第6話 もみあげと化粧水

文字数 2,244文字

どうだ?
 洗顔を終え、晴朗太は求める。
なんか毛がキモい
 と、妹はいきなり喧嘩を売って来た。
は?

眉毛細すぎ。しかも左右非対称。

あと、もみあげがもじゃもじゃでキモい

……髪は2ケ月前に切ったばかりだぞ?
 眉毛は自覚あったものの、もみあげは納得がいかず言い返す。
うわっ、2ケ月も放置してんの?
……悪いか?

うん、わたし的にはあり得ない。

せめて、もみあげくらいは自分で整えないと……ねぇ?

自分でってどうやって?

 言われて見ると、気になってきたので素直に尋ねる。

 毛先が迷子のもみあげは確かに清潔感がない。

コームーー櫛を当てて、はみだした部分を切る。

あとはカミソリで整える。

陰毛みたいなもみあげって女子ウケ最悪だから、注意したほうがいいよ

い、陰毛だと?
 言うにことかいて、と兄はキレかかるもぐっと堪える。

そう。ウチのクラスのコたちも男子のもみあげ見て、影で笑ってるよ。

どんなに髪型を決めても、陰毛ぶら下げてたら台無しだかんね

 晴朗太は自分のもみあげに触れ、肝に銘じておく。

で、眉だけど。

細い眉ってさぁ、ナルシストの証拠なんだよね

なんだと?

男が気安く弄れる顔面って、眉くらいしかないから。

ついつい、触りまくって細くなるらしいよ

……

 図星だった。

 晴朗太は何かオシャレがしたくなった結果、眉毛を整えようと思い至った。

まぁ、眉が与える印象って大きいから間違いじゃないけどね。

とりあえず、その眉は伸ばそうか。

次に剃る時は、自分のキャンバスの大きさを理解してからね

キャンバス?
顔の大きさ
 恋々子は半笑いで言う。

基本的に、細い眉は女性らしさを表すの。

だから、中性的な男性がやると似合うけど、そうじゃないと厳ついか一種の病人。

たぶんだけど、兄ちゃんが好きなタイプの女性からは受けないと思うよ

おまえ、俺のタイプ知ってんのか?

どうせ真面目でお淑やかで女のコらしいってテンプレでしょ? 

それでいて自分の分際を弁えず、黒髪で化粧もオシャレもあまりしないで可愛いっていうハイスペック狙い

……
あと、身長160㎝未満の小柄ってのも付け加えようか?

 晴朗太の背は168㎝と高いほうではなかった。

 もっとも、染谷家は全員似たような感じである。

 恋々子は自称150㎝、純朗も成長期ではあるもののやっと160㎝になったばかり。

文句がないなら、化粧水付けて。

朝はオールインワン――乳液や美容液が含まれてるタイプでいいから

実際、化粧水って色々あるけどどれがいいんだ?

肌質によりけり。

ただ、女性用だから良いって考えは危ないかな。

純くんも勘違いして、わざわざ女性用の買って悪化させてたもん

……駄目なのか?

女性は乾燥肌の人が多いから、しっとりタイプの化粧水が多いの。

でも、思春期の男子って皮脂過剰でしょ?


まぁ、そうだな。

乾燥なんてした覚えがない

だから、特別に敏感とか弱いとかなければ男性用を使うべき。洗浄力なんかは男性用のほうが圧倒的に強いもん。

一方、女性用は肌に優しい反面、人によっては効果が薄く感じるかな

シャンプーとかボディソープも一緒ね。

普段は肌に優しい弱酸性でもいいけど、週に1回くらいは洗浄力の強いアルカル性で、きちんと落としたほうがいいらしいよ

 そもそも、そういったモノを自分で買ったことがないので、晴朗太にはよくわからなかった。
 それでも勉強はできるほうだったので、酸性とアルカリ性による洗浄力の違いは理解できていた。


とりあえずはこれ1本でいいんだな?

まず、習慣にしないと駄目だからね。

それである程度でも、効果が実感できたら自分に合ったのを探せばいいと思う。

こりだしたらキリがないし、お金もすっごくかかるから

了解

ちなみに、毛穴が気になるならレチノールや収れん化粧水。

あと、ビタミンC誘導体が含まれているタイプがいいから

いや、いきなり言われても覚えられないぞ
えー、頭いいのに?
瞬間的な記憶力とは関係ねぇよ
まっ、注意がいるのはレチノール系だけだから、それだけは憶えていて
つか、レチノールってなんだよ?

ビタミンA。

効く人には劇的に効くらしいんだけど、その前にレチノイド反応っていう一時的な肌荒れが起こるから

なるほど。

そこでビビらずに使い続けろってか?

そう。

ただ、濃度や量が結構シビアらしいの

らしいのっておまえは使ってないのか?

だって、基本的に中年――お母さんたちが使うものだもん。

けど、劇的な効果があるから使うコは使っちゃうんだよね

一応、お医者さんも認める効果だから、毛穴のシミがどうしても気になるってんなら試してみるのもいいんじゃない? 

けど、レチノールは副作用で紫外線に過敏反応を示すから、使うのは夜だけに留めた上、日中は絶対に日焼け止めを使うこと

うげ、面倒くさいな
あのね、その面倒くさいことをしているから、女のコは可愛くてイケメンはカッコいいのよ
それ(オールインワン)に書いてあるように、化粧水のあとは美容液(セラム)、乳液、クリーム、パックって、お肌の為にやれることは色々あるんだからね
矢継ぎ早に飛んでくる、聞き慣れない言葉に晴朗太の頭が限界を告げる。
あのさ、俺が使うそういう美容用品って、ココが買ったり管理してくれないのか?
――はぁ?

兄ちゃん、大学生でしょ? 

なんで、わたしがそこまでしてやらないといけないわけ?

いや、だって男がそういうの買うの恥ずかしいし

兄ちゃん、いつ時代の人間? 

そんな感想がでるようじゃ、次が思いやられるんだけど

次ってなんだ?
 恋々子は小生意気に片頬を釣り上げ、
メンズメイク――お化粧よ
 どや顔で言い放った。
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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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