第3話 お兄ちゃんから『お』がなくなった訳
文字数 1,663文字
4月も折り返し、それぞれが新生活を送る。
そんな中、晴朗太は焦っていた。
兄妹弟の中で唯一進学したというのに、ほとんど変わらぬ毎日。
結局、新しい友人はできず。
中学の頃からお馴染みのメンバーで過ごしてばかり。
自分だけが取り残されているわけではないものの、無駄に期待していただけあって焦燥感は拭えない。
そうして、無謀にも慣れない行為に手を出した。
いつもなら鬱陶しいと思うサークルの勧誘を受け、陽キャたちの集いに顔を出し――
俺は変わると宣言した手前、友人たちがいるサークルには行けなかった。
また精神が擦り切れて、陽キャの集いにも顔を出せなくなった。
何処へ行っても気味の悪い置物。
そして、ついには本当の置物のように扱われ――置いていかれてしまった。
サークルの飲み会と言って出たので、早い時間には帰れず。知り合いに出くわすことを恐れて、夜の公園で時間を潰した。
そうしてコンビニのご飯でお腹を満たして帰り、楽しかったと嘘を吐く。
あの恐ろしく惨めな出来事をきっかけに、晴朗太のキャンパスライフは灰色に染まった。
ぬるま湯から抜け出そうとしただけなのに、成長しようと頑張ったのに最悪の結果だ。
ただ、プライドと行動力は相変わらずにあったので停滞はしなかった。
選んだのは披露宴の配膳。
まず高い時給に引かれ、こういう場なら変に絡む客もいないと判断。また、知り合いに出くわすこともなく、真面目な容姿でも馬鹿にされない。
ネットでは激務と書いてあったが、晴朗太にとっては些細な問題である。
それは一つの成功体験。
ゆえに自信がつき、次なる目標へと晴朗太は進むことを決意する。
だが、今度は慎重になっていた。
見切り発車して散々の目にあったので、当然の判断である。
身体はおろか顔すら向けずに妹は応じた。
それどころか、だらしなく椅子の上で膝を抱え込んでいる。
思春期の妹を持つ兄にとっては日常であろう。
特に年齢が近い場合、敬われることはまずない。
痛いところを衝かれた。
無駄なプライドから、晴朗太は気になる異性がいるとは言えず誤魔化す。
と、更に正論。
妹はデイベート部に所属しており――だいぶ学んだようで、やけに口が立つようになっていた。
恋々子は鼻で笑って、輩みたいに兄ちゃんと口にした。
染谷家において、晴朗太だけ『お』が付かない。
その理由は、中学生になった晴朗太がお母さんから『お』を取ったのが始まりだった。
当時の母はそれが寂しかったらしく。
そして妹と弟は母の味方をして、お兄ちゃんから『お』を取ったという次第である。
家族には言えないが、現在の晴朗太は妹にお兄ちゃんと呼んで貰いたくて仕方がなかった。