第15話 美しさはどんな才能にも勝る

文字数 1,248文字

 土曜日。

 染谷家の子供たちは仲良く買い物に来ていた。

なんで、おれまで……
だって、兄ちゃんとふたりで歩きたくないもん
聞こえるように言ってんじゃねぇよ
聞こえなかったら陰口になるじゃん

あ、そうだ。

先輩が兄ちゃんのこと、ミスター凡庸って言ってたよ

はぁ?
 妹に揶揄されるのと、他人の男――しかも年下に言われるのでは、まったくもって感じ方が違った。
だから、上手くやればモテるタイプだって
はぁ? なんだそれ、からかってんのか?
 生意気フィルターがかかって、晴朗太は素直に聞けなかった。

凡庸、平凡、普通。

聞こえは悪いけど、それって他人に警戒心や恐怖を抱かせないってことらしいから

 モノは言いようである。
だから、状況次第じゃ一番モテるんだってさ
意味わかんねーよ
もっとも、相応の話術があればだけど
……ほっとけ

 知らない後輩に言われると、とにかく駄目だった。

 素直に聞く耳すら持てない。

へー、そうなんだ
 一方、純朗は真面目に耳を傾けている様子。
なんか、わかるかも
はぁ、何がだよ?
 そんな弟の態度が腹立たしくて、兄はつい八つ当たりをしてしまう。
わかんないなら、いいや

 しかし、弟は大人みたいに流す。

 それがまた癇に障って、

なんだよそりゃ。

本当にわかってんのか?

 晴朗太は大人げない態度を取る。

ちゃんと、わかってるって。

ようは話を聞いて貰えるってことだろ?

純くん、正解

まぁ、先輩は詐欺師に向いているって言ってたけど。

実際、男も女も結婚詐欺師の容姿は凡庸かそれ以下らしいよ

……ぜんぜん褒めてないな

容姿が悪いから、内面は良いに違いないってバイアスがかかるの。

少なくとも、異性を騙すような真似はしないってね

 訊いてもいないのに、恋々子はうんちくを語る。

それぐらい、容姿の影響は大きい。

美しい見た目は勉強や運動――ううん、どんな才能にも勝るって先輩は言ってた

 なんの説明もいらない。言語の通じない相手にでもわかる。
 一目見ただけで、非凡であると。

でも、学校じゃそんなこと教えてくんない。

だから、それに気付いた時――たいていは大人になってから、焦って美を磨きだすの。

お金と時間を沢山たっくさん費やしてね

ぐっ……

もっと最悪なのは、そこで今までの自分に拘ること。

日本じゃ誉め言葉みたいに使われるけど、海外だと一貫性は小物の防衛本能――柔軟性のない暗愚の代名詞なの

他に非凡な才能があれば別にいいけど、そうでないなら容姿は磨くべきよ。

清潔感のある容姿は客観性があることの証左にもなるしね

ぐぐっ……

だから、兄ちゃんが得意の勉強と一緒で一夜漬けじゃダメなの。

毎日、こつこつとやるのが大事ってわけ

 事実、焦ってお金と時間を費やしている晴朗太には何も言い返せなかった。

しかも、肌質なんかは後でどれだけ頑張っても取り戻せないのよ。

大人は思春期だから仕方ないっていうけど妥協したら駄目

常にニキビができないよう気を付けて、できたら即皮膚科に行くべし!

(その通りにしているのか、純朗の肌は奇麗だよな)
なんであれ、向上させるより維持するほうが簡単なんだから
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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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