第28話 わかりやすい伏線回収

文字数 2,171文字

こんな、もんかな……

 高い記念写真を撮って以来、晴朗太は毎日の自撮りを始めていた。

う~ん、やっぱまだうまくいかないな……

 鏡と違ってリアルタイムでの微調整ができない為、中々に難しい。

 表情は本当に大事なようで、それだけで全然違って見える。

 

くっそ、眉の形も左右対称に描けてないし、ヘアスタイルも昨日のが決まってたな……

 もっとも、この自撮りは自分のオシャレの為。

 SNSにあげることはおろか、誰かに見せる機会もなかった。

やっぱ、プロの技は凄いよな

 兄妹弟3人で撮った写真。

 そこに映る晴朗太は自信に満ちた顔つきで笑っていた。

……そろそろ、覚悟を決めるか

 そうして、晴朗太はやっとその画像は待ち受けにする。

 また、恋々子に言われた通りLineの画像にも設定しておく。

(これは明日、バイト先で質問攻めにあうかな?)

 これまでアイコン画像を設定していなかった人間がいきなりの変更。

 しかも、自分を含めた写真。

 話題性はばっちしだと、晴朗太は内心で妄想する。

(おっ、さっそく誰かからメッセージが)

 タイミングの良さから、晴朗太は写真のことだと決めつけた。

って、先輩から?

 それもバイトのグループLineではなく、初めての個人宛て。

 晴朗太はうきうき気分で拝見し――

えっ? マジで――は?

……嘘、だろ?

 信じられず、項垂れる。

 が、それを証するように忙しない足音が響いてきた。

兄ちゃんの好きな人ってクーちゃんだったの?
 ノックもなく、妹は部屋に入るなり言い放った。
『染谷君って、ココちゃんのお兄ちゃんだったんだね。びっくりー』
……つか、マジか?

 先輩からの初めてのLine――何度見ても、信じられなかった。

いやいや、こっちの台詞だって。

まさか、兄ちゃんの好きな人がわたしの友達だったなんて

つか、おまえ高校生だろ? 

なんで先輩と?

 空条日菜子は大学2年生。
 更に言えば、大学も高校も神香原系列でもない。

えー、そこ? 

以前にも言ったと思うけど、違う学校や年上の友達くらい普通いるってば

(確かに、そのようなことを言っていた記憶はあるが……)

それでも、なんで? 

別におまえ、無断でバイトもしてないよな?

うん、してないよ
じゃぁ、なんで?
いや、クーちゃんってさ……

あーーーーー!

ちょっ!?

なにいきなり、うっさいんだけど?

クーちゃんってまさか……おまえに美容院を紹介した?
 美容師との会話を思い出し、晴朗太は狼狽する。
そだけど?
……で、そのクーちゃんに紹介したのが……藍生
あー……知ってたの?

いや、いま気づいた……

まさか先輩って藍生と付き合ってんのか?

あー、違う違う。

先輩の彼女はあのカフェにいた人だもん

てか、そんなんで恋人同士だと思うなんて……ぷぷっ

うっさい!

じゃぁ、なんだよ

従姉

……は?

いとこ?

うん。

確か、藍生先輩のお母さんの妹の子供だったかな

それは従姉だな……

いやでも待て!

それならなんで先輩のが年上なんだ?

は? 兄ちゃんって馬鹿?

年上だからって先に結婚して子供産むわけじゃないっしょ?

ぶっちゃけ、わたしたちの中で兄ちゃんがいちばん遅そうだし

うっさい!

それに! それに……ぜんぜん似てないぞ?

先輩はちっちゃいのに藍生はでかいし

 否定したい気持ちが先行してか、晴朗太の弁論は酷かった。
あのねぇ、従姉で性別が違ってたら似るわけないじゃん
 そんな稚拙な言いがかりが、現役ディベート部の恋々子に通じる訳もなく。

それに藍生先輩のひいお祖父ちゃんだったかな? 

その辺りにフランス人がいるって話だったし

は? 

あいつハーフなのか?

(だとしたら、なにからなにまで気に食わない)

だからぁ……兄ちゃん、少し冷静になろう? 

ひいお祖父ちゃんならハーフでもクォーターでもないし、せいぜいワンエイスっしょ?

……悪い。

あまりに衝撃的過ぎてな

 晴朗太は素直に反省して、妹と先輩の馴れ初めに耳を傾ける。
クーちゃんと初めて会ったのは去年の文化祭だね

……マジか?

(それなら俺だっていたぞ)

 だが、晴朗太がいた中高一貫組は校舎自体が独立している。

 更に言えば、一芸入試組に悪感情も持っていたので遊びにも行かなかった。

うん。ディベート部の催しに来てくれたの。

その時、あの先輩が敬語で――それも嫌味の感じられない言葉で話してたからさ。

ついつい気になって、わたしから声をかけたの

おまえ、凄いな
 物怖じをしない性格なのは知っていたが、文化祭に来たお客と仲良くなるなんて晴朗太からすればあり得なかった。
そこで話してたら気があっちゃって、そのまま友達になったんだ
……あり得ない

 この妹と波長が合うというのが、一番信じられなかった。
 だが、晴朗太が知っている空条日菜子はバイト先のみ。


え、なに? まさかそんな理由で諦めちゃうの?
いや、そう簡単に割り切れはしないけど……

そりゃ、あの藍生先輩の親族って響きは最悪かもしんないけど。

クーちゃんは良いコだよ?

いや、そこは別にいい。

なんつーか……

おまえと友達ってのほうがきつい

はぁ~? なんでよぉっ!

意味わかんないんですけど?

つか、おまえ俺のこと話してないよな?

それも以前に言ったでしょ? 

兄ちゃんの存在自体、恥ずかしくて隠してるって

 ムカついているのか、恋々子の態度は悪かった。
 そう言い放つなり、部屋から出ていく。
はぁ……
 そうして、晴朗太の溜息が大きく響くのであった。
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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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