第9話 メンズメイク・マジック

文字数 1,238文字

もちろん、お化粧は見た目を奇麗にする。

でも、それ以上に内面――ううん、日常生活において色々と奇麗にしてくれるの

 恋々子はドヤ顔で説明する。

まず、単純に鏡を見る回数が増える。

更に言えば、他人からの視線を意識するようになる

そりゃ、そうだな
 部屋にいるだけなのに、晴朗太は既に何度も鏡を見ていた。

次に、自分の顔を不用意に触れなくなる

ニキビとか酷い人ってさ、ついつい自分で触っちゃってるのが原因なの。

でも、化粧をしているとそれができない。

崩れちゃうかんね

なるほど

だから、汗や涙がでてきても手でこすらず、ハンカチで丁寧に拭うようになる。

更には、何度も身だしなみをチェックするようになる

その結果、自分の顔に注意を払うようになるってわけ
つまり、純朗にはもうその所作が身についていると?

うん。

だから、純くんにはもう化粧も必要ないの

 どおりで中学生男子にしては、落ち着いて見えるはず。
兄ちゃんの場合は毛穴の開きが酷いから、身に付いた後も必要かもね
うっせー

それでも、毎日は駄目だかんね。

そうすると、できない時に不安になったりしちゃうから

……あり得るな

あと次第に物足りなくなって、どんどんエスカレートしかねない。

ビジュアル系でもないのにアイラインを引いたり、マスカラを乗せたりね。

正直、わたしとしては兄ちゃんにそうなって欲しくないかな

そうか

それと毎日だと、他人からもバレやすくなる。

だから、ここぞって時――人前に出たり、目立つ際にするといいよ。

遠目からだと、化粧した顔は抜群に格好良く見えるし

 いつの間にか、恋々子は部屋のベッドの隅にいた。

 つまり、そこまで離れてやっと兄が格好良く見えるのだろう。

とりあえず、奇麗になる為の所作が身に付くまで、化粧を心がけるように。

もちろん、極端に汗をかくことがわかっている日は避けていいから

了解
まっ、それでもCCクリームくらいは使ったほうがいいかもだけどね

CCクリーム?

ってなんだ?

んーとね。

もともと、ベースメイクっていうのが化粧下地+ファンデーション。

で、その2つが纏まったのがBBクリーム

そして、CCクリームは化粧下地+コントロールカラー

コントロールカラー?

簡単に言うと肌色補正。

肌が赤っぽい人はブルー系で目立たなくしたり、青白い人にはピンク系で健康的に見せたりするの

うーん、わかったようなわからないような……

とりあえず、BBクリームよりもカバー力は低いけどナチュラルに仕上がるって思えばいいよ

CCクリームだけなら、まず気づかれないと思う。

そのぶん、カバー力っていうか違いも分かり辛いけどね

了解

純くんからはなんかアドバイスある?

あくびとかして、涙を流すと跡が残るから気を付けたほうがいいかな。

あと頬杖つくのも駄目だし、食べ方も注意しないと。

口の周りを拭う時とかさ

意外と面倒だな
女子が毎日やってることよ
(高校生の分際で何言ってんだか……。だが、しかし)
 鏡に映る自分を見て、晴朗太はやる気を出す。
(ふっ)
 こうも違いが明らかだと、やる気がでるというものだった。
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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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