第13話 コントロールカラー(色調補正)

文字数 1,433文字

 晴朗太は成長していた。

披露宴がある時はCCクリームを使うと良いよ
 妹には内緒で、先輩にもアドバイスを貰っていたので成長しないわけがなかった。
CCクリームって確か下地とコントロールカラーでしたっけ?

 本日も披露宴は無事終了。

 更には会場の片付け、再セットも終わっていた。


 そして、現在は休憩中。

 ただ夜の二次会は小規模なので、残っているバイトはふたりだけだった。

 

そうそう。

だから毛穴まではそんな隠してくれないけど、会場の照明の下でも目立たないし

もし他の人にバレたくないんだったらおすすめ
披露宴中は照明の数も光量も半端ないですもんね

ただ、いまいちコントロールカラーっていうのが理解できなくて……

 晴朗太は素直に尋ねる。

 先輩は優しく教えてくれるので、疑問を呈すのも抵抗がなかった。

赤みが気になる人はブルー系統。

血色を良く見せたい人はピンクやコーラルといった赤系統。

とりあえず、この2つだけ憶えておけばいいよ

色彩についてもっと詳しく知りたければ、カラーコーディネーターの教法貸してあげるけど?

いえ、そこまではいいです。

でも、先輩ってそんな勉強してたんですか?

幅広い分野で使えるし、ウチの大学そういうの強いから


 ファッションやメイク、ブライダルやデザインはもちろん、マーケティングや心理学の分野でも活躍できるとのこと。
奥が深いんですね

メイクって究極のところ目の錯覚。

ひいては人間の脳を騙すってことだからね

なるほど

 先輩との共通話題にもなる為、晴朗太はメイクに対して以前よりも更に前向きになっていた。

自分を含めて、多数の人間を騙せるって考えるとメイクって凄いですね

そうそう。

女子が言うすっぴんだって、実際はCCクリームまで塗って黒のカラコン入れてたり

いやーもう、本当のすっぴんなんて見せられるわけないっての
(……こういう時、どう返せばいいんだ?)
 異性の友人がいないからか、晴朗太は女子の自虐に対する正答がわからなかった。

そういえばカメラマンの人に聞いたんだけど、最近は加工が当たり前だからかプロが撮った写真よりもアプリで撮った画像のほうが良く感じるんだってさ。

それでクレームがあったって嘆いてたよ……

あぁ、先輩……他部署の人と仲良いですもんね

 一方、晴朗太はからっきしである。

 カメラマンはおろか花屋やプランナーとも、世間話なんてしたことがなかった。

ブライダル業界に興味あるからね。

将来を考えると、あまり明るくなさそうだから悩んでるけど

結婚する人自体が減ってますしね

他人事みたいに言ってるけど、染谷君は結婚願望とかないの?
いや、ないことはないですけど……
まだまだ遊びたい盛りだもんね
(……遊べるほど彼女も友達もいないです)
まぁ、まだ大学生になったばかりですし

 晴朗太は適当に誤魔化す。

 自分のプライドを守るのに必死で、質問を返して恋バナに発展させるなんて真似は思いつきもしなかった。

――っと、そろそろかぁ
 先輩はそう言って、リップを塗り始める。
そだ、染谷君も使ったほうがいいよ
えっ?
 先輩の唇をガン見していた晴朗太は素っ頓狂な声をあげた。

色付きのリップ。

唇の印象って思っているより大きいから

えっ? でも男がピンクとかって……気持ち悪くないですか?

見た目ほど色はつかないよ。

コントロールカラーと一緒で補正されるもん

しかも、唇の色は肌色じゃないから。

肌に塗った時と唇に塗った時じゃ印象が全然かわるよ

そう、ですね
 先輩の魅力的な唇を見て、晴朗太はとりあえず同意するのであった。
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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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