第1話 まずは洗顔
文字数 2,038文字
自宅の洗面所にて、高校2年生の妹は母親みたいな台詞を吐いた。
それは洗顔をしてみせろと言われ、水を手ですくった際の一言だった。
まったくといっていいほど、兄を敬っていない。
ハンドソープを使って手を洗い終えると、更なる命令。
大学1年生の兄が訊き返すと、
妹は馬鹿にするように答えた。
指摘され、晴朗太は自分の顔に触れる。
と、確かに脂ぎっていた。
と、確かに脂ぎっていた。
そう言われると納得しそうになるが、
兄の沽券として晴朗太は言い返す
正論ではあるが、その意見は素直に受け入れられない。
ポンプ式。
掌に出した液体は透明で明らかにオイルの触感。
掌に出した液体は透明で明らかにオイルの触感。
妹の発言に苛立ちながらも、晴朗太は手に取ったクレンジングオイルを顔面に滑らせる。
恋々子はディベート部に所属しているからか、質問をすると論破する勢いで答えが返って来る。
そんな妹の言葉を聞きながらクレンジングをしていると、
そんな妹の言葉を聞きながらクレンジングをしていると、
段々と指先が軽くなっていく。
そのまま調子に乗って力を入れると、
そのまま調子に乗って力を入れると、
しかし、ここで言い返したら元の木阿弥。
いつまでも妹のレベルに付き合っていられないと、スルーしておいてやる。
この脂に水をかけたら、固まるに決まってる。
兄に返す言葉はなかった。
むしろ、助走をつけて殴りたいくらいに、かつての自分を責めていた。
ちょうど小鼻に力を入れていたので、晴朗太はワンテンポ遅れて返事をした。
どこか馬鹿にした響きにも聞こえたので、晴朗太は無視して作業に映る。
顔面に水を加えて混ぜてやると、徐々に白く濁ってきた。
顔面に水を加えて混ぜてやると、徐々に白く濁ってきた。
それはよくわからなかったが、
顔面が泡だらけだったので晴朗太は流しておく。
気になる眉間や鼻をこすると、鋭い叱責。
口も性格も性根も悪いが、妹は良く見ていた。
となれば、こちらも余計なプライドなど捨てるべきだった。
というか、もはや兄としての矜持などないに等しい。
とにかく、格好良くなりたい一心で、晴朗太は妹の指示に従う。
――そう、プライドを大事にして後悔するのはもう充分だった。