第11話 飽きるほど自分と向き合う

文字数 1,689文字

なぁ、ココ。眉毛ってどう描けばいいんだ?

 帰宅するなり、晴朗太は妹に質問した。

 バイト帰りにドラッグストアを覗いてみたものの、数が多くてわからなかったからだ。

やれやれ、やっとそのレベルまで達したんだ
は? おまえ何ほざいてんだ?

前に言ったでしょ? 

お化粧には別の意味もあるって

んあ? 

それって内面を奇麗にすることだろ?

ぶっぶー。

それもあるけど、それだけじゃないんだなー

 相変わらず、恋々子は調子に乗っていた。
 けらけらと、楽しそうに兄を見下す。
最初、兄ちゃんが拒否反応を示したようにお化粧ってハードルが高いんだよね

まったくもってその通りだ。

正直、一生縁がないと思っていたぞ

たぶん、髪型から手を付けたほうが素直にきいてたんじゃない?
まぁ、な
 実際、晴朗太にとってのオシャレはそれだった。ヘアセットとファッションを教えて貰えばいいと、軽い気持ちでいた。

でも、髪型って自分の好みが凄く出るんだ。

だから、せっかくオシャレにしてあげてもついつい触って崩しちゃったりするの

確かに……
 その指摘には覚えがあった。
 散髪の後、整髪料でセットされるも、気に入らないで崩してしまう。
つまり、勝手に触れないように化粧を選んだのか?
 化粧の場合、気に入らなくても簡単には崩せない。

それもあるよ。

兄ちゃんって素直じゃないし、純くんみたいにわたしの言うことを信じてくれないもん

それはおまえの日頃の行いの所為だろう……

でも、一番は違う。

わたしが最初に化粧を選んだのは、自分の顔に興味を持って貰いたかったからなの

 恋々子は兄の小言をスルーして、自分の言いたいままに進めた。
……自分の顔に興味?

言ったでしょう? 

化粧をすると鏡を見る回数が増えるって

でもそれって、他人の視線を意識しろってことじゃ?

そう、その通り。

けどね、その本質は――自分の顔の良いところを見つけろってことだったりするんだ

いや、ないない。

それはない

自分の顔はよく知ってる。

悪いが、お世辞にもイケメンとは思えんぞ

だから、そういうとこを治した貰いたかったんだよ……

もぉ、ぜんぜんわかってないじゃん

自分のことをブサイクだと思っている人は、そもそも鏡を見る回数も時間も少ないの。

つまり、浅い評価しかしてないってわけ

いや、だから――
はい、うるさい黙って聞いて

……

(このガキが……)

心理学の実験でもあるの。

自分の容姿にコンプレックスを持っている人に鏡を見せるってやつ

……

(心理学なんて似非科学じゃないか)

もちろん、最初の内は自分の嫌なとこばっかり目に付いちゃう。

その実験だと水着になって全身を写してたからね

(……なんという拷問)

でもね、時間が経つとそれが変わるの。

誰だって、自分には愛着があるかんね

少しずつだけど、良いところを見つけるようになるの

……

(んなわけあるか。やっぱ似非科学だな)

他の理屈として、人は同じことをずっとは考えていられない。

途中で飽きちゃうっていうか疲れちゃうの

それは……まぁ

(……わからなくはない)

つまり、兄ちゃんには自分の容姿と向き合って貰いたかったってわけ。

それも飽きるくらいにね

確かに、飽きるくらいに鏡を見た記憶はないが……

(色気づこうにも、どうせ無駄だと割り切っていた)

これは先輩が言っていたんだけど――

自分のコンプレックスばかりを気にしている内はオシャレを楽しめないんだって

あくまで、そのコンプレックスを隠すことが目的になっちゃうから
(もしかしなくとも、それはココが受けた注意なのかもしれないな)

 背が低く、幼児体型の恋々子は高校に入学した当初は似合わないオシャレをしていた。
 とにかく大人っぽいモノを身に付け、なんともいえない仕上がりだった。

まっ、先輩はもっと身もふたもないこと言ってたけどね。

そこさえなんとかすればって思ってる人は安易な整形に走るとか

とにかく、自分の顔に興味が持てたんなら次に進めるね
……そうか
 兄のほうも、先輩のアドバイスがあったからなのだが……
それじゃ、頼むよココ
 晴朗太はプライドから黙っていた。
まっかせて~
 そうとも知らず、恋々子は満面の笑みで言い放った。
兄ちゃんなりでいいから、オシャレを楽しもうね
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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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