第24話 メンズエステにおける魔の手
文字数 2,005文字
洗顔からのスキンケア。
そして、その流れに乗ってのメイクアップ。
そう、メンズメイクという高いハードルを最初に超えた所為か、晴朗太は聞き分けが良くなっていた。
髪は正直、清潔感があればいいかな?
兄ちゃんの場合、変に頑張り過ぎてもアレだし
そう言って、恋々子はお勧めの美容院を教えてくれた。
ついでに眉毛も整えて貰うといいよ。
自分で最初から形作るのは難しいから。
プロにやって貰って、それを維持する方向で
気付けば、妹に言われるがまま。
オシャレな服を手に入れた今、美容院くらいなんてこともなかった。
(ふっ。ここまでの試練を乗り越えた俺に怖いモノはない)
と、晴朗太は心の中で自画自賛をする。
犯罪者の更生に整形が有効なように、人は見た目を変えるとどんどん見違えていく。
良くも悪くも――人間は視覚に依存した進化をしてきたからであろう。
そんな風に、晴朗太が余裕をぶっこき始めたある日。
コンプレックスを受け流せるほど、晴朗太の器は大きくなかった。
一方、かなり奇特な先輩に鍛えられている恋々子には余裕があった。
あのねぇ、それくらいお店が配慮してるって。
ああいうところは、店内で誰かと鉢合わせないようになってんの
向こうはプロなんだから。
兄ちゃんみたいな男の心理は丸わかりだって
バイト代のほとんどをオシャレと恋々子に集られている現状、出費が増えるのは勘弁して欲しかった。
んー、微妙かな?
でも、お店は何件かあるからハシゴすれば問題ナッシング
いや、わかる。
ようは通える距離にあるメンズエステ全店の初回サービスを受けるってことだろ?
それっていいのか?
その、晒されたりブラックリストに載ったりしない?
えー、わっかんないの?
先輩とはすいすい話が進んだんだけどなー
えーとね。
エステとかって、ひとりでも通ってくれればかなりの儲けがでるから勧誘が凄いんだ
初回サービスはいわゆる撒き餌。
そうして、釣られた客を逃がさないように強引な営業をかけるとのこと。
しっかりした人なら大丈夫なんだけど、兄ちゃんは怪しいからなぁ
だから、最初から逃げ道を作っておくの。
他のお店も試す予定なので、まだ決められませんってね
見栄を張りつつ、自分のプライドを守りながら断ろうとすると、押しにやられる危険性があるって先輩は言っていたかな?
素直にお金がない、と言える人なら問題ない。
ただ、何故かそこで見栄を張る人間が多かった。
他にも、初回サービスが安いから来ましたと、宣言できなかったり。
身もふたもないことを言えば、男は乞食やケチと思われるような言動を取れない傾向が強いとのこと。
あとは、嘘を吐くのに抵抗がある人。
そういうタイプも中々断れないで、押しにやられるみたい
そういった人にとっていいのが、他の店も試すからもう少し待ってね戦法。
これなら嘘じゃないし、本気で選ぼうとしている感もでるから
バレたところで、案内ハガキがか営業電話がくるくらいだよ?
どっちも無視すればいいだけじゃん
ようは敵地での説得を避けられればいい、と恋々子は説明する。
かといって、最初から冷やかしと思われるのも嫌でしょ?
たとえ事実でも、貧乏人と思われるのは気分がよくない。
エステに行く人って、ただでさえ自分の容姿にコンプレックスがあるの。
だから、奇麗な空間で奇麗なスタッフに説得されるってのは居心地が悪くて、かなりのストレスになる
そして、弱い人――ストレスに耐性のないタイプはそこから抜け出したくて、ついつい応じてしまう。
それとは違うかな?
酷い押し売りだったら怒って帰れるもん。
タイプとしては真綿で締めるようなモノ
優しい言葉、相手を思いやる気遣い。
ただ突き放すには罪悪感を伴う、そんな説得。
というわけで、今月はエステのハシゴ。
それが終わったら、最終試練ならぬ最後の指導に入るから頑張って
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