第27話 1万円の記念写真
文字数 2,153文字
晴朗太は心の中で項垂れる。
写真自体はどうでもいいのだが、請求される額を思うとやはり腑に落ちなかった。
そんな風に思っている最中にもスタッフ――メイクアーティストの方々は忙しなく動いていた。
もっとも、晴朗太は奇麗な女性ふたりに囲まれて身動きすら取れない。
ひとりが髪、もう片方がメイクを担当しており見る見るうちに見栄えが整っていく。
スタッフは真剣に取り組んでいるのか、色々と無防備だった。
とはいえ、目の前に大きな鏡があるので不躾に見ることはできない。
身体と身体が接触する度に、晴朗太は硬直するもどうにか真顔を保つ。
本日はフルメイク。
だが、遠目からではそのようには見えない。
あくまでナチュラルーー健康的な仕上がりとなっていた。
見目麗しい芸能人たちを思い浮かべ、晴朗太は敗北感に打ちひしがれる。
昔はビジュアル系以外メイクなんてしていないと思い込んでいたが、今は違う。
目立たない――健康的で奇麗な顔に見せるメイクもあると知ってしまった。
ヘアセットもそう。
自分がやるとべたべたになるのに、プロだとナチュラルに変幻自在である。
ドライヤーのかけ方に所要時間。
手間のかかりようを考慮すると、難しいだろう。
少なくとも、バレてはいけないオシャレになら投資する価値はあると、晴朗太は思うようになっていた。
案の定、真っ先に晴朗太の準備が整い、ほとんど大差なく純朗も終了。
それは嫌だったのか、純朗は素直に謝った。
いったいどういう風にセットしているのか、弟の髪の毛はふわふわである。
スタッフに誘導され、場所を移動する。
そうして、撮影が始まった。
まずは自然体で。
その後、色々とポーズを求められるもこれが辛い。
友人間でも、あまり写真なんて撮ってこなかった。
両親に撮られることがあっても、真顔で済ませていた。
そのツケというべきか、晴朗太はとにかくぎこちなかった。
30枚撮ったところで、確認作業。
全員で写りを確認するなり、恋々子が注意する。
スタッフもいる中で注意され、晴朗太はとにかく居た堪れない。
完全に憶えのあるフレーズ。
しかし、知らない晴朗太は素直に感心している素振りだった。
そうして、長い長い撮影が始まる。
洒落たポージングに満面の笑みなんて、らしくないと思いながらも晴朗太はやってのけた。
この際、自分のことはどうでもよく――ただ、妹が満足する仕上がりを求めて頑張った。
果たして、仕上がった写真は――
純朗は中学2年生らしい反応。
だが、晴朗太も同意だった。
自分たちがモデルのように振舞い、奇麗な背景に映っている姿はなんとなく気恥ずかしい。
そんな現金なことを思いながら、何十枚と撮った写真のデータが全て入ったディスクと引き換えに、晴朗太は万札を3枚も支払うのであった。