第2話 染谷家の子供たち

文字数 1,237文字

 染谷(そめや)晴朗太(せいろうた)18歳。

 この春から、大学生になる。

ふっふふふーん

 とはいえ、エスカレート式に進学したので見知った友人は多い。

 それでも、初めての出会いもあるのだから晴朗太は珍しくオシャレを試みていた。

うっわ……

 洗面台の前で髪を触っていると、妹の恋々子(こここ)が現れた。

 兄の目から見ても可愛いものの、高校2年生にしては色々と足りない容姿。

 背も胸もミニマムサイズ。それでいて髪の毛を染めたり巻いたり、兄から見れば不必要なオシャレをしていた。

(ふっ)
 浮かれていた晴朗太はどや顔を浮かべ、格好つける。
キモっ
 が、妹はそう吐き捨てて姿を消した。
……あんにゃろう

 晴朗太は怒鳴り散らしたい気持ちを必死で抑え込む。

 もう大学生になるのだ。

 いちいち、妹のやることに腹を立ててはいられない。

うーん。

少し、冒険してみるか

 髪の毛のセットを終え、調子に乗っていた晴朗太は眉毛に手を付けてみる。

 はみ出したムダ毛の処理ではなく、形そのものを変えようと……

兄ちゃん、どっか出かけるの?
 眉毛を整えていると、今度は弟の純朗(すみあき)がやってきた。
大学のオリエンテーション
へー。大学って、入学式前にやるんだ
大学によりけりだ
 まだ中学2年生だからか、弟はあまり興味がないようだった。
 それでも、じーと見てくる。
あ、悪い。邪魔だったな
 晴朗太は場所を開け、純朗は顔を洗う。
(やけに工程が多いな)
 自分が中学の頃など、朝は水洗いだけだったのに純朗は違うようだ。
(色気づきやがって)

 兄には理解できない洗顔をし、純朗は顔をタオルで包み込むように拭う。

 その後も化粧水などを付け、晴朗太の癪に障る。

(だが、俺よりオシャレだよなぁ……)

 いったいどういう髪質をしているのか、ゆるふわである。

 目もパッチり二重で涙袋も大きく、兄の目から見ても可愛らしい。

そういえば
 終わったと思いきや、

その髪型、お姉ちゃんがキモイって言ってたよ。

あと、相変わらず何もかもがダサいって。

学習能力がないの? って、愚痴ってた

 余計な感想を残して、純朗は去って行った。
……どいつもこいつも!

 いつも、このパターンだった。

 この家において妹は何をしてもいいと勘違いしているのか、平気で父や兄の悪口を言う。

 そして、弟は男でありながらも母や妹側の人間。彼女たちのメッセンジャーとなり、いちいち小言を伝えてくるのだった。

だが、俺は成長している

 自分に言いきかせ、晴朗太は自制する。

 ここで恋々子を怒ったら、それこそいつものパターンになってしまう。

そうだ大学生なんだ。

バイトもできるし、彼女を作れば……むふっ

 それは高校生でもできることだったが、真面目な晴朗太にとっては無縁な代物であった。
もう、妹弟(あいつら)になんか構っていられるか

 吐き捨て、晴朗太は新しい世界へと飛び出していく。

 

 ――そう、この時には微塵も思っていなかったのだ。
 

 まさか大学生にもなって、今まで以上に妹弟と関わる羽目になるなんて……。

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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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