第4話 兄としての沽券
文字数 1,504文字
妹では埒があかないと、晴朗太は弟に白羽の矢を立てた。
中学生に相談するのはどうかと思ったが、背に腹は代えられない。
こちらは部屋にまで赴いた。
弟は真面目に勉強をしており、急な兄の訪問に嫌そうな声で応じた。
さすが姉弟と言うべきか、恋々子と同じ対応である。
揃って顔すら向けやしない。
言い返せず、晴朗太は黙り込む。
思えば弟が中学生になってからは、たまにゲームで遊んだくらいでなにかをしてやった憶えはない。
自分の中学受験を期に、妹弟と距離が生まれた。
正確には、晴朗太が思春期に入ったのが根本の原因だろう。
その2年後、恋々子も同じように中学受験し――もっとも、妹は失敗したが。
更に2年後、純朗は合格し――現在、弟だけが思春期真っ盛りのはず。
4歳も離れていると、喧嘩はほとんどしない。
実際、思春期を過ぎてからは弟が不機嫌な態度を取っても、兄のほうに流す余裕ができていた。
それでも、最近はその不機嫌すら見かけなくなった。
一方、妹は高校生になってから劇的に変わった。
ディベート部に入り、先輩たちに感化されたのが原因らしい。
おかげで今まで以上に口喧しくなったものの、容姿レベルも抜群に上がったので一概に悪いとも言えない。
入部してしばらくはまだ見せびらかすような、子供じみた絡み方をしていた。
それが今ではどうだ。
兄を見下す態度に早変わり。しかも、理論による武装まで身に付けている。
それでいて、感情的な我儘も平気で使ってくるので手に負える相手ではなかった。
弟(中学生)の助言を聞いて、妹(高校生)に頼み込む。
兄(大学生)としては中々にやり辛いが、仕方ない。
このままではひとりぼっちの夏休みを過ごす羽目になりかねないと、晴朗太は覚悟を決めたのだった。