高い記念写真を撮って以来、晴朗太は毎日の自撮りを始めていた。
鏡と違ってリアルタイムでの微調整ができない為、中々に難しい。
表情は本当に大事なようで、それだけで全然違って見える。
くっそ、眉の形も左右対称に描けてないし、ヘアスタイルも昨日のが決まってたな……
もっとも、この自撮りは自分のオシャレの為。
SNSにあげることはおろか、誰かに見せる機会もなかった。
兄妹弟3人で撮った写真。
そこに映る晴朗太は自信に満ちた顔つきで笑っていた。
そうして、晴朗太はやっとその画像は待ち受けにする。
また、恋々子に言われた通りLineの画像にも設定しておく。
これまでアイコン画像を設定していなかった人間がいきなりの変更。
しかも、自分を含めた写真。
話題性はばっちしだと、晴朗太は内心で妄想する。
タイミングの良さから、晴朗太は写真のことだと決めつけた。
それもバイトのグループLineではなく、初めての個人宛て。
晴朗太はうきうき気分で拝見し――
信じられず、項垂れる。
が、それを証するように忙しない足音が響いてきた。
『染谷君って、ココちゃんのお兄ちゃんだったんだね。びっくりー』
先輩からの初めてのLine――何度見ても、信じられなかった。
いやいや、こっちの台詞だって。
まさか、兄ちゃんの好きな人がわたしの友達だったなんて
空条日菜子は大学2年生。
更に言えば、大学も高校も神香原系列でもない。
えー、そこ?
以前にも言ったと思うけど、違う学校や年上の友達くらい普通いるってば
(確かに、そのようなことを言っていた記憶はあるが……)
それでも、なんで?
別におまえ、無断でバイトもしてないよな?
クーちゃんってまさか……おまえに美容院を紹介した?
いや、いま気づいた……
まさか先輩って藍生と付き合ってんのか?
あー、違う違う。
先輩の彼女はあのカフェにいた人だもん
うん。
確か、藍生先輩のお母さんの妹の子供だったかな
は? 兄ちゃんって馬鹿?
年上だからって先に結婚して子供産むわけじゃないっしょ?
ぶっちゃけ、わたしたちの中で兄ちゃんがいちばん遅そうだし
うっさい!
それに! それに……ぜんぜん似てないぞ?
先輩はちっちゃいのに藍生はでかいし
否定したい気持ちが先行してか、晴朗太の弁論は酷かった。
あのねぇ、従姉で性別が違ってたら似るわけないじゃん
そんな稚拙な言いがかりが、現役ディベート部の恋々子に通じる訳もなく。
それに藍生先輩のひいお祖父ちゃんだったかな?
その辺りにフランス人がいるって話だったし
は?
あいつハーフなのか?
(だとしたら、なにからなにまで気に食わない)
だからぁ……兄ちゃん、少し冷静になろう?
ひいお祖父ちゃんならハーフでもクォーターでもないし、せいぜいワンエイスっしょ?
晴朗太は素直に反省して、妹と先輩の馴れ初めに耳を傾ける。
だが、晴朗太がいた中高一貫組は校舎自体が独立している。
更に言えば、一芸入試組に悪感情も持っていたので遊びにも行かなかった。
うん。ディベート部の催しに来てくれたの。
その時、あの先輩が敬語で――それも嫌味の感じられない言葉で話してたからさ。
ついつい気になって、わたしから声をかけたの
物怖じをしない性格なのは知っていたが、文化祭に来たお客と仲良くなるなんて晴朗太からすればあり得なかった。
そこで話してたら気があっちゃって、そのまま友達になったんだ
この妹と波長が合うというのが、一番信じられなかった。
だが、晴朗太が知っている空条日菜子はバイト先のみ。
そりゃ、あの藍生先輩の親族って響きは最悪かもしんないけど。
クーちゃんは良いコだよ?
はぁ~? なんでよぉっ!
意味わかんないんですけど?
それも以前に言ったでしょ?
兄ちゃんの存在自体、恥ずかしくて隠してるって
ムカついているのか、恋々子の態度は悪かった。
そう言い放つなり、部屋から出ていく。