五章「白いワンピースなお姫さま」(3)
文字数 1,834文字
「て、近所の緑地公園かよ」
ソアラが連れてきたのは、市内にある公園。
池や川もあり、野鳥の保護区域もかねているため、広い敷地内には林や、遊具に運動場もあって、家族連れなども訪れる、いわゆる「市民の憩いの場」である。
「いいじゃん、ボクこーゆー所好きなんだよ」
水辺に沿って作られた遊歩道を巡り、内園の入り口に向かう。
園内は「外園」と「内園」に分けられている、内園の入場料は三百円。
「「公」園なのに金とんのな」
「管理費とか防犯上の理由とか、いろいろあるんだよ。それに生徒手帳見せれば学生は無料だよ?」
「おまえ・・・一応王族なんだろ? 変に庶民くさいな」
一般的な日本人の観点では、「王族」と聞くとルイなんちゃら世だとか、イギリス王室などがイメージされる。絢爛豪華な印象があるが、ヘンなところで所帯くさいと、本当なのかと疑ってしまう。
「ボクに回ってくるお金はそんなに多くないんだよ? どこも世知辛いよねぇ」
ソアラがわずかに自虐的な笑みを浮かべる。
いろいろと頭に浮かんだが、うまく言葉にできず、そのまま入園した。
「ここ、ここに来たかったんだ」
内園に入りさらに歩き、ソアラが指さしたのは「自然科学博物館」だった。
「・・・ここって」
元譲はここに来たことがあった。
小学校の時、校外学習で訪れた。
ただし、ソアラは来ていない。その前に彼女(?)は転校、と言うより帰国してしまったのだ。
「早く、早く!」
手を引っ張る。
普段も落ち着きはないが、今日はいつにましてテンションが高い。
『はしゃいでんのか?』
受付でやはり生徒手帳を見せる。無料ではないが、入館料が半額になった。
週末ということもあり、それなりに人は入っていたが、それでも数えようと思えば数えられるくらいの客量だった。
「げんじょ、見て見て、カブトムシだぞ、ヘラクレスだ、コーカサスもいるぞ、しかしどいつもこいつも悪そうな顔しているなぁ〜」
そんな中を、ソアラは遊園地に初めて来た子供のようにはしゃいでいた。
「こっちは化石コーナーかぁ、この街で発掘された化石とかあるんだって! こーゆーのも産地直送っていうのかなぁ?」
「知らねーよ」と毒づく気も失せるほど楽しそうだった。
ついうっかり、眉間のシワが緩んで、笑みをこぼしてしまった。
二階に上がる、昔はこのあたりまで海だったらしく、「海の生き物」の展示物があった。
「ナガスクジラの全身骨格があるんだって、楽しみだねぇ」
受付でもらったしおりを見ながら、無邪気に笑っている。
「順路」と書かれた矢印にそって進む。
「右・・・左・・・右で・・・アレ? ないな?」
展示ホールについたはいいが、どこにもクジラの骨格などなかった。
順路案内もなくなっている。
あるのはあごの一部や、小型のサメの標本などだった。
「間違いかなぁ、どこだろう?」
「ぷ・・・」
思い出した。自分がここに来たときも、今のソアラのように戸惑ってしまったのだ。
「なんだよ、げんじょ? なにがおかしいの?」
思わず噴出してしまった口元を押さえながら、空いた手で上を示す。
「・・・上?」
示した指の先、そこにはちょっとした体育館と同じくらいの大きさの展示フロアの天井いっぱいに、巨大なクジラの全身骨格が吊り下げられていた。
「うわぁああ!」
「あんまりおっきすぎるんで、こーゆー見せ方してるんだ。これでも子供の骨らしいぜ?」
「デカイねぇ・・・」
十七・八メートルはあろう。
単純に十倍と言えば大したことのないように聞こえるだろうが、目の当たりにした体感から来る衝撃は、海の生き物たちのスケールの大きさを感じるのに十分だった。
「これで大人になったらどれくらいなんだろ?」
「五十メートルくらいらしいな?」
こんなものを間近で見てしまえば、そりゃあ海の男たちも神様か悪魔だと思いもするだろう。
「たしかにこれならゼペット爺さんも飲み込まれるねぇ」
「あ、オレもそれ思った」
アラビアンナイトだったかなにかで、島だと思って上陸したらクジラの背中だった、という話がある。
なにも知らなければ「気づけよ」だとか突っ込んでしまうのだろうが、これだったら間違えてしまってもしょうがないかもしれない。
そんなことを思いながら、元譲も笑っていた。
