第18話 背が低い男の気持ち

文字数 1,494文字

純朗は?
 試着室で購入した服に着替えさせて貰い、店の外に出ると弟の姿が見当たらなかった。

ちょっと友達がいたから。

わたしと一緒のとこは見られたくないって、行っちゃった

 そう説明しながらも、恋々子の顔はにやけていた。
もしかして、あいつの好きなやつか?
さぁ、どうかな

 言いつつも、仕草からして間違いないだろう。

 嬉しいこと楽しいことがあると恋々子はじっとしていられない。幼児みたいに、頭か身体を揺らしてしまう。
 更に言えば視線が釘付けになるので、何処にいるかもすぐわかった。

あん、ちょぉっ! 

純くんにバレたら拗ねちゃうから、そんな不用意に近づかない!

おまえなぁ……

 口とは裏腹に、恋々子は兄を壁にして接近していた。 

 とはいえワンフロア下なので、バレる心配はないだろう。見下ろすのは容易いが、見上げるのは面倒である。

へー、あのコか。なんか意外だな
そう?

あぁ。あいつが、自分より背の高い相手を選ぶとはな。

しかも、なんか強そうだ

 遠目からわかるほど、身長差がある。

 またおでこを出して、少女は勝ち気な顔を覗かせていた。

あのコ、生徒会長に立候補するんだってさ

へー。

真面目というかモノ好きというか

 神香原は中高一貫なので、高校生とも関わる時がある。
 更に高等部には生徒会がふたつあり、その内のひとつには一芸入試組がいる為、奇人変人の類も多かった。

じゃぁ、純朗も生徒会に?

そう。

だから、オシャレを頑張ってるの

……なんで、そこでオシャレになんだ?

勉強とか運動とか他にあるだろう?

可愛い以外、褒められたことがないからだってさ。

思い返してみれば、わたしも可愛い以外で純くんを褒めた記憶ないし……

 言い訳するように、恋々子は語尾を濁した。
はぁ? あいつ、可愛いって言われて喜んでたのか?

ううん、純くんは嫌がってる。

でも、他に人より秀でたモノがないから仕方ないって思っているみたい

 姉と比べると勉強はできるが、兄に比肩できるほどではない。
そう言えば、あいつなんで部活辞めたんだ?

中学でバスケを始めたコに、あっさり負けたのが原因みたい

あぁ、なる
そこで腐らずに頑張っていれば、自信に繋がったんだろうけど

 部活動に入っていない。勉強も並み。

 となれば、生徒会に入るのは中々に難しい。

 エスカレート式に大学まで進めるからか、生徒会は人気であった。

それでオシャレか

うん。

なんでもいいから――ただ、あのコの隣に立って恥ずかしくない自分でいたいんだって

男なら、自分が生徒会長になるくらいの気概は見せて欲しいが
兄ちゃんにそんなこと言う資格はないでしょ?
悪い。そう、だな

というか、兄ちゃんのほうが気持ちわかるんじゃない? 

背が低いって、女子と男子で意味合いが違うんでしょ?

あぁ、全然違うな
 男の身長は、女子でいうバストサイズに匹敵すると晴朗とは思っている。
  165cm未満はAカップ、170cm未満はBカップ。

わたしには意味わかんないんだけど。

純くんは自分が好意を伝えることで、あのコの迷惑になるんじゃないかって思ってるみたいなの。

少なくとも、今の自分にはそんな資格がないって

……そうか

ふーん。

つまり、兄ちゃんにはその気持ちがわかるんだ

まぁ、な

 現にそう思っているからこそ、晴朗太はオシャレを頑張ろうと決めた。

 今の冴えない自分が好意を伝えたところで、迷惑にしかならないと。

偉いな、純朗のやつ

 自分より背の高い――いや、優れた相手に恋をするなんて。

 それでいて卑屈にならず、並んでも恥ずかしくないよう努力している。


 とはいえ、兄として腹が立つこともあった

(なんで、そこで勉強を頑張らないんだよ。それだったら、俺が教えてやったのに)
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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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