第19話 出た! 藍生先輩

文字数 1,856文字

そのまま、デートにでも誘えば良かったのに
 弟が戻ってくるなり、晴朗太は投げかける
この後、高等部の先輩たちと約束があるんだって
 純朗はムキにならずに答えるも、
自分ができないことを、なんで上から目線で言えるかな?
 恋々子が噛みついた。

はぁ? 

別にそのくらい――

はい、嘘ー。

学校内で女子と一緒のとこすら、見たことありませんけど?

おまえが知ってんのは1年だけだろ?

だから? 

体育祭や文化祭で見かけなかった時点で、関係ないと思いますけど?

あ、受験生だったって言い訳は結構ですからー

 ショッピングモール内で、しょうもない兄妹喧嘩。


 弟は居心地が悪そうに距離を置き、

……あれ?
 意外な人物からの電話に出る。

もしもし? 

……え? はい、わかりました

 純朗は躊躇いながらも、電話相手の言う通りにする。
お姉ちゃん、電話
はー……い?

 ここが家ではなく、公共の場であることを思い出してか恋々子はフリーズした。

 次いで自分の携帯を見て、首を傾げる。

 と、純朗が差し出した携帯から嫌な声。

『コケコッコー。自分の住処以外で騒ぐな。迷惑だぞ』
……藍生(あいおい)先輩?
 恋々子は弟の手から携帯を奪い取るも、
もしもしっ! て切れてるし……

 相手は言いたいことだけを言って逃げていた。

 思いきや、追い打ち。

 今度は恋々子の携帯にメッセージが届く。

『羞恥心って知ってるか? 恥を知れ恥を』
……あんの人はっ!

 周囲を見渡すと、それっぽい人影を発見。

 あの背の高さ――同様に連れているふたりの女性からして、間違いないだろう。
 

 が、いかんせ距離があり過ぎる。

 それにフロア自体違うので、追いかけて間に合うとも思えない。

『その言葉、そっくりそのままお返しします。先輩こそ、恥を知るべきです』

 なので、メッセージを返すにとどめた。

 しかし、すぐさま返ってくる。

『俺は恥の合理化ができる。けど、おまえはできない。TPOって知ってるか? タイム、プレイス。さて、最後はなんでしょう?』

むきぃ!

兄ちゃん。TPOのOって何?

 見透かされていることすら腹立たしくて、恋々子はさっきまで喧嘩していた兄に助けを求める。
オケーション
 意味はわからないが、晴朗太は即答。
『俺の知っている馬鹿曰く、おけいはん、って憶えるといいらしいぞ』
 しかし、恋々子が答える前に更なるメッセージ。
『あと本気の忠告。コケコッコーのままで行くなら、店は選べよ。迷惑になるからな。わかったか? 恋々子ちゃん』
あーっ……相変わらず腹の立つ!
 その後はいくらメッセージを送っても、返ってこなかった。

純朗! 

なんで先輩があんたの番号知ってんの?

 結果、恋々子は八つ当たりに動く。

なんでって、教えてくれって頼まれたから。

それにお姉ちゃんは注意力散漫で忘れ物が多いし……

うっ!

 家から学校、学校から家――何度か忘れ物を届けて貰ったことを思い返してか、恋々子は詰まる。
 そして、中等部の人間にしてみれば高等部の教室に行くよりも部室のほうが楽という理由から、先輩たちと面識があったという次第だった。

で、これからどうすんだ恋々子ちゃん?
勝手に見んな!
 妹の携帯を覗き見て、晴朗太は怒られる。

それから、恋々子ちゃん言うな。

あの先輩が人をちゃん付けで呼ぶのは、馬鹿にしている時なんだから!

さいですか
で、兄ちゃんやお母さんたちが『ちゃん付け』するのは、わたしを子ども扱いしている時
まぁ、そうだな
むー……
 恋々子は盛大に唸り、溜息を吐いて、落ち着きを取り戻す。
うんっ、嫌なことは忘れてご飯行こう
まぁ、そういう予定だしな
 晴朗太としても、異論はなかった。

あー、お姉ちゃん。

予定していた店って、藍生先輩たちもこれから行くのかな?

なんか、来るなら早く来いってメッセージが……

 携帯とにらめっこしていた純朗が言い辛そうに添える。

んー……先輩に教えて貰った店だし、偶然の可能性もなくはないけど……

絶対、ワザとだ。

今日、行くの知ってるはずだもん!

 が、恋々子は嫌がらなかった。

 むしろ、冷静に頭を働かせる。

あー、あの人の想像通りに動いている自分が腹立つ

 とはいえ、時間帯とコースは伝えていないので、推測されたのだろう。

 もしかすると、先輩たちは暇つぶしにディベートしたのかもしれない。

 染谷恋々子が、どういったプランを組み立てるかどうかを。

……となると、なんか嫌な予感
 その予感は正しく、恋々子たちがお店に着くと顔見知りが大勢いた。
 中には純朗の想い人もおり、

……

……
……
 染谷家の3兄妹弟は、それぞれ居心地の悪さを覚えるのだった。
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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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