第7話 お化粧しよ?

文字数 1,195文字

ちょっと待て、ココ。

俺に化粧しろっていうのか?

 晴朗太はここまで素直に聞いてきたものの、それだけは納得がいかなかった。

だって、兄ちゃんの目的は夏休みまでの格好良くなることでしょ?

ぶっちゃけ、肌を奇麗にするには足りないって

だからって、化粧はないだろ化粧は?

メンズメイクの市場も広がってんだけどね

知るかそんなの

欧米では政治家を始め、ビジネスパーソンには必須って言われてるんだけど?


ここは日本だ
うわー、情弱
黙れ
 この件に関しては、そう簡単に受け入れられなかった。

あのね、化粧をするのは見た目を奇麗にするだけじゃないの

……あん?
 意味がわからず、晴朗太はつい聞く姿勢に入ってしまう。

もちろん、見た目だって奇麗になるよ。

でも、今の兄ちゃんにとって大事なのはそれじゃない

なんだよ、それって?

んー、今は秘密。

どうせ、わかってくれないだろうし

はぁ? なんだそれ?
兄ちゃんって自分で理解、納得できるレベルのことしか受け入れないじゃん
 遠回しにおまえには理解できないと言われ、
そんなこと言って、何もないんじゃないのか?
 晴朗太は苛立ち混じりに言い返す。

そう思うんなら、どうぞ。

あとはひとりで頑張ってくださーい

そもそもわたしなんかに教えを請わなくたって、ネットにいくらでも情報はあるんだし
だから、あり過ぎてわかんないんだって
つまり、兄ちゃんには理解できなかったってことでしょ?
それは……
 その返しにぐうの音も言えず、晴朗太は黙り込む。

どれが嘘で、どれが本当か。

ううん、それだけじゃないね

そもそも、兄ちゃんはオシャレをするって意味を理解していない
 黙り込んでいる兄に対して容赦せず、妹は言い連ねる。
だからイケメンとか美人とか、表面的な浅~いレベルでしか判断できないんじゃない?
……
 事実、晴朗太には流行っているファッションが評価できない。あんなのの、どこがいいのかと思うことが多々ある。
 だから、絶対に真似をしないし、その良さを知ろうとも思わなかった。

オシャレってのは見せびらかすだけじゃないの。

中には、絶対にバレてはいけないオシャレもある

(整形とか?)

 晴朗太は思うだけで口にはしなかった。

 今口を開くと、感情的な言葉まで飛び出してしまいそうだったので、沈黙でもって肯定を示し、先を促す。

で、メンズメイクはそのバレてはいけないオシャレ。

だから、兄ちゃんが想像してるようにはならないって

 そう言って、恋々子は具体的な説明を始める。

するのはベースメイク。

化粧下地、ファンデーションーーまぁ、それらがまとまったBBクリームがあるから超簡単

簡単って言っても……メイクかぁ
 晴朗太はあからさまに渋っていた。

はぁ。仕方ない。

すみくーん

 このままでは埒があかないと思ってか、恋々子は弟を呼んだ。
……なに?
 昨日のことがあってか、純朗は素直にやって来た。
化粧するから、モデルになって
……別にいいけど
じゃぁ、わたしの部屋に行こうか
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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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