第14話 母親が買った服はどうしてダサいのか

文字数 2,248文字

(……リップだけでも色々あるんだな)

 先輩にアドバイスを貰った翌日。

 大学からの帰りに立ち寄ったドラッグストアで晴朗太は途方に暮れる。

(けど、先輩が言うには大事なオシャレだ)

 曰く、女子は好きな人の目を見れない結果、口元に視線が落ちるらしい。そこで素敵な唇をしていればかなりのポイントになるとのこと。


――よし
 晴朗太は意を決してピンクコーラルのリップを買い、外で使ってみる。
 試しに手の甲に塗ると、色がつき過ぎてビビるも――

……いや、先輩は補正されるって言ってたな。

唇は肌色じゃないから……

 そう言って、晴朗太は最近になって持ち歩くようになって小さな手鏡でもって確認。


……確かに、そんな目立たないな。

これが色彩の対比効果ってやつか?

 これならもっと濃い色でも――そう思うも、留まる。

でも、男の人って女のコと比べて色彩を見極める能力がないみたいだから。

色がついた気がしないからって、濃い色を使うのは止めたほうがいいよ

(いや、ここは先輩の忠告をきいておこう。それにメンズメイクはなんとなくのニュアンスが大事だってネットに書いていたし)

 そう納得させ、晴朗太は歩き出す。


 ただ僅かとはいえ、せっかくいつもと違うオシャレをしたのだからと寄り道をしてみた。

……やっぱ、服も買うべきだよな
 普段なら、寄り付かないアパレルショップ。
 店員に声をかけられるのが怖くて、遠くから眺めて晴朗太は独り言ちる。
流行りの服はいらんが、もっとイイ感じの服が欲しいよな

 センスが変わったのか。

 それとも、物の見方。
 もしくは心構えが変化したのか、晴朗太にも格好いいと思える――欲しいな、と思う服がいくつかあった。

けど、俺に似合うのか?

 自分のセンスに自信が持てない為、二の足を踏んでしまう。

 となれば、晴朗太が取るべき手段はひとつだった。

お~い、ココ~

 まるでドラ〇も~ん、である。
 最近の晴朗太は帰るなり、妹を呼んでいた。

なぁ、ココ。

もしかして、俺の私服ってダサいか?

 今日は自室にいたので、ノックをしてから求める。
 妹はベッドの上で寝転がってスマホを観ていた。
ダサいよー

 スマホから視線が外れたのが1秒足らず。

 にもかかわらず、恋々子は言い放った。

少しは考えろよ

だって、考えるまでもなくダサいし。

それにさ、その服ってお母さんがだいぶ前に買った奴でしょ?

よく憶えているな……

あまり成長しなかったから、サイズ的には問題ないんだろうけどさ。

外で着るのはさすがにねぇ

それに兄ちゃんは何を着てもオシャレに決まるタイプじゃないもん
そういうおまえは?

わたしだってそうだよ。

この身長だから、気を付けないと子供っぽく見えるもん

(確かに、ココより背が高くて胸の大きい小学生もそこそこ見かける)
かといって、大人っぽいデザインだとそれはそれで背伸びをしている子供になるから大変なの
(それでも、今の恋々子を見て小学生と見間違うことはない、な。それどころか中学生と思うことも……)
そういやおまえ、いつからそんなオシャレになった?

 少なくとも、高校に入ったばかりの頃は違ったはず。
 同じ学校だったので校内で見かけることもあったが、同級生と比べて明らかに幼く見えた記憶がある。


ディベート部に入ってから。

先輩たちに色々教えて貰ったの


へー。そりゃいい先輩に恵まれたんだな

――は?

冗談じゃない!

 晴朗太の感想に対して、恋々子はキレだす。

毎日毎日! 

わたしに似合う髪型だのお化粧だのファッションだの! 

暇つぶしのディベートのネタにしやがって……!

(それは中々に悲惨だな)

文句を言ったら『コケコッコー、朝じゃないのにうるさいぞ』って! 

あー、思い出しただけでも腹が立つっ!

え、なに? 

おまえ虐められてんの?

違うっての! 

藍生(あいおい)先輩に弄られてるだけ

あー、例の

 稀代のトラブルメーカー。

 中学生の時、とある行動がネットで晒され全国ニュースにもなった男。
 

 結果、警察と病院の常連となり――面倒な生徒が多い歴代一芸入試組の中でも、ぶっち切りにヤバい奴だと入学前から噂されていた。
 

 その為、独立した校舎を持つ中高一貫組の晴朗太ですら名前を知っていた。


つか、藍生ってディベート部だったのか?

 体育祭や文化祭を始め、様々なイベントにでしゃばっていたのは晴朗太も憶えている。

 あの男は謎の創作競技を引っ提げて全校を巻き込んでいたので、嫌でも記憶に残っていた。

なんかディベート甲子園のヘルプで呼ばれて、そこでやらかして出禁になったショックで多くの部員が辞めたから、都合よく乗っ取ったって言ってたよ

あっ、そう

(噂通りロクでもないな)

でも趣味とセンスはいんだよね、あの人。

その所為か彼女も友達も超美人で可愛いし。

ってか、先輩には勿体ないくらいみんな優しいし

じゃぁ、ファッションに関してはおまえに訊いても無駄なのか?

 このままでは、ひたすら愚痴を聞かされそうだったので晴朗太は話題を戻す。

 加え、噂だけでも嫌っていた藍生に美人の彼女がいるなんで聞きたくなかった。


うーん。

純くんだったら着せたい服がいっぱいあって楽しかったけど……兄ちゃんじゃなー

ほっとけ、このブラコンが
とりあえず、先輩に訊いてみる
いや、別にそこまで……

 恋々子にとっては先輩でも、晴朗太にとっては年下の後輩。

 更に言えば、絶対に関わることがないタイプの男。

 正直、お世話になんてなりたくない。

はい、撮るよー
――って写真撮るなよ!

 そんな兄の気持ちなど露知らず、恋々子は勝手に写真を撮って先輩に送るのであった。

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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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