第20話 青春してやがんな

文字数 2,115文字

 オシャレな回転ドアを通って3人は店内に入る。

 高い天井には豪奢なシャンデリアがぶら下がっており、茶色を基調とした店内を温かな光で照らしていた。

――少々、お待ちくださいませ
(やっぱ、いるよね……?)

 晴朗太と純朗がぎこちなく待つ中、恋々子は精一杯背伸びして、店内にいるお客の顔を見渡す。
 と案の定、知っている顔の数が6人。

 しかし、大声をあげる真似はしない。

 あちらも目礼するだけだったので、恋々子は大人びた態度で返す。

どうぞ、こちらへ
 店員に案内され、3人も席に付く。
なぁ、あれって……

 少し離れてはいるが、目の届く距離。

 晴朗太はスルーできず、指さし声にだす。

はしたない真似しないの

 が、恋々子はスルーを推奨する。

 わざわざ釘を刺さされた手前、大人しくするほかなかった。

いや、藍生がいるのはいいんだが。

ほら、純朗のクラスメイトはなんで?

 想い人、と言うとしょうもない口喧嘩になりそうだったので、晴朗太は配慮した。

藍生先輩が現生徒会長と仲良いからじゃない?

まぁ、会長さんは認めないし嫌ってるらしいけど

あぁ、もうひとりの男が生徒会長なのか。

どおりで見覚えがあったはずだ

 なんとなく、晴朗太にも憶えがあった。
 中高一貫組とは別の生徒会なのでさほど絡みはしなかったものの、何度か壇上で拝見した記憶がある。

そう、高等部の生徒会長と副会長。

なんで藍生先輩なんかを間に挟んだのかはわかんないけど

おれが紹介したからだと思う

うわ、マジ?

純くんもチャレンジャーね

あの先輩を誰かに紹介するなんて、遠回りな絶交じゃない

だって、会長も副会長も知らないし……。

たまたま、おれと藍生先輩が話しているのを見たらしくて、頼まれたんだ

そこでなんで、おまえが同席しないんだ?
……紹介するだけでいいって、言われたからだよ

それで、その通りにしたわけだ。

純くん、将来女のコに放っといてって言われても、絶対に放っておいちゃ駄目だかんね

はぁ? なんだよ? 

なんでおれが悪いみたいな流れになってるわけ?

 納得がいかないようだったが、場の雰囲気に充てられて純朗の声は抑えられていた。
しかし、高いな
 HPを見て知ってはいたが、晴朗太はつい愚痴ってしまう。
コースを選べば、そうでもないって
そのコースも2千円超えてるぞ?
わたしはデザートをデセールに変更するから、3千円ね
は?

デセールって単品で頼むと2千円を超えるのよ? 

でも、コースとセットだと半額以下で食べられるの

……了解

 とても言い争いができる店内ではなかったので、晴朗太は素直だった。
 上等なソファ席に脚の高い椅子が供えられたカウンター席。

 見た感じ、学生と呼べる顔ぶれはなく大人たちが談笑している。
 
 その為、本来なら晴朗太たちは目立っていたかもしれない。
 

 だが、先に似たような顔ぶれが多く揃っていたからか誰も気に留めない。
 しかも、その内のひとりが金髪の外国人なのでなおさらだ。

(これだから嫌なのよね。こっちの攻撃性を挫くように気をつかいやがって)
 日頃の行いの所為か、恋々子は先輩からの心遣いを素直に受け取れなかった。
(つか、あいつら本当に高校生かよ?)

 藍生ともうひとりも揃って大学生に見える。

 ジャケット、襟付きのシャツ、スラックス、ローファーと似たような感じだが、自分なんかとは着こなしが違う。

(なんかジャケットにアクセサリー付いてるし、高校生が私服でネクタイ? しかも、宝石の付いた変わったリングで留めて……うわ、シャツの袖口にも宝石付いてるし)

 これがオシャレかと晴朗太は圧倒されながらも、


 

(くっそ、青春してやがんな)

 内心で吐き捨てる。

 藍生と同席している女子3人が美人だったからだ。しかもその内のひとりは明らかに外国人で、金色の長い髪が遠目からも眩しい。
 そんな本物の美人と同席していながら、他の女子たちも色褪せていない。


(男ふたりに女子が4人ってなんだよクソが……せめてどっちかがひとりなら叩けたのに)
(先輩たちと同席して、違和感ないの凄いな。たぶん、おれだと場違いだ)

 居心地の悪さというか緊張感こそ感じられるも、卑屈な気配はない。

 積極的に口も動いており、ただの置物ではないことが遠目からでもわかった。

――お待たせいたしました。
 そんなこんなで染谷家3兄妹弟は落ち込むも、食事が始まると忘れた。

……美味い。

まさか、イワシとグレープフルーツがこんなにも合うとは

パンが美味しい!

というか、バターがヤバいよこれ!

肉ー肉肉ー

 それぞれが食事を堪能しデザート。

 兄と弟はコースに含まれている小さなパフェだが、恋々子は追加料金を払ってのデセールなので、これまた豪奢だった。

凄いな、それ

 単品で2千円を超えるだけあると、晴朗太も認めざるを得ない。

 スープを注げるような深皿に白桃が丸ごと1個。

 ナイフを入れると、中からバニラアイスとフランボワーズのソースが溢れでてくる。

 他にも桃の冷製スープにかき氷のような氷菓。

 そして、飾りの飴細工と知っているデザートを超越していた。

やーん、美味しい! 

幸せ―

 それでも、コースの締めに食べたいと思える量ではない。

 恋々子は余裕のようだが、晴朗太は小さなパフェで充分だった。

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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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