第8話 初めてのメンズメイク

文字数 2,475文字

(ココの部屋の入るの、いつぶりだろう……)
 想像以上に妹の部屋は奇麗だった。

 この女に整理整頓ができると思ってはいなかったので、晴朗太は素直に驚く。

洗面所は少し暗いからね。

暗い部屋でメイクすると、濃く仕上がっちゃうから絶対に明るい部屋でやること

 そう忠告して、恋々子は純朗の顔にメイクを施す。

当たり前だけど、化粧の前にはスキンケアを忘れない。

あと外に出るなら、日焼け止めも必須!

まぁ、最近のはそのスキンケアから日焼け止めも含まれている商品――BBクリーム1本で済む、オールインワンも多いけどね
 慣れているのか、純朗はされるがまま。
ちなみに、日焼け止めにもクレンジングみたいに沢山種類あるから……

 恋々子は歌うように羅列する。

 クリーム、ジェル、スプレー、パウダー、ローション、ウォータープルーフなどなど。

中にはクレンジングじゃないと落ちないのもあるから、注意すること

……了解


(オシャレって想像以上に大変なんだな)

 既に、晴朗太の理解を遥かに超えていた。

 洗顔とスキンケアだけで、正直いっぱいいっぱいである。

BBクリームは簡単よ。

おでこ、鼻、両頬、顎にちょんちょんちょんっと付けて、伸ばすだけ。

スポンジを使ってやると、ナチュラルに仕上がるかな

 だというのに、妹は先へと進める。

 喋りながら、純朗の顔にBBクリームなるものを塗り、伸ばしていく。

もし隠したいニキビ跡とかシミや傷があったら、ここでコンシーラー

コンシーラーって?

一部分を隠す為に使う化粧品。

スティックタイプから筆やペンシル、パレットと沢山あるけど、純くんには必要ないから

……俺には必要なのか?
それは兄ちゃん次第だね

なら、とりあえずなしでいい


(既にやることが多すぎるし……)

はーい。

って、こっちももう終わるんだけどね

 そう言って、恋々子は純朗の顔に粉をはたいていく。    

その粉って必要なのか?
 お化粧感が強くて――というか、晴朗太のイメージ通りのお化粧過ぎて抵抗があった。

メイク崩れを防止する為にね。

だから、色はナチュラルかホワイト。間違ってもピンクとかは使っちゃ駄目よ。

キモイから

どう? 

純くんが化粧してるってわかる?

……この距離だとわからんが。

近付いたら――

ちけーよ
 徐々に顔を近づけていくと、純朗に逃げられた。

兄ちゃん。

そんな距離まで他人に近づかれることあんの?

……ありません

でしょ? 

兄ちゃんはまず、そこをわかっていないの

自分で鏡を見た姿と、他人から見える姿は一致しないってこと
……そんぐらいわかってるって。左右が逆転するわけだし

頭でわかってるだけじゃ、ダメなの。

それによって、どれだけ見え方が変わるか――知ってる?

いや、それは……

更に言わせてもらえれば、人には利き顔があるから。

その辺りも理解しておかないと、格好良くはなれないぞ

じゃぁ、無駄な心配はよしてさっさとやる
え? やってくれないの?
見本は見せたでしょ?
……はい

 晴朗太はチューブからBBクリームを出して、顔につけてみる。

 そして、恐る恐る伸ばしていく。

……意外と難しいぞ
 ムラなく塗ることができず、何度も何度も往復してしまう。
じゃぁ、スポンジでやる?
あぁ

 化粧用のスポンジを使うと、手でやるよりはマシな仕上がり。
 そうして、パフという物を粉をはたいて完成。

 そのまま鏡を覗いてみると、

おぉ


(中々の男前)

 ――カメラのシャッター音。
はい――これが現実
 恋々子が撮ったばかりの画像を見せてきた。

……え? マジでこれ、なの?


(鏡の中の俺はいずこ?)

ちなみに自動補正ありの出来栄えだから

――んだよ!

じゃぁ化粧したった無駄じゃんか!

兄ちゃんの場合、肌質以外にも問題点があるんだから当たり前でしょ?

それに鏡を前にすると無意識に顔を作るし、自分にとって良い角度で見てしまう。

これはその違いを明確に意識して貰う為


 そう言って、恋々子は逆奇跡の1枚を押し付けてくる。
わかったから、その画像は消せ
はい、それじゃ次はちゃんと顔を作って――

えっ、ちょ待て……こうか?

はい、これが奇跡の1枚ベストショット

おぉ!


(鏡の中の俺より更なるイケメン!)

こんな風に、見るタイミングによって顔は変わる。

だからこそ、愛嬌や笑顔といった表情が大事って言われるわけ

兄ちゃんっていつも仏頂面だもんね

ほっとけ


(確かに、ココも純朗も愛嬌はあるな)

あと白浮きする場合があるから、太陽光の下でも見たほうがいいよ
あぁ、そういえばたまにいるなそんな人

まぁ、兄ちゃんなら大丈夫だとは思うけど。

白く仕上げれば仕上げるほど、バレやすくなるから注意すること

そう、なのか?

女のコから見て、羨むような白さはまず論外。

じろじろ見られて、即効バレるから。

あと、首と顔で色が明らかに違うケースもアウト

俺は……セーフか?

まぁ、そんくらいならね。

奇麗に仕上げたいのはわかるけど、完璧にできないんであればある程度は崩すべき

完璧であればあるほど、僅かな欠点が目立つから

特に、兄ちゃんは髭もあるし。

青髭自体は赤系のチークやコンシーラーで隠せなくもないけど、面倒でしょ?

あぁ、既に面倒だ

じゃぁ、今のレベルで堪えてね。

より奇麗により白くって求めると、もっともっと大変になるからさ

……わかったよ
 弟の肌と見比べ、羨ましくなるも晴朗太は我慢する。
というか今思ったんだが、このBBクリームの色ってココと違くね?
 妹の肌はこれよりも明らかに白く見える。
あぁ、だってそれ純くんのだもん
はぁ? 中学生が化粧だと?
悪いかよ?
大学生になって、慌てて妹に頭下げるよりマシだと思うけど?
ぐっ……

それに肌が汚くなってからじゃ遅いし、余計に時間とお金がかかるじゃん。

実際、兄ちゃん高校の時にいくら使ったよ? 

放置しまくって悪化したニキビを治すのにさ

うぅっ

それと、化粧は見た目を奇麗にする為にしたんじゃないから。

実際、純くんはもう化粧なんて必要ないもんねー

どういう意味だ?
これはね、内面を奇麗にする為のお化粧なの!

 恋々子はそう説明するも、晴朗太にはさっぱりであった。
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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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