第40話 第九章「王子さまとお姫さま」(3)
文字数 1,451文字
数分後―――
すでに校舎に二人の姿はなかった。
全身痙攣を起こした元譲を、ソアラがため息をつきながらおぶって行った。
騒ぎを聞きつけた警察が到着するまで、あと五分はある。そうなるように手は回しておいた。
「あ・・・うう・・・」
ファランクス、かつて「F」6と呼ばれていた男が、うめき声を上げる。
やはり、とどめは刺していなかった。
当たり前といえば当たり前な話だ。
一応は「平和」な、殺される心配もなく、殺さなくても生きていける国の少年が、戦いの決着を「殺す」で終わらせることなど、思考の中にないのだろう。
倒すことはできても、殺すことはできない。
「E」13はため息を吐いた。
『なるほど、あの方はここまで読んでいたのか』
彼の任務、それは「ソアラを狙う、いずれ真の王位継承者にとっても敵となる存在を一人でも粛清する」などではない。
Sにとっては護衛役の裏の任務であったのだろうが、彼にとってはそれすらも表向きでしかない。
そもそも、現在の腐敗した王室にも、内輪争いを繰り返すNoSにも彼の興味はない。
Eの行動理由はただ一つ、彼が唯一敬意を表した男、無敵と呼ばれしGから命ぜられた、真なる任務の遂行にあった。
「いずれ、あのお姫さんの前に、アイツを本当の意味で救うことができる男が現れる」
NoSの中でまともな思考が残っている者は、とうに王国を見捨ててどこへなりに消え去った。
力を封じた者、自己の興味を満たすだけに生を使うことにした者、どこかの国に渡って教師になった者もいるらしい。
もしかしてFも、どちらかといえば彼らに近いのかもしれない。
自己の欲望に忠実に従った。偽善で口を焼かなかっただけ、彼はまだ人がましかったのかもしれない。
「だが、それだけじゃあ足りない。救うことはできても、後片付けが必要だ」
そして、Gもまた、姿を消した。
その前に、自分に一つの任務を残して。
「体のいい汚れ役だがな・・・頼まれてくれるか?」
断ろうはずもなかった。
ずぶしゅっ
「おぼっ・・・」
手刀を、Fの左胸に突き刺した。
意識はなくしていたが、まだ死に至るほどではなかったF、圧力に押し出された空気が、肺を出て喉を振るわせた。
肉を引き裂き、押し入る生々しい感触が伝わるが、かまうことなくさらに手を押し、心臓を掴む。
びちびちびちびちびち
一気に心臓を引き抜いた。大小さまざまな血管が、電気コードのように引っ張られる。
「・・・・・・・・・」
そのまま、無表情に握りつぶした。
これで、ゴミ掃除は終了だ。
シンデレラだったか白雪姫だったか、どちらでもかまわないし、どちらもだったかもしれないが、「悪い継母」の存在はボヤされたまま終わっている。
実は、エンディングで復讐され、残酷極まりない終わり方をするのだが、それは現在では「なかった」ことにされている。
自分のやっていることも、それと似たようなことなのだろう。
『しかし、あれが王子さまというわけか・・・』
ただの少年に、人外の戦闘術を仕込む、なんとタチの悪い魔法使いだろう。
いや、わずか五年でそこまでに至ったあの少年を褒めるべきか・・・
「ですが・・・『G3』だから『じーさん』、とは・・・少しセンスを疑います」
もはや聞く者のいなくなった校庭で一言つぶやくと、Eはその場を後にした。
病院に運ばれたSでも見舞ってやろう、いくらか欠けたが、そろそろ意識を取り戻したころだ。
すでに校舎に二人の姿はなかった。
全身痙攣を起こした元譲を、ソアラがため息をつきながらおぶって行った。
騒ぎを聞きつけた警察が到着するまで、あと五分はある。そうなるように手は回しておいた。
「あ・・・うう・・・」
ファランクス、かつて「F」6と呼ばれていた男が、うめき声を上げる。
やはり、とどめは刺していなかった。
当たり前といえば当たり前な話だ。
一応は「平和」な、殺される心配もなく、殺さなくても生きていける国の少年が、戦いの決着を「殺す」で終わらせることなど、思考の中にないのだろう。
倒すことはできても、殺すことはできない。
「E」13はため息を吐いた。
『なるほど、あの方はここまで読んでいたのか』
彼の任務、それは「ソアラを狙う、いずれ真の王位継承者にとっても敵となる存在を一人でも粛清する」などではない。
Sにとっては護衛役の裏の任務であったのだろうが、彼にとってはそれすらも表向きでしかない。
そもそも、現在の腐敗した王室にも、内輪争いを繰り返すNoSにも彼の興味はない。
Eの行動理由はただ一つ、彼が唯一敬意を表した男、無敵と呼ばれしGから命ぜられた、真なる任務の遂行にあった。
「いずれ、あのお姫さんの前に、アイツを本当の意味で救うことができる男が現れる」
NoSの中でまともな思考が残っている者は、とうに王国を見捨ててどこへなりに消え去った。
力を封じた者、自己の興味を満たすだけに生を使うことにした者、どこかの国に渡って教師になった者もいるらしい。
もしかしてFも、どちらかといえば彼らに近いのかもしれない。
自己の欲望に忠実に従った。偽善で口を焼かなかっただけ、彼はまだ人がましかったのかもしれない。
「だが、それだけじゃあ足りない。救うことはできても、後片付けが必要だ」
そして、Gもまた、姿を消した。
その前に、自分に一つの任務を残して。
「体のいい汚れ役だがな・・・頼まれてくれるか?」
断ろうはずもなかった。
ずぶしゅっ
「おぼっ・・・」
手刀を、Fの左胸に突き刺した。
意識はなくしていたが、まだ死に至るほどではなかったF、圧力に押し出された空気が、肺を出て喉を振るわせた。
肉を引き裂き、押し入る生々しい感触が伝わるが、かまうことなくさらに手を押し、心臓を掴む。
びちびちびちびちびち
一気に心臓を引き抜いた。大小さまざまな血管が、電気コードのように引っ張られる。
「・・・・・・・・・」
そのまま、無表情に握りつぶした。
これで、ゴミ掃除は終了だ。
シンデレラだったか白雪姫だったか、どちらでもかまわないし、どちらもだったかもしれないが、「悪い継母」の存在はボヤされたまま終わっている。
実は、エンディングで復讐され、残酷極まりない終わり方をするのだが、それは現在では「なかった」ことにされている。
自分のやっていることも、それと似たようなことなのだろう。
『しかし、あれが王子さまというわけか・・・』
ただの少年に、人外の戦闘術を仕込む、なんとタチの悪い魔法使いだろう。
いや、わずか五年でそこまでに至ったあの少年を褒めるべきか・・・
「ですが・・・『G3』だから『じーさん』、とは・・・少しセンスを疑います」
もはや聞く者のいなくなった校庭で一言つぶやくと、Eはその場を後にした。
病院に運ばれたSでも見舞ってやろう、いくらか欠けたが、そろそろ意識を取り戻したころだ。