傍から見ると、本当にただのカップルにしか見えないくらいに、幸せそうに。
ソアラが連れてきたのは、市内にある公園。
池や川もあり、野鳥の保護区域もかねているため、広い敷地内には林や、遊具に運動場もあって、家族連れなども訪れる、いわゆる「市民の憩いの場」である。
「いいじゃん、ボクこーゆー所好きなんだよ」
水辺に沿って作られた遊歩道を巡り、内園の入り口に向かう。
園内は「外園」と「内園」に分けられている、内園の入場料は三百円。
「「公」園なのに金とんのな」
「管理費とか防犯上の理由とか、いろいろあるんだよ。それに生徒手帳見せれば学生は無料だよ?」
「おまえ・・・一応王族なんだろ? 変に庶民くさいな」
一般的な日本人の観点では、「王族」と聞くとルイなんちゃら世だとか、イギリス王室などがイメージされる。絢爛豪華な印象があるが、ヘンなところで所帯くさいと、本当なのかと疑ってしまう。
「ボクに回ってくるお金はそんなに多くないんだよ? どこも世知辛いよねぇ」
ソアラがわずかに自虐的な笑みを浮かべる。
いろいろと頭に浮かんだが、うまく言葉にできず、そのまま入園した。
「ここ、ここに来たかったんだ」
内園に入りさらに歩き、ソアラが指さしたのは「自然科学博物館」だった。
「・・・ここって」
元譲はここに来たことがあった。
小学校の時、校外学習で訪れた。
ただし、ソアラは来ていない。その前に彼女(?)は転校、と言うより帰国してしまったのだ。
「早く、早く!」
手を引っ張る。
普段も落ち着きはないが、今日はいつにましてテンションが高い。
『はしゃいでんのか?』
受付でやはり生徒手帳を見せる。無料ではないが、入館料が半額になった。
週末ということもあり、それなりに人は入っていたが、それでも数えようと思えば数えられるくらいの客量だった。
「げんじょ、見て見て、カブトムシだぞ、ヘラクレスだ、コーカサスもいるぞ、しかしどいつもこいつも悪そうな顔しているなぁ〜」
そんな中を、ソアラは遊園地に初めて来た子供のようにはしゃいでいた。
「こっちは化石コーナーかぁ、この街で発掘された化石とかあるんだって! こーゆーのも産地直送っていうのかなぁ?」
「知らねーよ」と毒づく気も失せるほど楽しそうだった。
ついうっかり、眉間のシワが緩んで、笑みをこぼしてしまった。
二階に上がる、昔はこのあたりまで海だったらしく、「海の生き物」の展示物があった。
「ナガスクジラの全身骨格があるんだって、楽しみだねぇ」
受付でもらったしおりを見ながら、無邪気に笑っている。
「順路」と書かれた矢印にそって進む。
「右・・・左・・・右で・・・アレ? ないな?」
展示ホールについたはいいが、どこにもクジラの骨格などなかった。
順路案内もなくなっている。
あるのはあごの一部や、小型のサメの標本などだった。
「間違いかなぁ、どこだろう?」
「ぷ・・・」
思い出した。自分がここに来たときも、今のソアラのように戸惑ってしまったのだ。
「なんだよ、げんじょ? なにがおかしいの?」
思わず噴出してしまった口元を押さえながら、空いた手で上を示す。
「・・・上?」
示した指の先、そこにはちょっとした体育館と同じくらいの大きさの展示フロアの天井いっぱいに、巨大なクジラの全身骨格が吊り下げられていた。
「うわぁああ!」
「あんまりおっきすぎるんで、こーゆー見せ方してるんだ。これでも子供の骨らしいぜ?」
「デカイねぇ・・・」
十七・八メートルはあろう。
単純に十倍と言えば大したことのないように聞こえるだろうが、目の当たりにした体感から来る衝撃は、海の生き物たちのスケールの大きさを感じるのに十分だった。
「これで大人になったらどれくらいなんだろ?」
「五十メートルくらいらしいな?」
こんなものを間近で見てしまえば、そりゃあ海の男たちも神様か悪魔だと思いもするだろう。
「たしかにこれならゼペット爺さんも飲み込まれるねぇ」
「あ、オレもそれ思った」
アラビアンナイトだったかなにかで、島だと思って上陸したらクジラの背中だった、という話がある。
なにも知らなければ「気づけよ」だとか突っ込んでしまうのだろうが、これだったら間違えてしまってもしょうがないかもしれない。
そんなことを思いながら、元譲も笑っていた。
傍から見ると、本当にただのカップルにしか見えないくらいに、幸せそうに。