第23話 格好つけるのは男の特権

文字数 1,942文字

 呼びに行くのを面倒くさがってか、恋々子は大声を出した。

 人が行きかう街道の真っただ中、

純く~ん!
 思春期、中学2年生の男にとっては堪らないだろう。
……なに?
 純朗はダッシュで顔を怒らせながら、やって来た。

藍生先輩のご指名。

癒しキャラとして、同行して欲しいんだってさ

先輩たちの中に莉子ひとりだと気を遣うだろ? 

だから、おまえも来い

……本当ですか? 

会長と副会長は知りませんけど、ディベート部の人たちなら気を遣わせることはないと思いますけど?

素直じゃねぇな。

裏を疑ってチャンスを見逃すなんて

じゃぁ、おれのこと弄らないですか?

もち、弄る。

つか、弄ってやらないとおまえだんまりで喋らないだろ?

うんうん。

純くんはそういうとこある

 姉は弟ではなく、先輩のフォローをする。

このチャンスを活かすよりも、自分のプライドを優先させたいならそれもいいがな。

その身長で人目に触れる立場になるつもりなら、恥の合理化くらいできたほうがいいぞ

……

莉子と並んだら、嫌でも弄られる。

おまえだけでなく、莉子もな。

そんな時、彼女のフォローもしないでただ自分を慰める気か?

それは……

ちょっと、先輩。

人の弟を虐めないでくれます?

 今度はきちんと、弟のフォローに回る。

虐めてねぇよ、ただの忠告だ忠告。

コンプレックスを気にしている姿は醜いか可愛いのどっちかだ。

そいつが非凡なら安心を与えるが、そうでなければ付け入る隙にしかならねえってな

確かにそうかも。

でも、大丈夫。

純くんの場合は、もちろん可愛くて安心感を与えるほうだから

おまえは知らんかもしれんが男の嫉妬、競争心も中々に醜いぞ。

年下に絡む男は特に最悪だ。

で、ウチは中高一貫だからその手のクズもそれなりに多い

んー、否定はしませんけど……

結局、同年代の人間と恋愛できない奴が年下や年上に手を出す。

つまり、良くも悪くも同年代から弾き出された人間だ。

問題があってしかり、だろ?

意義あり! 

それは極論すぎます

簡単な話だ。

年上はおまえの我儘を許せる。年下は許容せざるを得ない。

けど、同年代は無理だ。

実際、おまえ同学年に疎まれてんだろ?

疎まれてませんっ! 

ちょっと女子から嫉妬されて、男子から引かれてるだけです!

それで喋るペースも毒も控えている

……そりゃまぁ、そうですけど。

そんなの当たり前じゃないですか!

そう、当たり前だ。

同年代は対等ゆえに、自由に振舞う傾向が強い。

結果、どうしたって揉め事が多くなる。

そして、それを避けようと年上や年下とはまた違った気の遣い方をする

全員が全員、そうじゃないですけどね

あぁ、そうだ。

そして、そこで切磋琢磨できなかった人間が年上か年下に逃げる。

すなわち、対等な人間を素直に認められなかった連中だ

それは違います! 

恋愛は理屈じゃないんですよ? 

それに成長速度は人それぞれです。個体差を無視して語れません

お、だいぶ頭が回るようになってきたな

 ディベートにおいて感情的な言い分は認められないが、使いどころを間違えなければ強力な武器になる。
 とはいえ、マニュアルに拘る人間には絶対に使えない。
……というか、おれを放ってディベートを始めないでください

 ここで純朗が口を挟む。

 正確には、やっと挟む隙ができた。

藍生先輩、おれも同席させて貰っていいですか?
 そして、頭を下げて頼む。

もちろん。

もともと、俺が頼んだんだ

はい。だからこそ、おれも同席できるんですよね? 

だから、お礼を言っておきます

どういたしましてだ。

けど、そういう感じは悪くない

そういう?

恰好良いってことだよ

別に格好つけたわけじゃ……

純朗、格好つけんのは男の特権だぜ?

隙あらば、おおいに恰好つけろ

……はいっ!
つーわけで、弟借りるぞコケコッコー

ちゃんと返してくださいよ?

できれば、お土産も持たせて♪

それとコケコッコー言うなっ!

了解、ココ。

つか、いつまで兄貴を放っとくつもりだ? 

ずっと、こっち見てるぞ

……
あっ、忘れてた

ひでー、妹だ。

でも、許してくれんだろ?

じゃないと、おまえがここまで我儘に育つわけないもんな

わたしの性格に兄ちゃんは関係ないですって

そうか? 

一緒に暮らしてなくても、ウチの義妹たちは俺の影響受けてるんだが

そりゃ、藍生先輩は質の悪い猛毒ですからね。

ウチと一緒にしないでください

そりゃ失礼
 そう言って、藍生先輩と純朗は背を向けた。
純朗はあっちに行くのか?
 恋々子が戻ってくるなり、晴朗太は問う。

うん。

癒し系キャラとして必要なんだってさ

なんだそりゃ?
兄ちゃんに理解させるのは面倒だから、パスで
おまえなぁ……
 そうして、兄妹は歩き出す。
(しかし、久しぶりだな。ココとふたりで歩くのは)

 とはいえ、無意識の内に歩幅は揃っていた。

 それは染みついた習性のように――

 そうして、長い長い買い物が終わるのだった。
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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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